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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第三章 ロデウロ編
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87、私は涎が溢れる

「おうシユウじゃねえか! いつの間に帰って来てたんだよ! 次返ってくるときは事前に連絡しろって言ったろうが! いつも突然帰ってくるからこっちは仕入れが間に合わねえっつうの!」

「わざわざんなことしなくてもいいって何度言ったら分かるんだよ! つーか昼間っから酒飲んでんじゃねえ! また嫁が出ていったーとか泣きついてきても助けねえからな!」

「おいおいシユウよー、ロックのおっさんの話なんかどうだっていいだろうがよ。問題は、今回こそ例の恋人さんをお前が連れてきてるのかってことじゃねえの? うん?」

「お前は少し見ない間に随分と精神的に老けたこと言うようになったな! つーか前帰って来た時はガエンだって好きなやつできたから陰ながら応援しててくれとか言ってなかったっけ?」

「嫌なこと思い出させんじゃねえよ!」

「知るかよ! 失敗したことの責任をこっちになすりつけんじゃねえ!」

「シユウシユウー! 久しぶりだな! 俺ら身長結構伸びたぞ!」

「こりゃあ俺らの方がシユウよりもでかくなる日も近いなって父さんいっつも言ってんだから!」

「マグの方が特にでけえな。まじでそう遠くないうちに抜かされるかもな。でも、マガの方はそうでもねえな? 双子なのにここまで差が付くとは……、お前には抜かされる心配はねえな?」

「なんだとこらー!」

「ガエンってば振られた夜に私に連絡してきたのよ! 信じられる!? そもそもそういう愚痴みたいなのを聞くのは普通に考えてあんたの役目でしょう!」

「俺だって色々忙しいんだよ! それに別にそのくらいいいだろ! ソラだってなんだかんだ言っても話せるんだからばあ!?」

「余計なこと言ってんじゃないわよ!」

「なんじゃいつの間に帰ってきた? お前が帰ってくるとこうして騒がしくなるから当分戻ってくるなと言って送り出した気がするがな?」

「相変わらず一言多いなこのジジイは! 忘れてるのかもしれないけど第二王子だぞ俺は! 何で帰って来て文句言われなくちゃならないんだよ!」

「まあ、駅の近くはコアの爺さんの毎日の散歩ルートだしな。照れ隠しみたいなもんだよ」

「ガエン! 貴様は口を開けば余計なことばかり!」

「そもそもこんな時間からここにいるんだから、お前ら全員俺が帰ってくるの分かってたんだろうが!」


「……騒がしすぎませんか?」

「ええまあ、シユウ様が帰ってくるというのが一種のイベントと化している感は否めませんね。あまり大声では言えませんが、国を治めるという点においてシユウ様は圧倒的に劣っていますが、国民からの人望という点では異常なほどに突出していますからね。年に数回しか返ってこないシユウ様が帰ってくるとなったらもう駅前はお祭り騒ぎですよ」

「それは、実動担当としての活動の中で、ということでしょうか?」

「そうですね。実動担当として機関から認められて以降の功績は目覚ましいものがあります。国内で暴れていた犯罪集団を一人で制圧したり、七か国のはぐれ者が集まった盗賊もどきを制圧したりと、王族らしからぬ活躍なのですよ」

「……王族らしからぬ、ですか。確かにそこまで荒事を一手に引き受けているというのは、真っ当な王族の方であれば本来あり得ない話なのでしょうね。ですが、確かな人望と信頼がここにはある」

「ですが、それが少しばかり問題となっている面もありまして……」

「問題ですか?」

「シユウ様を次期国王にしようという動きが少しばかりみられるのです。シユウ様本人も、自分は国王としては相応しくないと公言しているにもかかわらず。過度な人望は民衆に望まぬ暴挙を起こさせるものですが、まさかという感じではありますね」

「シユウ様が国王になってしまうと、結果として私は王妃になってしまうので絶対に避けたいところですわね。その件に関して対策は成されていないのですか?」

「まあ、思想は自由ですからね。シユウ様が国王になればいいのに、と思っている程度ならば、正直打つ手がありません。それを現実にするためにジエイ様へ何かしらの妨害活動などを行ったりすれば、話は別ですが」

「国王を擁立するために国に反逆しては意味がありませんものね。本末転倒です。……ふむ、しかし、シユウ様と結婚するなどと正式に発表したら、私はかなりの恨みを買うことになるのでは?」

「可能性はありますね。噂程度に聞いた話ですが、シユウ様のファンクラブなんてものも存在するらしいので。まさかその会員も自分がシユウ様といつか結婚できるなどとは思っていないでしょうが、結婚を発表すれば恨みが向くということもあり得ない話ではありません」

「……まさかここまでとは。……ところでグースさん、先程から私のお腹を刺激するとてもいい匂いが漂ってきているのですが、少し行ってきてもよろしいでしょうか?」

「行ってきてもよろしくはないですね。この状況でアンナ様を単独行動させるわけがないでしょう。行くとなれば私がついていきます」

「ではお願いします。そろそろ我慢の限界です」


 駅前というのはどの国も観光客をターゲットとした出店などを開くのにうってつけの場所らしい。五月初頭というこの時期は特に観光客が多いのだろう。さらに今日はシユウ様が帰ってくるというイベントまである。駅前が盛り上がらないわけがない。そして先程から私の目を奪っているのはあの屋台。


 串に貫かれた鶏肉が火で炙られてその香りを広範囲にまき散らしている。まだ朝早い時間帯ゆえに空いてはいるけれど、胃袋を刺激されている人は少なくないだろう。屋台の暖簾に大きく書かれた『焼き鳥』の文字。今回私がロデウロに来た目的の一つであると言っても過言ではない。


 なんでも屋台で買ったものを食べるのは、家で食べるよりも三倍増しで美味しくて満足感があるのだとか。しかもロデウロという肉と魚の国で食べればそれ以上のはず。先程から口の中に涎が溢れて止まらない。はしたないと分かっていても止めることが出来ない。


 このためだけに結構な額を財布に入れてきたのだ。たとえどれだけ法外な値段だろうと満腹になるまで買ってやるのよ。美味しくなかったら屋台ごと潰すけどね。正直ここの焼き鳥が美味しかったらもう帰ってもいいかもしれない程度には思っている。


 私は屋台の横に立ててある看板に書かれたメニューを見る。ふむ、シンプルなラインナップね。変わり種が無いからこそ、逆に信用できる気がする。ていうか安くないかしら。採算取れてる?

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