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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第三章 ロデウロ編
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86、私は歩く

 セブンスヘブンの緊急停止位置からロデウロまではかなり近かった。具体的に言うならば歩いて到着出来る距離だった。私は日頃からの鍛錬で体力はあるし、シユウ様は言わずもがな、グースさんもシユウ様に付いて回っているのならその体力に心配の必要はないだろう。まあそういう判断で、私達は歩いてロデウロへと向かうことになった。


 列車の緊急停止ボタンが押されたというのは、おそらくはほとんど同じタイミングで七か国に伝わっているはずだけれど、それを受けて自分達を迎えに来た奴等が敵じゃないとは限らない、というのがシユウ様の意見だった。私もグースさんも概ね同意見だったので迎えを待つことなく、とりあえず歩き始めた。


 問題点としては運転席に取り付けられていた複数の通信機器全てが繋がらなくなっていたところだろうか。繋がらないような状態にされたのか、それとも何かしらの要因で故障してしまったのかは分からないけれど、それを偶然の産物だと考えられるほど私達は楽観的ではなかった。


 私達の携帯からロデウロに連絡を取ることは可能だったけれど、危険性を考慮して連絡はしなかった。助けを求めるのとこのまま三人で行動するの、どちらがより危険かと言われると何とも言えないところではあるのだけれど。まあ、ロデウロが見えるような場所で王族を襲撃する愚か者もまさかいないだろうと考えてのことではある。


 そんなわけで移動をしているのだけれど、シユウ様の空回り具合が凄い。割といつも通りに見えないこともないのだけれど、これをいつも通りと言ってしまうと私の立場的に色々面倒なことになる気がするような空回り方だ。シユウ様が意気消沈しているようなところって見たことなかったけれど、こんな感じになるのか。


「……グースさん、これどうにかならないんですか? 何に対して落ち込んでいるのかは分かりませんが、正直面倒なんですが」

「貴女は本当に正直者ですね。ですがまあ、心配の必要はないと思いますよ。シユウ様はどうせ、ロデウロに到着したら嫌でもいつも通りに戻らなくてはならないのですから」

「……? 嫌でもって、どういうことですか?」


「うーん、失敗したなあ……、いや、失敗ではないのか……? でもなあ、もうちょいやり方あった気がするんだよなあ。そもそも出発した段階で俺が気づけてれば……、どうにもならなかったか? どうせ生きてんだろうし、次会ったら絶対ボッコボコにしてガチ説教してやるあの双子……」


「……あー、もー! 後ろからグチグチ煩いですわね! 失敗を引きずってないでもっとシャキッとしてくださいな! ほら、背筋伸ばして! 足元じゃなくて前を見て!」

「……この間みたいに話しかけてくれたら元気出るかもなあ」

「……………………シユウ! さっきのことはもう忘れなさい! どうせ生きてるんだから! 落ち込んでるのか沈んでるのか知らないけど、いつまでもそのままだと嫌いになるわよ!」

「それ困るな! 凄え困る! はい元気元気! めっちゃ元気になりました!」

「よろしい! ……というわけでボーナスタイムは終了ですわね。グースさん、今の会話はどうかご内密に……」

「ふむ、まあ構いませんが、別に無理をして口調を正す必要もないかと私は思うのですがね。どうせその内、そちらの口調が普段使いのものになるのでしょうし、何をそこまでこだわっているのか、私には理解しかねます」

「そーだそーだ!」

「シユウ様はお黙りください。縫いますわよ?」

「どこを!?」

「……確かに、今更シユウ様相手に気を遣っても仕方ないことなど重々承知していますわ。馴れ馴れしい口調どころか、ある程度の暴言を吐いたところで、そこの王子は笑って流すだけでしょう」

「いや、暴言なら今でもある程度言われてるような……」

「お黙りください、結びますわよ」

「結ぶってなに!? 人体を結ぶってなんだ!?」

「しかし、あくまでも私達の関係は未だ非公式非公認なのです。ふとした瞬間に公の場で馴れ馴れしくシユウ様に話しかけたりなんかした日にはもう、シーツァリアが何を言ってくるかなど分かったものではありません」


 加えて言うならば、両親が何を言ってくるかも分からない。少なくとも母の方は発狂するんじゃないかって程度には騒ぐでしょうね。正直、フォーマットハーフ家の存続は私の縁談にかかっているところが最近出てきているし。やっぱりあの二人じゃ家を支えるのには無理があるのよ。もう少し早く自覚していればまだましだったかもしれないのに。


 まあ、私が第一王子と結婚したところで、フォーマットハーフ家の跡継ぎがあの王子信仰者じゃ吸収も時間の問題だと思うけどね。そういう意味じゃ、結局どの道を辿ってもうちが迎える末路は変わらないとも言える。シーツァリアが組織の巣窟になりかけている現状を考えれば、むしろ早めに脱出した方がいい気はする。するのだけど。


 それで火に油を注ぐような結果になるのは控えたいし、私の心配の一番の元はあの妹だ。危機管理能力とかそういうものから本当に無縁なあの妹を滅ぶ一歩手前みたいな国においておくのは心なしか心苦しい。別になんだかんだ言っても妹が大切なんだなみたいに思われるのは癪なので弁明しておくと、別に私はあの妹が嫌いではない。


 両親と弟は反吐が出るほど嫌いだけれど、妹のあの性格は万人が苦手とする性格ではない。私は苦手だけれど、受け入れてくれている友人が何人もいるのだから、レンカを放置していくのは少し違うかなと思ってしまう。別にこれからも一緒に暮らしたいかと言えば圧倒的にお断りなのだけれどね。


 あの両親もあの弟も真っ当な人間関係というものから余りに縁遠いので、社会不適合者なのではと個人的には思っている。友達がいるって話聞いたことないし。あれ、そういえば私も友達ってミラしかいないわね。まさかの同族嫌悪説。いや、でも私は立場的に友人とか作り難いから仕方ないのよ。うん、仕方ない。


「……急激にアンナ様のテンションが下がりましたね。一体頭の中で何が……」

「あー、まあ、よくあることだから気にしなくていい。無駄に色々考えちゃうのって悪癖だよなあ……、お、ようやくか」


 シユウ様のその言葉で顔を上げると、いつの間にやら目の前にロデウロの駅が見えた。つい二十分前くらいまでは点に見える程度には遠かったのに。まあ何にせよ、午前六時四十五分、私達は無事にロデウロへと到着したのだった。被害的には結構大きい旅路だったけれど。

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