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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第三章 ロデウロ編
84/156

84、私は問い詰める

「は? ……っ!」

「シユウ様! っ!? ……グース、さん?」

「無意味であることは分かっています。しかし、それでも追わなくてはならない。彼がそういう人物であるというのは、貴女も理解しているはずです」

「……そう、ですね」


 壁の向こうへ消えていった双子を追って、三号車へと走っていくシユウ様。この高速で走行する列車では、あの双子はとっくに遥か彼方だろう。恐らく、シユウ様自身もそれは分かっているはずだ。それでも、反射的に追ってしまった。自身のその行動が何の意味もないと分かっていても。


 それを反射的に追いかけようとしてしまった私も大概ではあるのだけれど。グースさんに止めてもらわなかったら今頃は私も三号車の後方から流れていく景色を呆然と眺めていただろう。あの二人の行動は間違いなく自殺だ。情報を漏らさないためというのが一番筋の通った理由と思えるけれど、そうではない可能性もある。


 あの二人は言っていた。殺そうとも殺せるとも思っていないと。もしかすると、初めからこうする予定だったのではないか。シユウ様に能力を見抜かれた段階で、列車内部から脱出するところまでが一連の計画だったとしたら。それには何かしらの理由がなければならない。私達に不都合な、不利益を齎すような理由が。


「アンナ様、この状況で急かすような事を言うのは非常に心苦しいのですが、とりあえず先頭車両に向かいましょう。おそらく日頃からセブンスヘブンが出している速度よりも加速しているであろうと考えれば、停車までの時間があと十分ほどしかありません」

「……もし、あの双子が」

「はい?」

「初めから能力を使用して脱出することを前提にしていたなら、この計画には余りにも意味がありません。一度攫われそうになった私どころか、シユウ様すら傷一つ負っていない。どころかむしろ、普段よりも早く、このセブンスヘブンはロデウロに到着することになる」

「まあ、その通りですが」

「王族であり、緊急事態である現在、シユウ様に対する事情聴取すらまともに行われることはない。先程の二人が私達に与えた影響は現状ないに等しい。あの双子も、どうせ生きているでしょうし」

「……つまり?」

「グースさん、貴方、組織に関係していませんよね?」

「……なぜそのような疑いを掛けられているのか、全くもって理解できません。シユウ様が幼い頃より王族に仕えてきた私が、七か国の敵である組織と通じているなど、余りにも滅茶苦茶な推理だ」

「そうでしょうか? では聞きますが、セブンスヘブンの運転のマニュアルなど、一体どういう状況で読むことになったというのでしょう?」

「セブンスヘブンのマニュアルではありません。一般列車の運転のマニュアルです」

「同じことです。これまでの人生で列車を運転するようなことが貴方にあったのですか? どれほど優れた使用人だろうと、列車を運転するようなことになる可能性など微量たりともありません」


「……それだけが根拠ならば、砂上の楼閣と言わざるを得ない推理ですね。冤罪にも程がある」

「組織の目的が私でもシユウ様でもなかったと考えるのであれば、目的は他にあった。シユウ様に付いて、確実にセブンスヘブンの三号車に乗り込むことが確定している貴方こそが、組織の本当の狙いだった。あの行動で何のやり取りが行われたのかを私に推察することは不可能ですが、貴方に対し疑いを持つには十分過ぎる」

「お言葉ですが、そのようなことを語っている貴女にも、その言葉は跳ね返ってくると考えた方がよろしいかと思いますが。狙われていたと見せかけて実は協力関係にあった、など、安い三流ミステリーにありそうな話では?」

「もし仮に。貴方が裏切っていた場合、シユウ様に与えられる精神的ショックは並大抵のものではないでしょう。下手をすれば、戦えなくなってもおかしくない程度には。シユウ様は現状、王族の中で一番特異な存在であり、その影響力はかなり広い。その恩恵は私も受けています。シユウ様が戦えなくなれば、私を狙うのは比較にならないほど容易になる」

「…………」

「貴方がシユウ様を裏切ったというのならば、それはもう過ぎたことです。今更とやかく言っても過去は変わらないのですから。ですが、もし何か事情があるのならば、私はそれを隠すことに協力したっていいのです」

「…………」

「今の私の発言の全てが的外れだとしても、無意味ではないはずです。貴方はこれで、シユウ様を簡単には裏切れなくなったでしょうから。私の目を見て、正面から身の潔白を断言していただけるのであれば、私は貴方に頭を下げましょう。……どうですか?」


「……私の能力は『自意識過剰』。分かりやすく言えば、自分のペースを乱さず、己を強く持ち続ける能力です。自らの意識が過剰に強いという、ただそれだけの無いに等しい能力」

「……それは」

「ええ、この状況に陥り、ようやくこの能力を有用に使える、ということです。汎用性の低い能力は、言い換えれば特定の能力に対して極端に抵抗力があるということでもありますからね」

「…………」

「無礼を承知でお願い致します。本日の夜、私の部屋に来てください。勿論一人で。説明の義務は、そこで果たします」

「……初めからそうやって素直に言ってくれれば、余計な口論などせずに済んだのでは?」

「申し訳ありません。アンナ様は頭の回転が早いというのはシユウ様から聞いていたのですが、実際に自分でも確かめないと安心できない質でして」

「試されたというわけですか。まあ、合格したのならば良しとしましょう」

「……貴女は本当に貴族らしくない人ですね。何を言われても怒るということがない。いえ、一線を超えた時だけ、感情が決壊する。リーデアの言っていた通りの人だ」

「褒められているのか馬鹿にされているのか……、リーデアが私について何と言っていたかは後々聞かせてもらうとして、シユウ様が戻ってくる前に先頭車両へ入りましょうか。話しているうちに、おそらくは到着まであと七分もありません」

「問題点としては、万が一先頭車両に誰かがいた場合、私達では何の対抗もできないという点でしょうかね」


「……まあ、最悪私が四肢を切り落としますので」

「……貴女が敵に回らなくて本当に良かった……」

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