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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第三章 ロデウロ編
83/156

83、私は叫ぶ

「詳細って……」

「ええ、外野から見ている私達よりも早く、シユウ様は何らかの秘密に気付いたようです」

「秘密ですか……、私は正直何も分かりません。能力を使った戦闘というのが、これほど厄介だとは……」

「その点に関してはシユウ様が慣れ過ぎているだけなので、必要以上に気に病む必要はないかと思います」


 確かにシユウ様と私では能力を用いた戦闘、行動において天と地ほどの差がある。能力を自覚した年齢が違い過ぎるから仕方ないと言えば仕方ないのだけれど、命を狙われているという立場である以上、このままというわけも行かないのよね。


 護身術は確かに認められてはいるけど、実際能力戦で役に立つかと言われると返答に困る。遠距離から攻撃とかされたら一発で死んでしまう。まあそれで言うと銃とかで狙撃されたら打つ手なんて誰にもないのだけれど。回避とか当たり所とかでどうにかなる話ではないし。


 シユウ様がびしりと人差し指を立てながら言い放った一言に双子は険しい顔を浮かべている。自分たちの行動が迂闊であったというのを自覚しての表情なのか、それともその状況まで追い込んできたシユウ様に対しての敵意か。どちらにせよ、あの二人がシユウ様を侮っていたのは間違いないのだろうけど。


 ただやはり、今の五分間を頭の中で振り返ってみても不自然な点というのは思い当たらない。攻撃や障害物をすり抜けていた動作に変だと感じる部分は特になかったはず。いや、一つだけあったにはあった。攻撃を避ける際、何回か手を繋いでいるときがあった。でも、それが何だと言うのか。


「戦ってる最中に相手の能力のネタバレとか、悠長に説明とかしてる暇なんて普通はねえけど、今回は観客がいるし、そっちにも把握させておかないといけないから説明してやるよ。説明されたくなかったら早めに襲いかかってきな。出来るならな」

「見抜かれても不都合はない。さあどうぞ、ご自慢の推理力をひけらかしてよ」

「見抜かれても不利益はない。さあどうぞ、ご自慢の洞察力を見せびらかしてよ」

「お前らの透過が、具体的にどういうものなのかまでは分からない。ひょっとしたらどちらか片方だけの能力かも知れないし、二人とも全く同じ能力なのかもしれないし、二人揃って初めて一つの能力なのかもしれない。でも、断言できる要素が一つだけある」

「…………ほう」

「…………へえ」

「お前らは絶対に二つのものを同時に透過しなくちゃいけないってことだ。お前らが攻撃された最中にやってた手を繋ぐ動作は、別に手を繋いでたわけじゃなくてお互いにお互いを透過させて、俺からの攻撃を二つ目に透過させるものにするための動作だ」


 シユウ様が中指を立てて指で二を示す。でもそうか、同時に二つをすり抜けているというのが絶対条件なら、手を繋いでいたように見えたあの動作が不要なものではなくなる。それに、先程からの不可解な要素もなくなった。


 最初に箱から長髪が脱出した際に、左腕を守った『六盾』を貫通することが出来なかったのは、短髪の手と箱を形作っている『六盾』という二つをすでに透過していたから。そのまま箱から出たのは短髪の手と離れてしまい、『六盾』の透過を維持できなくなったから。


 そして先程のシユウ様の蹴りを透過で避けなかったのは、おそらくシユウ様の足元に『六盾』があると考えたからだ。同時に二つを透過していなければならない以上、たとえ手が届いても透過できるのは『六盾』だけで、三つ目のものである足は当たる。


 そうなれば、そこから避けられなかったのは何故かという疑問に到達し、能力の詳細が露呈する危険性があると判断したのだろう。結局は、そのリスクを回避したせいでシユウ様に正解に辿り着くヒントを与えてしまったわけだけれど。


「……で? それが分かったから私達を倒せるの?」

「……で? それが分かったから私達に勝てるの?」

「結局私達は一度も攻撃を食らっていないし、それは今からも変わらない」

「人の能力を暴いて得意げになってるだけだったら、誰にだってできる」

「……はっ、俺の能力でお前らの能力に対抗することが出来るから、そうやってよくわかんない強がりかましてんだろ? 単純に、俺はこれから盾を二枚重ねにすればいい。お前らとしては、それが一番困るんだろう?」


 先ほどまでの行動で、双子の透過は『六盾』一枚をきっちり一つとしてカウントすることが明らかになっている。であるなら、『六盾』を二枚重ねてしまえばいいというのは理に適った対抗策だ。二枚を透過しても、シユウ様自身の攻撃は双子を確実に直撃する。


 勿論その宣言は嘘で、実際は盾を何枚重ねしてもいい。相手の予想外の行動を重ねていくのが勝利のための定石ということは私だって理解している。シユウ様だって、今の宣言通りの行動をしようなどとは考えていないだろうし、双子だって馬鹿正直に信じはしないだろう。


 その応用性こそ、『六盾』が強力な能力であると言われる所以だ。攻撃にも守備にも、真っ向からも不意を打つのでも、正しくも汚くもあれる。それらの強さは全てが私の為だと言われた時は、正直言って正面からお断りしたくなったけれど、改めて考えるとここまで頼もしい存在もいない。


「まあ、今の俺の推理が全部的外れだって言うなら、また話は変わってくるけどな。それだったら、また別の可能性を考えるだけだし。なんにせよ、この状況でお前らに逃げ場なんて無いんだ。恨むなら、高速で走り続ける列車の中なんか選んだ自分を恨めよ」

「……逃げ場がない?」

「……自分を恨めよ?」

「いやいや、そんなことないよ。その発言こそ的外れなんだよ。私達は別に何も考えずにここを選んだわけじゃない」

「むしろ、私達が戦うのに一番向いている場所だと思ったからここを選んでいるんだ。勝った気になるのは少しばかり早いんじゃない?」


 そういうと双子は手を繋いだ。何かを仕掛けてくる気かと警戒し身構えたシユウ様とは対極的に、双子は随分と余裕のある表情を浮かべている。顔を見合わせ、何かを決心したかのように頷き合うと、そのまま体を反転させて――私は叫ぶ。


「シユウ様! その二人を今すぐ止めてください! その二人――出ていく気です!」

「もう遅いよ」


 二人は手を繋いだまま、壁に向かって飛び込んだ。お互いの身体を透過し、二つ目に壁を選んだ。二人はセブンスヘブンから降車した。高速で後方へと過ぎ去っていく景色へ、身を投げた。随分と乱暴な降車も、あったものだ。

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