表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第三章 ロデウロ編
82/156

82、私は見抜けない

 シユウ・ヒストル・フルランダムというロデウロの第二王子が具体的にどういう人物なのかというのは、多分まだ詳しく語っていなかったと思う。それはそもそも語る機会がなかったというのと、まあ語る必要性もなかったからというのがある。七か国に住むものなら大体知っている話なのだ、これは。


 王族というのは代々強力、あるいは有用な能力を持って産まれる傾向がある。血筋か、あるいは何か理解不能な要因があるのかは未解明だけれど、シユウ様もその例に漏れていない。六枚の透明な正方形を自由自在に操る能力、『六盾』。


 名称に盾と付いてはいても、その使用法は盾という言葉では表しきれないほど多岐に渡る。五枚を合わせて箱の形にするという、今しがた破られた『箱』。左腕を蹴りから守った純粋な盾としての使い方。シユウ様の戦いを実際に見るのはこれが初めてなので、それ以上の知識はないのだけれど。


 戦うという行為に対してあまりにも優れている『六盾』を、弱冠三歳の頃から使えていたというのだから驚きだ。私が自分の能力を自覚したのが十歳の頃で、それだって本来は相当に早い。人によって千差万別である能力は、自覚するのに時間がかかる。


 それが特別なことだと理解できないまま成長してしまったり、そもそも自分が能力を持っているかも分からないのにわざわざ把握しようとするものが少なかったりするのが原因だ。だからこそ、三歳というのは余りに異例だ。他者と自分の違いをその歳から明確に理解していたというのだから。


 幼い頃から把握していれば、磨きをかけるのに使える年数も長くなる。シユウ様が接近戦という分野において、ロデウロ最強と言われているのはそこが所以だ。決められた範囲内で戦うということに関しては、七か国を探したってシユウ様の右に出る者はいないだろう。


 どの国でもある程度の頻度で、能力を用いた模擬戦の大会を行っている。参加者の多くは貴族だ、たまに平民が混じってくることがある。要は、優秀な兵になりそうな者を探し出すための催しであり、平民からしても給料の良い職に就くための一番の近道でもある。


 ロデウロで行われた大会で、シユウ様は九歳から一年間で前人未到の五連覇を達成し、殿堂入りということになった。シーツァリアに来る前、つまりは私に会う前の準備だったとか言っていたけど、巻き込まれた他の参加者はたまったものじゃないと思う。王族が優勝するとか、もう大会の全ての意義からも外れているし。


 ただまあ、それが評価された結果、シユウ様は七か国全てを含めた王族の中でも唯一の実実動担当だ。シユウ様にとってはありがたい権限の詰め合わせを送られたくらいの気分だっただろうけれど、これだって異例なのだ。前例が確か三件だかそのくらいしかない。平民からなら数百件あるんだけど。


 権限の具体的な内容を話せる範囲で話すと、緊急時における他国への渡航の無条件許可、調査に必要だと判断した機関に保管されている過去の事件記録の閲覧、やむを得ない場合に能力を使用して他者へ危害を加えた事案への免罪。簡単に言えば、機関の権限の一部の譲渡と言ったところだろうか。


 個人でそれだけの権限を有しているのは、七か国広しと言えど、王族に曲者揃いだろうと、シユウ様くらいのものだろう。シユウ様的には、自由が効いてラッキーくらいの感覚しかないのは以前談話室で聞いたが、何と言うか、機関も少し先走ったのではと思っていた。


 責任感という言葉から最も遠く、義務感という言葉に背を向けているシユウ様に与えるべき権限ではなかったと。だけれどそもそも、本当に向いていないと思っていたら私はシユウ様を好きになっていない。彼の優しさは、決して私一人だけに注がれているものではないと理解しているから。


「なるほどな! 透過の能力か! 俺の盾を突破する方法が無いんだったら突破しなきゃいいってところか? 生憎だけど! そんな戦法在り来たりだぜ!」

「ははっ! さっきから足が何回がぶつかってるけど負け惜しみかな!」

「ふふっ! さっきから拳が何回か当たってるけど悔し紛れかな!」


 二対一の状況になった場合、どのようにして打破するか。少しでも戦いをかじっているとその疑問に必ずと言っていいほど当たるのだけれど、結局のところ結論としては、そうならないように動け、ということになる。根本的問題として扱うことになる。


 複数人を一人で相手取らなくちゃいけないような状況になった時点ですでに詰んでいるのだ。数の有利というのはそれほどまでに大きい。注意力の散漫、流れが思い通りにならない苛立ち、そこから発生するくだらない失敗。それら全てが敗北の要因になる。


 だから、目の前の光景は異常だ。シユウ様は先ほどから三分の間、列車の車両という狭い空間を飛び回って脚や拳を叩き込んでくる二人を完全にいなしている。避けて、防いで、流して、完全にとは行かないまでも、全く攻撃を食らっていない。


 物をすり抜けて攻撃してくるという状況で、それを恐れず、何かを待っているかのように。派手なアクロバットは一切ない。両足を地面に付けて、防戦一方を維持している。危なっかしいと言えば危なっかしいけれど、下手に手を出せばバランスが崩れるのは目に見えている。


 シユウ様が背後にある椅子を右手で力任せに振り回す。それを見た双子が手を繋ぐと、何も無い場所を通過するかのように椅子は二人をすり抜ける。手が離された椅子が壁に激突し軋むような音を立てる。遠心力でシユウ様の右手が不自由になった隙は見逃されなかった。短髪は上半身を拳で、長髪は下半身を足で。


 顔面に向かってくる拳を戻した右手で払いのけ、右足を狙った蹴りは『六盾』で守った。シユウ様の足の数センチ手前で蹴りが急停止したのを見るに、恐らくはそこにある『六盾』を蹴ったのだろう。痛がるような素振りの一つも見せない。洗脳によるものか、あるいは純粋に身体を鍛えているのか。


 シユウ様が右足を振り上げ、短髪に当たるタイミングで蹴りを放つ。拳を払いのけられた長髪がその方向に回転したかと思えば、蹴りを予定外の位置で止められたせいでバランスを崩した短髪の服を掴んで思い切り後ろに飛んだ。


「……避けた?」

「避けましたね。恐らくは、都合が悪かったのでしょう」


 私の呟きにグースさんが律義に返してくれる。都合が悪かった。『六盾』すら透過させられるのになぜ今の蹴りは避けたのか。ただの透過じゃ、ないってことなのか。


「苦虫を噛み潰したような顔すんなよ。確かに今のは悪手だったけどな。お陰で見えたよ、お前らの能力の詳細がな!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ