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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第三章 ロデウロ編
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81、私は信じている

「はあ!? ここより後ろの車両が全部ない!? 何言ってんの!?」

「いえ、まあ、冗談であればどれほどいいかと私自身ずっと思ってはいるのですが、これは早急に対処しないと私達の命どころかロデウロ側の駅にいる方々も危険すぎる状況なので」

「……ちょっと待ってて。……無い! まじで無い! 車両の扉開けたらダイレクトで外なことある!? えええ、まじかよ……」

「座っている暇などありませんよ。項垂れたい気持ちも分かりますが、私達は一刻も早く前の車両を見に行かなくてはなりません。そうしなければ私達はおろか、何の罪もない一般の方々まで無残な死を迎えることになってしまうのですから」

「俺達も罪はないけどな? ……グース、お前列車の運転とかできたっけ?」

「したことはありませんが、操縦方法のマニュアルのようなものは読んだことがありますので、ブレーキを掛けるくらいなら、まあフィーリングでどうにかなるかとは思います。確約はできませんが」

「別に百パーセントまでは求めてない。なんとかなるなら、そこまでの露払いは俺がやる。俺達を殺すために後部車両を切り離したなら、運転席に簡単に立ち入らせるようなことはしてないだろう。だったら、前の二車両には組織の奴がいても全然不思議じゃないってことだ」

「……自分の命を捨ててまで『少女』に尽くすというのなら、その洗脳は相当に根深いはず。上手く捕らえられれば、貴重な情報源になるかもしれません。ふふ、追い詰められている私達がいつの間にか敵を追い詰めている……、そんな物語のような逆転劇を起こしてみせてくださいな」

「任せろ。グース、俺が戦ってる間、アンナを頼むぞ」

「言われるまでもありません。たとえシユウ様が目の前で引き裂かれようと、アンナ様だけは剣が降ろうと槍が降ろうと必ずや死守します」

「ありがたいんだけどもうちょっと言い方考えろ。なんだ、俺に死んでほしいのか?」


 緊張感が無いわね。割と真剣にここにいる三人の命の危機だし、ロデウロの民が大勢死ぬかもしれないという結構な大事件なのだけれど、なぜこうも私達に緊張感はないのだろう。別に現状を楽観視しているわけではない。現実を見るという点において私とシユウ様は優れている方だ。


 危険度を加味しても、まあそこまで焦ることではないと私達の意志が統一されているからこうして落ち着いていられる。残り二十五分程度で、たかが二両先の運転室まで辿りつけばいいのだ。たとえシユウ様を二号車で生贄に捧げたとしても、運転席には二人が確実に辿りつける。


 それにそもそも、私も、恐らくはグースさんも、シユウ様が能力を用いた戦闘において負けることなどないと信じている。これは贔屓目とかではなく、シユウ様の持つ能力がゆえの確信だ。まさか組織側も、それを把握していないわけではないと思うのだけれど。


 あるいは、これはそもそも失敗を前提とした計画なのかしら。このまま私達を死なせるという目論見は最初から成功するなどとは考えていないとか。まあ、牽制にはなるけど。それ以上に方々に恨みを買うというのを理解できていないのだろうか。


 シユウ様を先頭に、グースさん、私の順番で二号車への扉を潜る。まあすんなりと開くこと。私達が異変に気付いてこちらへと向かってくるのを待ち構えていたかのような、とすら感じられるわね。問題は扉を開いた瞬間に向こう側からチェーンソーでも飛んでこないかどうかの心配くらいだけど。


 その心配はなかった。二号車は三号車と違い、豪華と言った様子は一切ない。運転手の休憩所という役割を全うするための空間だ。だけれど、そこに明確な異分子が二人。運転手用に用意されていたのであろう紅茶を飲み、お菓子を貪る二人の少女。歳は私達より少し上だろうか。


 向かいあった座席に座って優雅にくつろいでいるその二人は、入ってきた私達に視線を向ける。髪の色は黒。同時にこちらを向いた顔は瓜二つ。鏡に映したかのような顔立ち。右は長髪、左は短髪。鏡のように同時に立ち上がると、手を繋いでこちらに身体を向けた。


「いらっしゃいませ、ロデウロ第二王子にして王族唯一の実動担当、シユウ・ヒストル・フルランダム」

「いらっしゃいませ、シーツァリア次期王妃でありながら王子を見限った、アンナ・デルスロ・フォーマットハーフ」

「もうとっくにお気付きだろうけど、私達は別にここで二人を殺せるとは思っていないんだよ」

「もうとっくにお気付きだろうけど、私達は別にここで二人を殺そうとは思っていないんだよ」

「私達の目的はちょっとしたちょっかいであって、それ以上でも以下でもない」

「私達の目的はちょっとしたちょっかいであって、それ以外でも意外でもない」

「これからどうするべきか、賢明な貴方ならわかっているよね? 私達を倒すんだ。それしか道はない」

「私達を殺しでもして、屍の上を踏み越え、運転席へと無事に辿りつけばいい。どうせ私達じゃ貴方には敵わないんだから」

「でも一応だけど覚えておいて欲しいな。私達はロデウロの国民の一人であり、立場は対立していても貴方を尊敬しているのだということを」

「勿論忘れてもらっても構わないけどね。私達は所詮一国民でしかなくて、貴方からすれば路傍の石ころのようなものなのだろうから」

「あー、ごちゃごちゃうるせえ。洗脳されてるんなら情状酌量の余地あり、そうじゃないなら高い確率で極刑だ。そのくらいの覚悟でここにいるんだったら、呑気に喋ってないでさっさとかかって来いよ」

「……言われなくとも!」

「――そのつもり!」


 そんな言葉と同時に前へ飛びだした双子は、見えない壁にぶつかったように鼻を押さえる。シユウ様を前にして余裕かましてお喋りしてるからこうなるのよ。シユウ様が挑発したのは、まあ早めに状況を認識させてさっさと運転席に行きたかったからでしょうね。


 グースさんに与えられる時間は長ければ長いほどいい。そうすればこの暴走列車を止められる可能性も比例して上昇するだろうし。というか、この三両しかない列車を列車と呼ぶのは果たして正しいのだろうか。短すぎてどことなく不格好な気がするので、なんだかしっくりこない。


 シユウ様は見えない壁に阻まれている双子の横を通り抜けて先頭車両へと向かう。私もそれに続こうと足を進めようとしたら、グースさんに止められてしまった。この状況で止められるということは、まだここから不測の事態が起きる可能性があるということ。


「能力も把握せず貴方の前に立ち塞がるほど私達は愚かでないつもりだよ」

「能力を把握して貴方の前に立ち塞がったんだから普通に通り抜けられたら困っちゃうよ」


 双子を囲っていた見えない壁を貫通する形で繰り出された直線の蹴りは、シユウ様の左腕を直撃した。長髪の少女がそのままの勢いで壁の外へと脱出する。片方が出てきてしまった以上、これ以上シユウ様の能力で箱を維持することは出来ない。一枚では対応できない。


 蹴りから左腕を守った見えない壁。双子を閉じ込めていた見えない箱。合わせて六枚の見えない盾こそが、シユウ様の能力。その名は『六盾(むじゅん)』。接近戦においてシユウ様をロデウロ最強に押し上げた異色の能力。


「……けっ、厄介だな」

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