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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第三章 ロデウロ編
72/156

72、私は少し馴れ馴れしく

「すまん、焦ってるのは伝わるんだけど説明が雑すぎる。もう少し丁寧な説明してくれ」


 シユウ様は私の方を一瞬見ると、通話をスピーカーにして携帯をテーブルの上に置く。確かにこれは異常事態ではある。二日間で千件の盗難被害が、ということではなく、その通報が寄せられたことが。事件の発覚を少しでも遅らせるために、基本窃盗はバレないように行われることが多い。


 その窃盗事件に関しての通報が二日間で千件を超えるというのは、あえてバレるように犯行を繰り返しているとすら受け取れるほどだ。しかもロデウロだ。国民の気も力も強く、犯罪者の公正率が高いロデウロで、そこまで派手に盗みを働くというのは正常ではない。家畜が全滅したとかでないとあり得ない事態。


『……申し訳ありません。しかし、現状我々が打てる手立ては、王族の実動担当であるシユウ様を呼び戻し、一刻も早い事態の収束を頼むことのみなのです』

「言いたいことは分かる。このタイミングでの異常な窃盗の通報件数から考えて、組織絡みの騒動を兄貴が疑ってるってとこだろ?」

『その通りです。ジエイ様はこれをただの偶然による通報の重複だとは考えず、何かしらの組織が目的を据えたうえで重ねている意図的な犯行であると考えています』

「それは理解できる。でもなんで俺なんだ? お前らが片っ端から総当たりすれば、ロデウロの端から端くらい一日で調べられるだろ?」

『それが問題だとジエイ様は考えています。我々、王族の直轄部隊が全力で捜査に乗り出せば、犯人の一人や二人を捕らえることは可能だと自負しています。ですが、所詮それは蜥蜴の尻尾でしかなく、根本からの解決にはならない。我々が動くことそれ自体が、向こうの狙いだった場合。それをジエイ様は警戒しています』

「……警備を手薄にすることが本当の目的ってことか。確かに有り得るな。シーツァリアの第一王子に近付くために次期王妃を攫おうとした奴等だ。どれだけ大層なことをやらかしても、それが全部目くらましって可能性は捨てきれない」

『それに加え、我々がどれだけ慎重に国内を調査したとしても、何かが起こっているのではないか、という考えを国民に与えてしまうかもしれないという危惧もあります。その動揺に付け込まれることをジエイ様は懸念しています』

「精神的に不安定にさせて、その隙に洗脳を拡大させるかもしれないか。そういえば洗脳の能力は、動揺している人間にほど効果があるって研究をセルムがしてたっけな」

『もし国全体に動揺が伝播すれば、ロデウロの全てに能力が適用されかねない。そうなれば実質、ロデウロは滅びたも同然だと、ジエイ様は判断しました』


「……通報の内容は? 状況と、盗まれたものはなんなんだ?」

『一貫性がありません。肉や魚といった食料、日用雑貨、電子機器類、人間一人で持ち運べる大きさのものならば何でも構わないとでも言いたげに、どの現場にも一人で現れ、そして去っていく。当然大勢での分担でしょうが、服装はスウェットにパーカーと統一されています。顔もフードとマスクで隠れていると』

「そういう奴がいるっていう認識を植え付けようとしてるな。二日前からならまだ拡散はそこまでだろうけど、放置しておけば噂だけが一人歩きを始める。見境なく物を盗むそういう服装の個人がいると」

『しかも通報の内容によれば、窃盗犯の全てが、高速で逃走したとのことです。実際に何人で動いているのかは不明ですが、相当数の速度系統の能力者を集めるのは並大抵のことではないでしょう』


「待て、能力を使って逃げたのか? それだったらもう機関の管轄だろ。能力を用いての犯罪は機関が定めてる規則に違反している。しかもそれだけの件数だったら即日来たっておかしくないくらいだ。なのに何でそれよりも先に俺に連絡してきた」

『……ジエイ様は、機関を信用すべきでは無いと仰っています。機関内部に組織の者がいることがほぼ確定した今、組織関連の事件を機関に報告すべきではないと』

「王族の動揺が伝わるからか。確かにそっちの危険性もあるだろうけど、そういう疑心暗鬼を誘発して、報告させないようにするって手の可能性もあるだろ。外部への応援を求められない、孤立状態にするっていう企みの可能性も」

『二つのリスクを天秤にかけた結果として、私がシユウ様に連絡をしているという状況なのです。貴方ならば、ロデウロの国内をどれだけ動いても国民から警戒されることはない。それだけの信頼を貴方は得ている。だから、ジエイ様は貴方に頼ったのです』

「……くそ、勝手なこと言いやがって。いい感じの言葉で俺に押し付けただけじゃねえか。……通報は昨日からか?」

『はい。今日になって、犯行の頻度は明らかに高くなっています。昨日が三百、今日が七百といったところでしょうか』

「…………分かった、明日帰る。今日はもう遅いからな。……兄貴に一つ伝言頼む」

『……なんでしょうか』

「貸し一つだ」


 そう言うとシユウ様は通話を切った。その表情は複雑という言葉をそのまま顔に浮かべたかのようなもので、私としては苦笑いしかできない。なにせ国を巻き込んでいる騒動を解決する役目を押し付けられたのだ。これがロデウロでは珍しい話なのか、日常の延長線上なのかは私には分からないけれど。


「……ごめん、遊びに行くのはまた今度だな。予期せぬ面倒な予定が入っちまった」

「また今度? 何故です? たった今、丁度いい予定が入ったばかりではありませんか」

「は? ……まじで?」

「まじです。何か不満でも?」

「いや、ないけども……。……なんか最近、少しキャラ変わった?」

「……貴方がそう思うなら、きっとそうなんじゃないかしら、シユウ?」


 私がそう言うと、シユウ様は呆けたような表情になって目を見開いた。さあ、帰らなくてはね。早く帰って、両親を説得して、明日の準備をしましょう。あの両親を言い包めるくらい多少理屈を捏ねれば十分も掛からないだろうし、なるべく睡眠を取りたいところ。


 私から誘った初のお出掛けは思いもよらぬ方向性になりつつあるけれど、退屈はしなさそうね。楽しい旅行になるといいのだけれど。

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