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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第一章 出会い編
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7、私は睨みます

 さて、今の発言を受けた私には二つの選択肢がありますわ。一つは今ここで目の前の男を殺すという選択。勿論そんなことをすれば私の首も物理的に飛びますが、その犯行を隠しきる自信が私にはあります。部屋の目の前にはオーラがいますが、まあ大した問題ではありませんわね。

 もう一つは、このまま話を聞き続けるという選択。正直言ってもし本当に知っているのならば、私は自衛権を行使せざるを得ないのですが、聞く自由は私にもあります。だからここで問題になるのは、私が今までの彼の話を許容するか否か。彼を受け入れるか否か、という話です。

 否だと言いたいのですが、もし彼が本当に私の能力を知っているのならば、今までの彼の話に信憑性が発生します。そうなると、私があの第一王子に処刑されるという話も真実だということ。ならば、ここで彼を殺すのは私にとって得策ではないことになります。


 まあ、殺すかどうかは話を聞いてから判断しても遅くないですわね。どうせ情報を漏らすつもりならば、既に他の誰かにも知られているでしょうし。その情報で私を脅迫でもしたら、問答無用で殺しましょう。私の能力で。


「怖い顔するなよ。大丈夫だって、誰にも言ってないし、誰にも言わないから言うこと聞けとかも言わない。単純に信じてもらうために必要な情報ってだけだから」

「……まあ、私の能力を知っているならば、脅迫のために密室で二人きりになるなんて愚か者の所業ですわね」

「それに、今俺を殺しても、お前に利益なんて何一つ無いだろ? 死体の処理が面倒なだけだ」

「そこはそれほど苦労しないと思いますが」

「もう少し俺を大事に扱え。殺してもいいっていう考えを捨てろ」


 座っているのに少し腰が引けていますわね。なかなか器用なことをしますが、そこまで怖がらなくてもいいような気がします。どうせ死ぬことになったら一瞬で、痛みを感じる間もなく逝けるのですから。当然、苦痛を与えて殺すことも可能ですがね。

 叫ばれても面倒なので殺すとなったら一撃ですが。リスクの管理はかなり念入りに指導された項目なので、今の私は国にかなり忠実だと言って間違いありませんわね。自分の能力の存在を誰にも報告していないので、忠実もなにもあったものではありませんが。


「聞いてから判断しますので、どうぞ言ってみてください。貴方の発言を許可いたしますわ」

「許可されるレベルで生殺与奪握られてるのかよ……。一応隣国の第二王子なんだけどな、俺。……『ポケット』だろ?」

「…………」

「待て。その手を下ろすんだ。言ってみろと言ったのはお前だろうが」


 私が自分の能力を自覚したのは僅か二ヶ月前です。切っ掛けは大したことではなく、ただ自分の部屋に忘れ物をしたというだけ。それに教室の自分の席に着いたときに気が付き、溜め息を吐きながら机に手を入れたら、いつの間にか私の手はその忘れ物を掴んでいました。

 そう、私の能力は『離れた場所と今自分がいる場所を繋げる能力』、命名は『ポケット』。帰ってから自室で試してみたところ、直径十五センチ程度の黒い穴が、私の手がある場所と、用のある場所に発生することが分かりました。


 能力が発現したらすぐに報告しろと教育係の方々から言われていましたが、これを報告するわけにはいきませんでした。この力は、何でもできてしまう。盗みも、殺しも、あらゆる犯罪を容易に行えてしまう。

 そんな使い方をするつもりは毛頭ありませんが、リスクを排除するのが好きな方々に、いつでも私を処分できる大義名分を与えるというのは、死ぬことを前提として考えている私にしても看過できないことでした。だから、目の前の男が知っているはずがないのです。私の能力を知っているのは、この世界で私だけのはずなのですから。


「多分気付いてると思うけど、お前の処刑がスムーズに執行されたのはその能力の存在があったからってところも大きい。でっち上げられた冤罪も、実際に行われたものも、その能力があれば簡単な話だったからな」

「この能力を危険視していた方の力添えもあったのでしょうね。国にとって、利益にもなり不利益にもなりますもの。排除したいと思われていても、不思議な話ではありません」

「結果が平民との結婚じゃ、どっちがましなんだかって話だけどな」

「滅亡寸前の国にまともな判断をしろというのもなかなかの無理難題ですが、愚かとしか言い様がありませんわね。……いえ、それは私もですか」


 そうなることは十分に予想できたはずの事態ですもの。にもかかわらず、自身の能力を誰かに打ち明けてしまった。失態という言葉では足りませんわね。愚行としか言えないどころか、自らそうなることを望んでいたかのようですわ。七年後の私は、疲れていたのでしょうか。

 あの愚か者の断罪を黙って受け入れてしまうほどに、消耗していた、とでも。未来の自分から侮辱されたような気分ですわね。その程度にも耐えることが出来ないのだと、嘲笑われたような、なんとも不快な気分ですわ。そんな感情を込めてシユウ様を睨みますが。


「おいおいなんだよ、そんな情熱的な目で俺を見るなって。照れちゃうだろ?」

「……ちっ」

「舌打ちした?」


 私が込めたのは情熱ではなく殺意でしたが、伝わらなかったようですわね。残念ですわ。

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