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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第三章 ロデウロ編
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68、私は電話に出る

「一週間ぶりだな。突然の電話に関しては謝るが、しかし、なぜ電話番号を知っているのか、という問いにはあまりに意味がない。主の近くに、そういったことを我等にベラベラ喋りそうな情けない鶏がいるのは理解しているだろうに」


 懇親会が終わってから、早いもので一週間が経過した。一度襲撃があったからといって特別何かがあるわけでもない。むしろ、あの件についてはあの場にいた七人、そしてそれを報告する機関の人間だけで留めておこうということになった。あったはずの襲撃をなかったことにしたのだ。


 当然理由はある。機関の人間すら飲み込んでいるかもしれない言う懸念がある以上、必要以上に機関と情報を共有することにはリスクが伴うから。そして、必要以上に反応しないことで、お前らの行為には何の意味も無かったのだと、宗教組織に揺さぶりをかけるため。


 この程度でグラついてくれるなら世話がないのだけれど、まあ、駄目元で打った一手ではある。大体、宗教が発足し、シーツァリアの次期王妃を狙ったという情報を無闇に広めても、得をするのは宗教組織だけだ。七か国が混乱に陥ることは想像に難くないのだし。


 単語そのものが不穏なため、便宜上、発足しつつあるそれを私達は『組織』と呼ぶことになった。これならば、聞かれても具体的に何の組織かは察することは出来ないだろうというアディア様からの提案。他の王族の方々も頷きはしたが、不安な様子は隠せていなかった。


 いや、隠せてはいたのかもしれないけれど私が必要以上に見透かしてしまったというのが正しいのか。特に、一度具体的な被害を受けているプレントのウェイン様は、また何かしらの標的にされるのではないかと警戒した様子だったけれど、恐らくまたプレントが被害を受けるという可能性は限りなく低いと思う。


 一番最初に組織が害そうとしたのがプレントだった理由は今のところ不明だけど、シユウ様の証言と私への襲撃を合わせて考えるなら、多分本筋の狙いは私の殺害と第一王子の篭絡。その両方が一週間前の不自然な状況を作り出したのだと私は考えている。


 とはいえ、命を狙われているという確固たる証拠があるわけでもなく、それを誰かに言えるわけでもなくという八方塞がりの状況が現在。強いて言うなら、こうしてアディア様からの報告を待っているだけの日々だったとは言える。


「まあ、奴からしたら特に隠すことでもなかったのだろう。訊いたら素直に教えてくれたよ。一週間前あの場にいた五人の誰から電話がかかって来ても驚かないように心の準備だけはしておいた方がいいかもしれぬな。……五人? いや、四人か。すまぬ、間違えた」


 五人であっていたような気がしたけれど、アディア様が四人だというなら四人だったのだろう。と言うか、あの場の全員から電話がかかってくるかもしれない状況になるとは。まさかこの携帯がそこまでの価値を持つことになるとは二年前は思いもしなかった。


 しかし、確かにこの携帯もシユウ様から借りているという形ではあるけれど、番号を教えるというのであればせめて私に直接聞いてほしかったところだ。正直、この通話だって出ようかどうか相当悩んだのだから。本来誰も知らないはずの番号にかかってきたのだし、そりゃ警戒もする。


 ロデウロの情報がどこかから漏れたかとも思ったし、そもそも私の立場的に間違い電話だったとしても名乗れない。間違い電話で私に繋がったなんて一瞬で話が際限なく広まっていくことだろう。そういう点でも、私がこれに応答したのはなんとなくだ。勘でしかない。


「話がずれたな。本題が何かは主も分かっているとは思う。誰が聞いているか分からんので必要以上は口に出さぬが、調査が終了した。この電話はその件に関しての報告だ。まあ、実際にそちらに行くのが一番よかったと言えばよかったのだが……、嫌だろう?」


 嫌ですね。もうすでに母に、王族とは会話は出来たが警戒心が強く距離を縮めることはおそらくできていないと思いますと、嘘にもならないけど本当のことも言ってないくらいの絶妙な嘘を吐いてしまったので、この状況で訪問されると全て崩れるわ。


 その辺りの分別が付いている方で本当に良かったと思うわけで。正直、ウェイン様とかは平然と屋敷の扉を叩きそうなイメージがあるのよ。失礼な話かもしれないけど。相手方にかかる迷惑に関しての想像力が乏しそうというか。こんなこと絶対本人には言えないわね。


 いえ、というか誰にも言えないわね。なんかそういう内緒の話みたいなものを、平然と面白いからという理由だけで売り渡しそうな感じが王族の全員にあるのよ。実際交換条件としてみたいな感じで、フラット様がハクア様に映像渡してたし。


「調査結果に関して簡単に伝える。まず絨毯に染み込んでいた血液だが、男のものということだけは分かった。機関のデータに合致するDNAは登録されていなかったため、具体的な個人は特定できなかった。ここで特定できていれば楽だったんだがな」


 まあ、前科持ちを向かわせるほど愚かではないということなのだろう。たった一人が拘束されるかもしれないくらいのリスク、と考える者もいるだろうけれど、たかが一人、されど一人。せめて一人でも拘束できていれば、情報戦という点では一歩優位に立てたかもしれない。


 でも、あの状況で一人だけでも会場に連れていくのは私には不可能だった。引きずって運んでいたら時間がかかり、そうなれば会場の王族に何があるか分からない、という焦燥もあったし、私がやるよりも誰かに報告した方が確実だろうとも思った。


 そもそも、あの短時間で痕跡のほとんどを処理できるだけの誰かが向こう側にいたなら、一人を引きずって行くなどという愚行を犯した瞬間に連れ攫われてもおかしくなかったとも考えられるわけで。結局、どれもこれも後付けの言い訳にしかならないけれど。


「ただ、問題は血液よりも毛髪だ。主の言っていた通り、確かにあの髪はウィッグだった。なぜ分かるのか、と思うか? たった一本の毛髪が、それこそ、過去に類を見ない大問題の火種になりかねないということが発覚してしまったのさ」


 アディア様の声が明確な影を帯びる。目を見なくとも、電話越しで理解できるほどに。


「三年前に機関で死刑を執行した男の毛髪だった。つまり、確実に機関内で保管していたウィッグが、組織に持ち出されているということの確固たる証拠だ。機関の内部に、間違いなく内通者がいる」

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