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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第二章 懇親会編
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67、私は夢を見たい

「……本来なら、あいつが物語に関わってくるのは高等部入学時からだ。この段階であいつが王子と関わったっていう未来を俺は知らない。俺の行動であいつの行動も変わったか、あるいは……」

「物語? ……よく分かりませんが、疑問点は他にもあります。今回の懇親会にはそれなりに力を持った貴族しか参加できないはずなのに、平民であると貴方が言っていた彼女が参加している。これは明らかにおかしいですわ」

「いや、そっちは大しておかしくない。アンナの襲撃が陽動だったと考えるなら、それは意味のあるものだったってことだろ」

「……彼女が宗教に関係していると?」

「『少女のため』……、もしあいつがその少女だったなら、辻褄は合う」


 確かに辻褄は合う。でもそれは合うだけだ。私と同い年だという彼女に宗教を作り、それを利用して王子に取り入るほどの行動力などあるわけがない。それは賢いとか、聡いとか、そういう言葉で表すにはあまりにも足りない。七か国の均衡を崩してまでしようとしたことがそれなら、彼女は異常と表現すべきだろう。


 けれど、あの王子に近付いて一体どんな得があるというのだろうか。確かに顔立ちは整っているけれど、半壊滅状態の国の跡取りなどに取り入ってもたかが知れているなど誰にでもわかること。そもそもそれが分かっているのに何故五年後の彼女も、私を殺してまで第一王子と結婚しようとしたのかも割と謎ではあるけど。


「とりあえず……、写真を撮って早めに退散しましょう。あの二人に姿を見られるのが一番厄介なのは間違いないのですから」

「……確かに。まあ、あいつをどうにかする機会はこの先いくらでもあるだろうし、宗教に関しての容疑者が一人分かったと思えば……」

「……ふむ、まあこんなところですかね。顔ははっきりしませんが、ミラなら解像度くらい上げられるでしょうし、そもそも、シユウ様が名前知ってるのでいくらでも調べられますし」

「うーん……、もうあいつが問題起こす前にさっさと始末した方が手っ取り早い気がするんだよなあ……」

「それが可能であるならばしてくださって一向に構いませんが、ああして第一王子と接点を持ってしまった以上、それは難しいのでは?」

「そうなんだよなあ、入学までは何もしないだろって思ってたから泳がせといたのに、まさかこの段階でこんなことになるとは思ってなかった……」

「まあ、彼女の処遇は今後考えるとして、一先ず戻りましょう。あの二人がどうなったのかも気になりますし、ここにいて出来ることもありません」

「……了解」


 渋々といった様子で私の言ったことに頷くと、身体を上げないように室内にコソコソと戻っていく。何だか今の私達が虫のようだけど、見つかったらそれこそ大事になりかねないわけだし。王子の逢引現場を婚約者の私が盗撮するとか結構なスキャンダルよ。まあどっちが悪いかっていうと世論は偏るでしょうね。


 静かに窓を閉めてから思うのだけど、正面から撮影するって結構な博打だったのでは。少しあの二人の意識がこちらに向いたら簡単に目撃されてたのは想像に難くないというか、正直今も気付かれていた可能性が捨てきれないというか。まあ、気づいたからと言って誰かに報告できる件でも無いのだけれど。


 携帯の写真を眺めながら階段を下りても、特に不自然な騒ぎが起こっているような様子はなかった。上手い具合にアディア様が処理してくれたと信じたいところだけれど、どうにもモヤモヤとした不安が晴れない。なんと言うか、現在進行している事態は、私が考えているよりももっと深刻であるような。


「……戻ったか」

「アディア様、どうでしたか、例の二人は。正直あまり期待はしていませんが」

「……端的に言う、いなかった。だが存在だけは確認された。廊下の絨毯から僅かながらルミノール反応が検出され、不自然に落ちている毛髪を見つけた。懇親会の開催直前に廊下の清掃が行われた以上、それらの証拠は間違いなく襲撃者のものであると断言できる」

「法螺吹きにならずに済んだことを喜びましょうかね。しかしその毛髪から有意義な情報は得られないでしょうが」

「何故だ?」

「どうせウィッグでしょう? 能力的に女の方の髪の毛ではないでしょうし、男の方は自毛である必要性がありません。ですから、血液からの情報に頼るしかないと、私は思います」


「そちらの用事は済んだのか? やたらと急いで出ていったが、何があった?」

「……アディア様ならば、大丈夫ですかね。他言無用を守ってくださるのであれば、お教えしますわ」

「わざわざ言われなくても、我は他人の情報を無許可で漏らしたりはせぬ。別に、話したくない内容であるならば無理に聞こうとは思わんが」

「第一王子が中庭で女と仲睦まじくお話していました。それを写真に収めてきたので、まあ、ちょっとした脅迫材料くらいにはなるでしょう。慰謝料を多めに貰えれば私としては助かる話ですが」

「……では、誰も狙われなかったということか? アンナの方も陽動などではなく、そちらが主であり、それ以外の目的などなかったと」

「……その件に関しては、私よりもシユウ様の方が説明者としては適任かと。私がこの件に関して誰かに教えるのは、役割の逸脱であると判断しますわ」


 アディア様は不可解といった表情で私を見るが、シユウ様が自分の未来予知のことをどこまで人に話しているのかがわからない以上、確認も取らずに話すわけにはいかないというのが私の倫理観だ。というよりも、私も怖くなったというべきなのかもしれない。未来が変わるということの、不確定性に。


「なあなあアンナ、なあアンナ。さっき言ってた暴飲暴食に付き合ってくれるってやつそろそろ行かない? 料理自体はまだ大量にあるけど、お腹空いたしさー」

「ああ、そういえばそんな話もしましたわね。その場しのぎの嘘だったということにして一人で行ってくれませんか?」

「それはないよ! 楽しみにして待ってたし普通にお腹空いてるし! 近くで見てるだけでもいいから一緒に回ってくれよー!」

「それで一体何だというのか……、まあ、私もお腹は空きましたし、付いていきますわよ。さあ、シユウ様はどれほどの量を食べるのでしょうか。今から楽しみですわね!」

「やべえ、なんかよく分かんない期待掛けられた。あっ、胃袋破かれるやつだこれ!」


 いつか、素の私の言葉で気持ちを伝えるまでに厄介な問題が解決していてくれると嬉しいんだけど。まあ、とりあえず今日はもう考えるのをやめて、美味しい料理をお腹いっぱい食べよう。帰りの車の中でシユウ様の肩にでも頭を乗せて寝てみようかしら。きっと、いい夢が見られるわね。

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