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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第二章 懇親会編
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66、私は盗撮します

「……シユウ様、ミラからの伝言です。私達二人で、中庭をバレないように撮影してこいとかぬかしやがりましたわあの女」

「は? 中庭? 花と噴水くらいしかないのに何を撮るんだよ」

「さあ、私に聞かれても。すみません、バレずに中庭を覗ける位置はありますか?」

「二階のベランダからならば容易かと。よろしければ案内いたしましょうか?」

「いえ、この件に関して必要以上に責任を分散させる必要はないでしょう。私とシユウ様の二人だけの責任にしておいた方が都合がいいと思います」

「畏まりました。では、私はこれで失礼させていただきます」


 携帯を渡すと、何事も無かったかのように自然な雰囲気で去っていったけれど、なるほど、機関がここまで周囲に溶け込む能力に長けているならば、シーツァリアに大勢の機関が潜り込むのはそんなに難しい話ではないわね。人間は周囲に合わせる生き物だけど、全てに合わせるというのは常識離れした芸当なのよ。


「アディア様、恐らくはすぐに戻ってくると思いますが、後処理はお願いしてもよろしいでしょうか?」

「ああ、そちらは任せてくれていい。主は、主のすべきことをしろ」

「ありがとうございます。さあシユウ様、行きますわよ」

「くそー、なーんか全部納得いかねえ……」


 迎賓館の内部はそこまで複雑な造りではなくて、比較的所見の人間でも迷わないような構造になっている。迎賓館という建物である以上、最低限の警戒は必要であり、それが少しだけ複雑さに表れているのだけれど、私は前にここを訪れたことがあるので迷わずに二階に上がれた。


 今回の懇親会で使用されない空間だからって少し人気がなさすぎる気がしないでもないけれど、今の状況では好都合。端の方の部屋に入るととりあえずは窓を開けずに中庭を見下ろす。中庭の中心部、花に囲まれたベンチに、シーツァリアの第一王子が腰掛けていた。屋根で見えないが、恐らく一人ではない。


「ありゃ向こう側に女がいるな。まさか懇親会まで抜け出して逢引とは。王族としても人間としても落第点だわ」

「本当に落第に出来れば良かったのですが、そういうわけにも行きませんからね。……あのベンチの正面方向にも部屋がありますわね。あちらに周りましょう。上手く写真を撮れれば、二人に対してのいい材料になります」

「スタッフに紛れ込んでる機関からミラに連絡が行ったってことか。学園内の王子の評判を操作する役割のあいつに伝えなきゃいけない情報。そこから自由に行動できる俺とアンナにお鉢が回ってきたわけだ」

「……お鉢? 何ですかそれは? ロデウロの諺か何かで?」

「え? ああ、いや、そんな感じ……」


 シユウ様の不可解な発言は後で問い詰めるとして、言っていることは概ね正しいとは思う。この場に入ってくることが出来ないミラとしては、意図を理解してくれるであろう私達にその先の行動を託すしかなかった。今後私が追い詰められた時、ここでの証拠は絶対に重要になってくる。失敗するわけには行かない。


 とりあえず部屋を出て、ベンチの正面方向にある部屋へと移動を開始する。誰も歩いていないから私達も堂々としているけれど、これから王子の弱みを握るための写真を撮る人間の態度じゃないわね。私としては弱みは握られる方が悪いと思っているので、罪悪感みたいなものは微塵もないけれど。


「暇な今の内に私の考えをお伝えしておきます。襲撃者の目的は私を攫い、王族の血を絶やすことだと、まあ言っていたわけではありませんが半分くらい言っていたようなものでした」

「シーツァリアを滅ぼすための襲撃か」

「はい。しかし、恐らく私の誘拐は本筋ではなかったのでしょう。移動系統の能力者がいれば本来誘拐は容易。わざわざ二人がかりで私のところに来るとは考えにくいです」

「……だから急いで会場に戻ってきたのか。もしアンナが本筋じゃないなら、本命は俺達王族の誰かだと思って」

「それもどうやら違ったようで、何事もなかったわけですが。我が国の第一王子が狙いかとも思いましたが、あそこでああして呑気にしているということは、それも違ったようです」

「でもそれだと、何のための誘拐だったのか本当に分かんなくなるな。そもそもアンナが本命だったか、あるいはこの懇親会場の外の何かが目的か、それか、目的は既に達成されてるか」

「もしそうだった場合、私の件はもう少し騒ぎになると踏んでいたのかもしれませんわね。それで他の騒動が有耶無耶になればいい、くらいの計画だったのかもしれません」

「……シーツァリアを滅ぼすことのどこが『少女のため』になるんだろうな。国が一つなくなれば、それだけ面倒も増えるなんて少し考えれば分かりそうなもんだけど」

「さあ? 馬鹿なのではありませんか?」


 考えても分からない話は考えるべきではない。少なくとも今は、見つからずに写真を撮ることに全神経を注ぐ時なのだから。電気の無駄と言えば無駄だけれど、防犯上から全ての部屋の電気が点いているのがありがたいわね。お陰で不自然に思われることなく部屋に入れる。けれど、窓を開けるところは気をつけなくてはならない。


 全神経を集中させ静かに窓を開け、私は四つん這いに限りなく近い四足歩行でベランダに出る。掃除が行き届いているのか、手が汚れることもない。こんなに好都合なことがあっていいのかしら。まるで、今からそれらを帳消しにするほどの最大級の不都合が訪れる前触れかのような。


「……やはり女ですわね。同年代くらいなのは見れば分かりますが、何と言うのでしょう、不思議な雰囲気の持ち主ですわね。髪が水色、ということはシーツァリアの人間なのでしょうが、あんな人を学校で見たことは無いですわね……。……どうかしましたか、黙り込ん……で?」


 隣にいるシユウ様の形相は、まさしく憤怒。嫌悪も憎悪も何もかもを含んだ感情を剥き出しにした顔。基本的に誰にでも当たり障りない対応をするシユウ様には、本来あり得ない表情。目が見えないのが、ある意味では私にとって幸運だった。全ての負の感情を見れば、私がどうにかなってしまいかねないとすら思った。


「……シユウ様、唇を噛みすぎです。血が出ていますわ」

「……アンナ、あの顔を覚えておけ。高等部入学辺りから必要になってくるはずだ」

「高等部? ……まさか、特待生ですか?」

「……ユウ・エゴ・スクリーンオルタ。どういうことだ、なんであいつがこんなところに……?」


 なるほど、あれが五年後に私を死刑へと追い込む女。シユウ様の怒りの理由は私だった。嬉しいけれど、少し複雑な気分ね。

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