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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第二章 懇親会編
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65、私は丁寧な説明をしない

「シユウ様! 何事もありませんか!」

「びっくりしたあ! 背後から急に大声出すなよ! お前らも絶対気付いて黙ってたよな!?」

「いやまぁ、気付いてて黙ってたのはそうだけど、アンナのこっちに走ってくる迫力が凄くて言う暇がなかったっていうか……」

「私の事はどうでもいいのです! こちらで何か物騒な事は起こっていませんか!」

「えぇ、凄い剣幕じゃん……。……別に何も起きてないけど、何かあったの?」


 何も起きていないということ自体がある種異常とも言える現在だけど、確かに会場で騒ぎが起こったような様子はない。私の大声に一瞬周りも反応を見せたけれど、それは私がこの場に戻ってきた驚きなどを示すものではなく単純に大声に対する反射的な反応だろう。私の方で起きた事態はこちらまで伝わっていない。


 王族はこの場に六人集まっている。ならば何も起こっていない、じゃない。忘れていた。今日この場には王族は七人集まっている。一度も姿を見ていないから全く意識になかったけれど、我が国の第一王子も一応参加していたのを完全に失念していた。むしろ最優先に狙われるならあの王子だろうに。


 だけどどこにいるのかが検討もつかない。会場内で一度も見ていないならば、そもそも今日ここに来ていないとも考えられる。希望的観測かもしれないけど、ならばそこまで急いで対応する必要もないか。別に連れさらわれてたとしても不利益があるわけでもなし。私としては得しかないわけで。


「ええ、お手洗いから戻ってくる最中に襲撃を受けました。男女二名を移動不能にしてここまで戻ってきましたが、恐らくはもういなくなっているかと」

「はぁ? ちょっと待ってどういうこと?」

「アディア様、こちらのハンカチを」

「……これは?」

「襲撃者の男の血液です。機関の方で調査して頂ければ、ある程度身辺については判明するかと思いまして」

「なるほどな、そのポケットの膨らみはなんだ?」

「女の方から奪ったスタンガンです。どこで製造されたものかは分かりませんが、恐らくは既製品の違法改造でしょう。こちらもお渡しします。流石に指紋までは気を配れなかったので、証拠としては薄いかもしれません」

「いや、十分だろう。……フィーゼ、聞こえるか。女子トイレ付近で襲撃が発生した。男女二名が移動不能状態で放置されているらしい。仲間に回収される前に隠密に迅速に拘束しろ。以上だ」


 アディア様が服の隙間から取り出した手元のトランシーバーから、了解という女性の声が聞こえた。恐らくはハージセッテの王族に仕える部隊なのだろうけど、女性がトップとはなかなかに珍しい。あるいは何かしらの意図があってそういう人選をしているのか。それにしても私の発言を受けての行動が速い人だこと。


 焦るべき現状ではありがたい話ではあるけれど、厄介な事態への対応にその歳にしては慣れ過ぎなのではと思わなくもないわけで。平たく言えば場慣れしすぎ。不気味に映るほど、というと失礼かしら。まさかハージセッテでそういう役割を担っている、とは考えたくないけれど、ありえない話でもないのが怖いところね。


「女の能力は髪の毛の硬質化、男の能力は他者を中心とした円周上の瞬間的な移動です。男の方は右足の膝下を喪失しているので逃走は不可能だと思いますが、迎賓館の敷地内にいたと思われるので恐らくは内部にも協力者がいる可能性が高いかと」

「ちっ。絶対にいるとは思ったが、まさかアンナを狙ってくるとは想定していなかった。迂闊に一人で歩かせるべきではなかったな。申し訳ない、浅慮だった」

「いえ、私が一人になるのを待っていたのでしょう。そして次に狙ってくるとしたら、この場にいない王族です」

「……シーツァリアの転覆が狙い? 宗教の発生した国を自ら潰しにかかっていると考える根拠は?」

「男が言っていました。シーツァリアが無くなれば七か国は今よりも健全になると。宗教が発生したからこそ、なのかもしれません」

「なるほど。自分達の様な者をもう出さないように、という思考か。理解できなくもない。行動は短絡的だがな。……シーツァリアの第一王子の保護か。我としては、あまり気が乗らんな」

「私もです。正直、連れ去ってくれた方が色々と楽な気がしてなりません」

「ちょっ、ちょっ、ちょっと待って! ストップ! 一旦ストップ! さっきから当たり前みたいに話進め過ぎだから! 見て! 俺達のこのポカンとした顔! ついていけてないの分かるだろ!?」


 自然に進んでいく私とアディア様の会話をとうとうシユウ様が聞き流せなくなったようで、そんな突っ込みを入れてきた。やたらと四人が静かだなと思ってはいたけど、よく考えてみれば懇親会の最中に外部からの襲撃が起こったというのは結構な一大事だったわ。国家間に摩擦が生じかねない程度には。


 私にとってそれはもう解決した話として終わってたからそこまで考えてなかったけど、普通に考えればアディア様の反応がおかしいのよね。とはいえ、襲撃の具体的な内容はもう全部話しちゃったし、これ以上改めて説明することもないのよね。他の皆様には各自ご理解ご協力の程をお願いするということで。


「あら、付いてこれないのは自己責任では? 私はそこまで難しいことを話した覚えはありませんわ。シユウ様だって何があったのか自体は理解したでしょう?」

「したけどね! 何でそんな何事も無かったかのように淡々と話してんのってことだよ! 大問題だぞ! アンナに何かあったら俺はどうすればいいんだよ!」

「さあ? 頑張って私を探してくださいな。急げば間に合うかもしれませんわよ」

「そういうことを話してんじゃないじゃん!」


「申し訳ありません、アンナ・デルスロ・フォーマットハーフ様でお間違いないでしょうか?」


 いつの間にか、男性が近くに立っていた。服の上からでも鍛えられているのが分かる身体は、給仕としての制服では少々苦しそうに見える。しかし馴染んでいる。一介の給仕が王族の集まるこの場に当然の様に接近していることを誰も不思議に思わなかった程度には。もっと言うなら、馴染み過ぎている。


「……機関の方、ですか?」

「はい。軽率な肯定かと思われるでしょうが、私は貴女の話を度々聞いております。その上で、必要以上の隠匿が不必要であると判断しました」

「話を……、ミラフリウスですか。あれはまた勝手なことを……」

「そのミラフリウスから、緊急の連絡です」


 そういうと男は私に携帯を差し出してきた。極めて一般的な携帯が通話保留の状態で私に差し出されている。私の携帯に直接掛けてこなかったのは、盗聴を警戒した結果かしらね。それにしてもこのタイミングで緊急の連絡とは、どこかからか見られているような感じがして良い気分ではないわね。


「……もしもし、アンナよ。どうしたの?」

『端的に要件を伝えるね。シユウ君と二人で、バレないように中庭を覗いて。可能であれば写真を撮ってほしい。以上』


 そういうと同時にプツリと通話が切れる。ミラにしては珍しく余計な雑談がなかった。ああ、もう、嫌な予感しかしない。

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