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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第一章 出会い編
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6、私は見抜かれます

「城の奴らからしても、王子の行動は目に余ったらしい。国の衰退に気付いてない王子は、放置しておけば本当に平民とでも結婚するだろう。それを阻止するために白羽の矢が立ったのが、アンナ嬢だ」

「私の立場ならば、王子の近くにいるその平民に注意することはおかしいことでない。いえ、むしろ正当性がありますものね。王子がその真意を理解することは無いでしょうけれど」

「そう、無かった。だからお前は処刑された」

「まだ処刑されていません。勝手に殺さないでください」

「ごめん、睨まないで」


 私がその平民に露骨な嫌がらせをすることは、我ながら考えにくいですわね。もし怪我などされたらそれは私の責任になりますし、そもそも城の方々が気にしているほど、私に危機感は無かったことでしょう。最終的に取られたとしても、だからなんだという感じで済ませそうですし。

 どれだけ王子は話を盛ったのかと呆れますが、ただ、今の話にはそれ以上におかしいところがありますわね。いえ、おかしいところと言うなら最初から最後までおかしくないところなどありませんでしたが。その平民、何を考えていたのでしょうか。


「それは、王妃になるということですわよね。何の教育も受けていない、何の教養もない、何の知識もない、どこにでもいる平民が、国の頂点に立つことを許容したということですわよね?」

「……俺の知識はそこまでだ。その後のシーツァリアがどうなったかまでは、知らない。でも想像はつく。幼い頃からの婚約者だったアンナ嬢を処刑し、ただの平民と結婚した王に、付いていく民はいない」


 シユウ様のその予言が真実なら、この国が滅びるのはもはや時間の問題というわけですわね。いくらあの愚か者でもそこまではしないと言いたいところですが、してもおかしくないと思ってしまいます。庇いようがありませんわ。愚行の前例が山ほどありますもの。

 そうなるんだったら、早いうちに私を解放してほしいものですが、将来的に婚約を破棄されるのが決定しているので、今のうちに破棄させてくださいなど、誰に言えば受理されるというのでしょうか。まずいですわね。もう頭の中に自殺の選択肢しかありませんわ。


「本当にその平民、何を考えていたのです? いえ、これから考えることになるのです、でしょうか? 自分が王妃になって、滅び行く国を救えるとでも思っていたのですか?」

「どうなんだろ。嫌がらせをしてくるアンナ嬢に怯えていたのは本当みたいだけど、処刑自体は王子の意思っぽいし、多分そこまで深く考えなかったんじゃないか? ほら、あの王子、顔だけは良いだろ?」

「顔だけは良いですわね。他が全滅ですが」

「だから、アンナ嬢に注意されても、何のための注意なんだかわかってなかったんじゃないかな。平民に貴族の考え理解しろってのも、まあまあ無理な話ではあるし」


 恐らく将来的な私とその平民の相互理解は不可能ですわね。私は万人が望む理想的な貴族を体現するために育てられた、この国における究極の貴族です。第一王子に近付くという行為の迂闊さも理解していない平民とは、常識そのものが噛み合わないことは簡単に想像できます。

 そしてあの王子も恐らくは上手く丸め込んだのでしょう。どちらが先に手を出そうと思ったのかは定かではありませんが、最終的にその二人が結婚したというのなら、あの愚か者は自分の良いところだけを見せ続けた。あの愚か者の悪いところを一つでも見たら望んで結婚しようなんて絶対に思えないはずですもの。


「その平民が学園に入学してきた方法は、成績優秀者に対する特別措置の特待生制度ですわね。それ以外に平民が入学する方法はありませんし」

「正解。王子はその頭が良いところとか、優しいところとか、可愛いところとか、女子らしいところが気に入ったらしい。頭悪くて、優しくないくせに欲張りだよな」

「自分にないものを求めたのでしょう。あの男は、自分の持っていないものを、欲しいものを、何をしてでも手に入れる性格ですもの。姑息に、陰湿に、過激に、人の道を踏み外してでも」

「だから俺あいつ嫌いなんだよな。まだ十歳だけど、今のうちに暗殺した方が世界が平和になると思う」


 それはつい先程、私がシユウ様に抱いた思いですが、言う必要はありませんわね。貴方を殺せば世界が平和になるなんて、真正面から言う台詞じゃありませんし。なぜかシユウ様は私に冷たい反応をされるとすぐに謝るので、こんなことを言って泣かれても面倒ですもの。

 暇潰しのつもりで聞いてみた話でしたが、なかなかどうして聞き入ってしまいましたわね。登場人物の性格が現実に近かったからでしょうか。不思議なリアリティを感じてしまいましたわ。まるで私が本当に処刑されるかのように。


「……今の俺の話、信じてないな、その顔」

「あら、私の顔はそんなに分かりやすかったでしょうか? 感情を隠すのは得意なのですが」

「得意なんじゃなくて、そうしなくちゃ生きていけなかっただけだろ。……でも俺には、今の話を信じさせるとびっきりの切り札がある」

「……切り札?」

「お前の能力について」

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