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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第二章 懇親会編
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59、私は対策を立てます

「ここ十数年でシーツァリアの国民の数はざっと百万人くらい減少してる。他国に移住したってのもあるし、産業が滞ってて、出生率を死亡率が上回ってるってのも理由の一つだな。それを踏まえると、他国に漏れ出た人数は大体、七十万人弱、くらいかね。ほい、紅茶。丁寧に入れてたら時間かかっちゃった。ごめん」

「あ、いえ、ありがとうございます」

「どういたしまして。もしその移民のうち一割でも宗教に属していたのなら、現状どこまで拡大しているのか推測もつかない」

「相変わらず、勉強は苦手なくせに国勢だけは頭に入っているなお前は。それともシーツァリアの情報だけか?」

「まさか。七か国の状況は可能な限り頭に入れてる。絶対に必要になってくる情報だからな」

「……その曖昧な未来予知は一体どこから来ているんだかな」


 ソーサーに乗ったティーカップの中には、半透明の液体が注がれています。ゆらゆらと動くそれに不純物は浮かんでおらず、しかし私はそれに口を付ける気が起きませんでした。この場の誰かが発言する度に、事態が深刻さを増していく。七か国として成立してきた世界が、崩壊の危機を迎えている。

 私って、こんなに逆境に弱かったでしょうか。いつものような作り笑いを忘れてしまっています。シユウ様に笑いながらお礼を言おうと思っていたのに、頬が引きつって気の利いた返事も出来なかった。死ぬことなら、いくらでも考えてきました。ですが、滅びることなど、考えたこともなかった。


「だけどまあ、いくつかなら推測できることもある」

「ほお?」

「一般的に、少女と呼称される年齢は、まあ初等部から中等部くらいの年齢だろう。六歳から十五歳くらいだな。間は九年。シーツァリアの人口が減少し始めた時期とは明らかにずれてる」

「つまり、シーツァリアの人口減少に便乗して、規模を拡大した可能性があると?」

「便乗したのか、運良く被ったのかは分からないけど、通常の環境下において、宗教はそんな都合良く流布されない。布教は意図的に行われるもので、偶然広まることはない。……ハージセッテにシーツァリアからの移民ってどのくらいいるんだ?」

「……六万人前後、といったところか。ハージセッテも別に、職的に余裕のある国というわけではないからな」

「尋問した男が、シーツァリアからの移民と関わったことは?」

「あるだろうな。輸出入に関してかなり上にいた男だし、それに比例して他国の人間と関わる機会は誰よりも多かった。そういう意味では、影響を受けやすい奴ではあったはずだ」

「なるほどな。七か国で一番真面目な国であるハージセッテがそれなら、他の国も似たような状況になっててもおかしくない」


 シユウ様とアディア様の会話を聞いている他の方々は、自国の様子を思い出しているのでしょう。プレントとハージセッテの間で起きたような問題が他の国でも次々と起こるようなことになれば、今までの安定性が失われているという不安感が民衆の間に漂い、保たれてきた関係性が瓦解しかねません。

 もし七か国の関係性が崩壊すれば、自国だけで食料を生産できていない国などは滅び、他の国に吸収されることになるでしょう。しかしそうなれば、いえ、そうなる前に、シーツァリアが行動を起こすことになる。『軍事』に長けた、シーツァリアが。その頃には宗教に完全に取り込まれているかもしれないシーツァリアが。しかも。


「……問題は、そこだけではありません。シーツァリアから他国へ移住する際、その手助けをしているのは機関です。加えて、シーツァリアの内部には大勢の機関の人間が潜入しています。その全てが、宗教に取り込まれていないという保証もない」

「うん、手助けをした移民の中に、教徒がいたかもしれないって可能性はあまりに高いな。もしそれが確定すれば、平等な組織であるはずの機関への信頼も揺らぎかねない」

「十中八九、いたでしょうね。旅行などの際に地道に布教した、程度ではそこまで深いところまで浸透しません。……浸透?」

「ん、どうした?」

「……洗脳は、伝染する、ということでしょうか?」

「……間接的に能力が拡大してるってことか? ……だとしたら、ある意味、考えてるよりは簡単に収束できる、かもな」


「どういう意味だ? すまない、能力に関しての話は疎くてな……」

「あー、まあユリーシクの『機械』とある意味真逆の話だしな。でも別にそこまで複雑な話じゃない。根っ子は一つってことだよ」

「……少女さえ捕らえることができれば、ということかい?」

「大体合ってる。そこまで強力な洗脳系の能力を持ってる奴がそんなに何人もいるわけがない。宗教の大元、教祖の野郎は、少女自身か、あるいはその身近な人物か。どっちかのはすだ」

「間接的……、そうか。全ての宗教思想を広めたのがたった一人だとすれば、その人物さえ捕らえ、能力を解除させれば、それらは一気に消滅する」

「その通り。勿論、能力を使ってるっていうのも現段階じゃ仮説でしかないけど、ほぼ間違いないだろうしな」

「だが、どう見つける? 主犯がまだシーツァリアにいるという確証もないんだろう?」


「間接的に拡散していく能力は、本人から離れるほどに効果が薄くなる傾向があります。過去に二例、同系統の能力に関する記述を読んだことがあります」

「……『バルタの信用ならない記事』と、『踊らされる民衆』か?」

「流石はセルムの第二王子ですわね。その通りです。両方とも広範囲まで広がる能力を持った者の生涯についての本です。パターン化してしまうのは危険でしょうが、それ以外に取れる対策がないのも事実。私は、その洗脳系の能力も同じだと考えます」

「でも、だからって今の居住地を割り出せるわけじゃないだろ? 七か国合わせて、初等部から中等部の女子が何人いる?」

「能力の保持者は、最初は直接能力を使用したはずです。自身の周りにいる、移住してもおかしくない者達に。そこから思想が拡散したのなら、シーツァリアの移住箇所には偏りが生じているはずです」

「……なるほどな。最も昔で九年前に、やたらと移住者の多い地域があるはずだってことか。それを調べれば、その近くに能力者がいる可能性が高い」

「ええ。機関の方にその情報は間違いなく残っているはずです。七か国の人口推移を最も詳しく記録していて、把握している組織ですから。あとはもう、虱潰しにして行くしかないでしょうね」


 全員の顔に、少しだけ安堵の色が浮かびます。もはや取り返しのつかない事態になっている、という深刻さから、まだ取り返しがつくという段階に戻ったからでしょう。私も先程よりは余裕を取り戻していましたが、落ち着いているわけではありません。いえ、別に焦っているとかではなく、怒っているのです。

 どんな目的があったにしろ、七か国を支配しようとしたその手口は悪辣そのもの。もしそれが実現していれば、ここにいる方々はどうなっていたことでしょうか。それは、想像するだけで腸が煮えくり返りそうになるほどの悪夢。メロデア様は捕らえて解除させると言っていましたが、随分と優しいですわね。


 殺すしかないでしょう。拷問で動機を聞き出した後、殺して全部無かったことにする。それが一番平和でしょう。

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