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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第二章 懇親会編
55/156

55、私は目を合わせます

「フラットぉ? あんた今なんて言った? 私がアディアの言葉をいつまでも引きずってるとか訳の分からないこと言わなかった?」

「聞こえてんじゃねえか! そう言ったんだよ! つーか、実際そうだろうが! 七歳の頃のことをいつまでもグズグズと! あの頃は自分も幼かったって認めればいいだけの話だろうが!」

「はあ!? それだと六年前の私がまるで間違ってたみたいでしょうが! さっきっから黙ってるそこのシユウ! 私はまだ諦めてないからね!」

「諦めてくれよ! 俺とお前がくっついてどこの誰が得するって言うんだよ! 大体俺はきっちり断ってんだろうが!」

「何が不服だっていうのよ! プレントの野菜がそんなに魅力的じゃないって言うの!?」

「そこじゃねえよ! なんでそんなに野菜の一点推しなんだよ!」


 少しずつ、少しずつでいいので足を後ろに下げていきましょう。背の高いメロデア様をさながら壁の様に扱うのは非常に心苦しいですが、これ以上の騒ぎを生まないためだと理解してくれるはず。ウェイン様に見つかないうちに静かにこの場を離れるのです。

 六年前の騒動の直接的な原因はシユウ様でも、その言い訳に使われた私は彼女からすれば諸悪の根源に等しいでしょう。彼女の能力がどのようなものかは未だ判然としませんが、この場の全員に作用するようなものを私一人に向けられてしまえばどうなることか。


 後ずさった私に気付いたのでしょう、メロデア様が私に目線を向けます。ですがその顔はどこか焦っているようで、表情を強張らせると手でこちらに何かを示してきました。恐らくは止まれ。もしくは動かないで、だったのかもしれませんが、時すでに遅し。

 シユウ様を睨みつけていたウェイン様がこちらに顔を向けてきました。直前までシユウ様に拒絶されまくっていたせいですかね。その眼にはストレスが浮かんでいました。そして、それよりも大きい愛情。呆気に取られていた私の目の前に、いつの間にかウェイン様は立っていました。


「……そういえば、さっきからハクアとメロデアの間に誰か立ってたわね。今まで一歩も動かなかったから全然気づかなかった。誰?」

「……初めまして、ウェイン様。私はアンナ・デルスロ・フォーマットハーフです」

「あんたが? ……へえ? 今後ずさったのは私から隠れようとしてって所かしら? 私に見つかったら何言われるか分からないもんね」

「……ええ、そこの王子が私を言い訳に使ったせいで、初対面の方から恨みを買っているようでしたので。気分を害さないうちにと思い、いつの間にか足が後ろに」

「ふっ、確かにね。こうして実際に会うまで、どんな女がシユウを誑かしたのかと思ってたけど……、その都合の悪いところも嘘で隠さない所は、認めてもいいかな」

「ありがとうございます。いずれバレる嘘を吐くのは苦手でして」

「それだけじゃないでしょ? 今のは嘘。あんたはその場凌ぎだろうと、窮地を脱出できるならどれだけ信憑性のない嘘だろうと貫き通すタイプ。特に家族には多いね。どれだけ適当な嘘だろうと、家族なら気付かないだろうと見下してる」

「……人には、プライベートとプライバシーというものがあります。私のパーソナルスペースを侵すというのであれば、私は貴女にも都合の悪い嘘を吐かなければならなくなってしまいますわ」


 小声でそう呟いた私をみるウェイン様の目に、少しだけ笑いが混じりました。その笑みが主張していた感情は、純粋な喜び。今の私の発言のどこに喜べる点があったのかは分かりませんが、ウェイン様は満足したかのように一歩下がりました。

 その後ろに焦ったような顔でこちらを見ているシユウ様を見ることができました。余程近付いていたのでしょうね。お互いに目だけしか見えないほどの近距離に。私からすれば、下手に目も合わせられないメロデア様よりも楽に話せた感じはしますが。


 さて、いよいよどういう能力なんでしょうかね。私の内心だけではなく、日頃どういう生活をしているかまで見抜かれてしまっています。それだけならば能力も絞れますが、現在の周囲の状況を考えてしまうと、私の知識では予想もつきません。

 いつの間にか、周囲に喧騒が戻っていました。恐らくは私と話している最中。今の出来事は実質無かったことになったのか、先程までの緊迫した空気は完全に弛緩しきり、こちらを見るウェイン様の表情は意地の悪そうな笑みでした。


「うん、あんたは私の好きなタイプの人間ね。その返しが気に入った。アディアとは大違い。だから今のうちに教えといてあげるわ。アディアは駄目。あれが第一王女じゃなくて本当に良かったと思っているのは私だけじゃないわ」

「まあ、人の上に立つのには向いてないのは私も認めるけどさぁ、そこまで目の敵にしなくてもいいんじゃないのとは思うわけよ。確かに六年前のあれは嫌な事件だったよ。それは認める」

「あの件の原因が私だって言われる度に沸騰しそうになるのよ。別に私が一切悪くなかったとは言わない。でもね、あの言い方は無かったんじゃないの!? 何て言ったか教えましょうか!?」

「あ、先程ハクア様から聞きました……」

「あれはなくない!? 私まだ七歳よ! こういう性格だからあいつに食ってかかってるけどね! 普通だったらもう二度と関わらないと思うような事件よ! 言い過ぎでしょ! 七歳の女の子に!」

「確かに、少々言葉が強いのではとは思いましたが……」

「少々どころじゃないでしょ! 下手したら国際問題に発展するやつよ! 他国の第一王女に向かってなんてこと言うのよ! 幼少期だったから許されたけど今だったら絶対許されないやつだからねあれ!」


 ヒートアップするウェイン様を止める術を私は持ち合わせていません。出来ることならばこういう事態に強そうなメロデア様に対応していただきたいのですが、周囲への対応に忙しそうですわね。対応というよりは口止めと言った方が正しそうですが。

 それにしても、これはもうアディア様を一回土下座とかさせないと冷静にならない問題なのでは。別にお二人の関係性の歪さだけで済む話ならばそこまで気にする必要はないのでしょうが、お二人とも王族ですからね。

 将来的にお二人が大人になった時、国の関係に歪さが生じるのは避けたい事態なのでしょう。シユウ様も随分と厄介な問題を起こしてくださったものです。しかも私まで巻き込んで。懇親会が終わった後にでも真剣に説教する必要が。どれだけ私は説教しなくてはならないのですか。


「そこに来て今回の件よ! もう駄目! 絶対に謝罪させる!」

「ほう?」

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