51、私は再び雑談をします
「ウェインとアディアの喧嘩の仲裁、だったか? うん、私の今日の主たる目的としてはそれだ。まあ、本来ならば前回の懇親会に参加しなければならなかったのに、不参加になってしまったことへの穴埋めという意味合いもないではなかったけれど、どちらかといえばそちらの方が強い」
「……でもさぁ、あの件て一応不可解ではあるのよね。ねぇ、アンナ?」
「はい? 私ですか? ええ、まあ確かに。プレントの野菜の質は誰もが認めるところです。輸出運搬用のコンテナの性能に関しても。あれの開発にはシーツァリアも多少関わったので、少しだけ雰囲気が悪くなったというのは否定できない所ですね」
「そうそう。長いことやってれば絶対にどこかで不備が出るのは避けられない話。プレントはそれを可能な限り最小限に抑えてきてた。なのに今更、腐ってた野菜がいくつか混じってた程度で苦情入れる? 私だったら絶対に止めてる」
「あのコンテナの開発に関わった国、今まで数個程度の腐った野菜ならば黙認してきた各国に仇なす行為といえば確かにその通りだ。だが、そこまで批判される話ではないだろう。過去に前例がなかったゆえに大事になってしまったが、何処の国が言い出してもおかしくなかったと思うが?」
「ハージセッテが言い出したってところに違和感があるわけでしょ? どっかの王族に仕えてる人達なら、あの二人を対立させるようなことは絶対にしちゃいけないなんて知ってるはずだもん。さすがに今回のは迂闊すぎる」
「まあ、それはそうなんだがね。ただ、だからといって現状をいつまで七か国が許容できたかというのはまた別問題だ。コンテナでの輸送が完璧な技術として確立されていない以上、今回の問題はいつか必ず起こったものだと私は思う。それが今だったというだけでね」
「……アディアが憎まれ役になったって?」
「そうは言わない。おそらくこの問題には本質的に彼女は関わっていないだろうしね。彼女は他国との交易にはほとんど関与していないのは知っているだろう? 彼女が専門にしているのは国内の治安を安定させる方法についてだ。今回もその例には漏れていないはず」
「偶然ハージセッテからその問題提起がされて、たまたまそれが懇親会の時期と重なったって? 別にありえないほどの偶然だとは言わないけど、少しだけ作為的な何かを感じるのも仕方なくない?」
「誰かがあの二人をあえて喧嘩させようとしていると? 捨てるには惜しい可能性ではあるけど、邪推のし過ぎという感も否めないな。そもそもそんなことをして誰が得をする? 七か国の関係性に罅が入れば、全員が満遍なく損をするだろうに」
「うーん……、外からの攻撃、とか?」
「外って……、七か国の外ですか? そんな戦争を仕掛けてくるような真似に意味があるとは思えませんが……」
「だよね。可能性として言ってみたけど、流石にないか。となると他に可能性は……」
「あの……、そもそもどうして、ウェイン様とアディア様って仲が悪いのですか? シユウ様からは犬猿の仲としか聞かされていないのですが、切っ掛けのようなものは無かったのですか?」
「切っ掛け……、これは言ってもいいのかな? どう思う?」
「いいんじゃない? むしろ知らないままウェインに会わせる方が危険だし、これに関してはシユウから言わせるってのもちょっと厳しいしね」
「それは、そうだね……」
「そんなに話しにくいことなのですか? 何と言いますか、王族の恥部的な……」
「まあ恥部といえば恥部だね。ウェインの。でもね、原因の一端はアンナにもあるんだよ?」
「え、私に? 会ったことどころかお顔を拝見したこともないのですが、私がどう関係できると……、……シユウ様ですか?」
「正解。さっきの映像見たよね? ウェインが駄々捏ねた時の映像。シユウの奴って昔からアンナアンナ言っててさ、ウェインの求婚断った時もアンナを理由に出したんだよね。その時のウェインは本当にもう、見るに堪えないって感じだったよ」
「あまり悪くは言いたくないが確かにそうだった。好きな奴がいるからそれは無理だというシユウに怒り続けるウェイン……、今思いだしても、悲しくなるというか……」
「本当にあの方は……、せめてもう少し穏便な断り方があったでしょう……」
「誠実といえば確かに誠実なんだろうけど、褒めにくい部類の誠実だから厄介なんだよね。で、その時にウェインを諫めたのがアディアなわけ。もう大喧嘩よ」
「ちなみに、何と言ったのですか?」
「一言一句覚えてるよ」
『やめろ醜い。今のお前の姿を見たら民が泣くわ。王族としての矜持以前の問題だ。人として最低限の誇りをも捨て去ったというのなら、庭に犬小屋でも用意してやるからそこに住むといい。安心しろ。食事はきちんと三食用意してやる。手を使わずに食べるならば、一生飼い殺してやるぞ?』
「……うわあ。短気な方なら間違いなくぶちぎれますわね」
「実際ぶちぎれたんだよねぇ。もうそっからは二人揃って能力使っての本気の喧嘩。周りで傍観してた私達も焦って能力全開で仲裁したんだけど、関係性の修復は不可能。あの時は城が崩れるかと思った」
「戦闘向きの能力じゃない私は城内の避難誘導を行っていたのだけれど、本気で城が軋む音というのはもう聞きたくないね。心臓に悪いよ、あれは」
「……流石は王族、と言えばいいのでしょうかね。シユウ様の能力にも驚かされたものですが、あれだって城を崩落させかねないほどの勢いを持つようなものではありませんでした」
「……ちなみにアンナは、能力持ちなの?」
「秘密です。と言えば、伝わるでしょう?」
「なるほどね。分かった、これ以上は詮索しない」
「ふふ、アンナは聡いね。どこまで開示するべきか、どこから秘匿するべきかの線引きが正確だ。どういう経緯で培われたものなのかは分からないけれど、シユウは苦労するだろう、ということだけははっきり分かったよ」
「逆に言えば、シユウとこのままくっついてくれればバランスが取れてるってことでもあるけどね。……なるべく、あいつに愛想尽かさないであげて? 不器用だけど、悪い奴じゃないからさ」
「……ええ、善処しますわ」
「うわー、不安ー」




