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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第二章 懇親会編
50/156

50、私は後悔します

「いや待て、違うんだって。忘れてたとかそういうわけじゃなくて、なんだろうな。覚えてたよ? 覚えてたんだけどこう……、ちょっと忘れてたって言うか」

「うんそう。シユウの言う通り、覚えてたんだよ。ただちょっと、思い出せなかっただけっていうか……」

「ごめんメロデア! 忘れてた!」

「てめえハクア! 俺ら二人が必死の言い訳を並べてるときに何自分だけ逃れようとしてんだ! ここはいっつも全員で忘れてないってどうにかして誤魔化そうとする流れとして毎回やって来てたじゃねえか!」

「それで全員揃って平等に説教食らうのがいつものお約束だろ! なにを俺ら二人を生贄に捧げて自分だけ回避しようとしてんだ! いつからそんなつまんねえ女になったんだお前は!」

「ごちゃごちゃぬかすな! 私は悪いことをしたら素直に謝るっていう人間として一番大事なことを学んだの! だから謝るの! あんたらは勝手に説教されてろ!」


 醜いですわね。どうもメロデア様に会って記憶を取り戻した際のやり取りに、何かしらのお約束のようなものがあったようですが、それをハクア様が破ったと。多分そこの言い訳のようなものは冗談なのでしょうが、この三名の喧嘩自体は本気ですわね。

 どうも本気でハクア様はお説教を回避しようとしているようですし、シユウ様とフラット様は本気でそれを咎めています。仲が良いんだか悪いんだか見てて分からなくなってきますね。いえ、それとも友達というのはこういうものなのでしょうか。


 私にこういう気安い関係の友人が極端に少ない、というか一人しかいないので、正しい友人関係というものからは縁遠いのですが、このくらい簡単に喧嘩してもいいものなのでしょうか。いえ、別にミラと喧嘩がしたいというわけではないので見習おうなどという気は一切ないのですが。

 しかしこの方たちは周囲からの目線というものを気にしませんわね。私はまあ、奇異の視線を向けられることには慣れているので、王族の方々と一緒にいても特に委縮したりすることはありませんが、この騒がしいお三方はもう少し気を配るべきなのでは。


 そんな三名を呆れたような笑顔で見ているメロデア様ですが、何と言うのでしょう。格好いいです。これは別に私の語彙力が急激に低下したとかそういう話ではなく、美形なのです。先ほどフラット様の容姿も褒めた私ではありますが、比較になりません。

 作られたものではなく生まれながらにして天から授けられたものだというのが理解できる完璧な顔の造形に、肩口辺りで揃えられた輝かしい金色の髪。十六とのことですが、身長は百七十を超えているでしょうか。スタイルが余りにも整い過ぎています。


 褒め言葉しか出てこないほどの容姿とは。シユウ様からメロデア様に関しての情報は一切聞くことが出来なかったのに加え、それ以外の断片的な情報さえも忘れてしまっていたので想像すらできていませんでしたが、たとえ想像していたとしてもこれを思い描くことは私には不可能だったでしょう。

 というか、『防衛的忘却』でしたか。強力すぎませんか。一度も会ったことが無い私の記憶まで忘れさせてしまうというのは、過度に行き過ぎているとすら感じます。下手に国の外に出たら私物を全て捨てられるといったような事態になりかねないのでは。


「いやメロデアに謝るなんてもういつもしてる当たり前の事なんだよ! でもそれをせめて少しでも明るい雰囲気で終わらせようってことになって、このくだりが出来たんじゃん! なんでそれを省略しようとすんだよ!」

「いやいや、もう飽きたでしょこれ! 確かに最初はこれでもいいかなって思ってたよ? でもさすがに三年目に突入しちゃうとどうかなって思わない? そろそろここらで心機一転して新しいパターンを考えるべきだと思うわけよ私は」

「……そう言われるとそんな気はしてくるな」

「うーん……、確かにメロデアの方もなんとなく飽きてる様子を醸し出してるような気がしなくも……」

「え、ここで私に飛び火するのか? というより、最初から言っているだろう? 私のことを気にして変な反応をするのはやめろと。これは私の能力による自己責任なのだから気にしなくていいと何度も言って来ただろうに」

「いや、でも……、なあ?」

「ああ……」

「うん……」


 先ほどまでの無駄な元気が一瞬でどこかに消え去りましたわね。ハクア様から予想外の正論が飛んできたことで自己弁護の気概が削がれたという感じですか。三年間も同じような発言を繰り返しているのならば、ハクア様の言い分も十分理解は出来ますので何とも言えませんが。

 メロデア様も明確な否定をしなかったということは、薄々マンネリさをどこかで感じていたのでしょうし、ある意味良い機会だったのでは。知りませんけど。正直勝手にやっていてくださいとしか思えません。傍から見てると茶番もいいところですわ。


 何度も何度もくどいくらいに繰り返しますが皆様もう少しでいいので王族らしい振る舞いをお願いできませんでしょうか。そこらの貴族よりも質が悪い人種に見えますわよ。そんな感情を込めて呆れの視線を向けていると、メロデア様が私に目線を返してきました。

 ああ、この方は優しい方です。そしてどうしようもなく残酷な方なのだと今理解してしまいました。目を合わせるべきではなかったと本気で後悔した経験はこれが初というわけではありませんが、過去で一番無かったことにしたいと強く思いました。


「初めまして、アンナ、であっているかな? それとも家名で呼んだ方が?」

「いえ、アンナで結構ですわ。初めまして、メロデア様。自己紹介は不要のようですわね。やはりシユウ様経由の情報ですか?」

「……そうだな。シユウの妄想癖は昔から我々の語り草だった。二年前に結婚の約束を取り付けたなどと報告してきた時は夢と現実の区別がつかなくなったのかと思って焦ったが……、こうして実際に目にして安心したよ」

「さあどうでしょう。ひょっとしたらその約束は夢かも知れませんよ? シユウ様の厄介な妄想癖が暴発したのかもしれません」

「ふっ、ははは。ひどいな。王族にそこまで遠慮なく言える貴族はなかなか少ない。シユウは良い相手を見つけた。どう見つけたのかは知らないがね」

「ええ、私も知りませんの。気味が悪くて仕方ありませんわ」


 この方は、寂しさなど感じたことがない。気味が悪くて、仕方ありません。

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