47、私は口説かれます
「なんで俺だって分かったんだ? 俺の方は、事前にそこの奴から話を聞いてたからすぐに分かったけど、まさか写真を見せられたってわけじゃないだろ?」
「ええ。ですが、王族に容赦なく暴力を振るっているような現場に、普通の貴族は近付かないでしょう。にもかかわらず、近付き、声を掛けてきた。そしてその赤色の髪。軽薄そうな口調含め、セルム第二王子のフラット様だと判断いたしました」
「軽薄そうな口調……。参ったな、俺ってそんな軽い奴に見える?」
「とても。多くの女性を泣かせていそうな容姿ですわ」
「フラット、これ褒め言葉な」
「まじで? 分かりにくいけど……、褒められたならありがとうと言っておこうかな。美しいお嬢さん」
「いえ、褒め言葉じゃありませんよ。普通に罵っていますわ」
「おいこらシユウ」
「あれ、判断難しいな……」
フラット様の見た目は思っていた以上に軽薄そうでした。整っているのは確かに整っています。これに口説かれれば大抵の女性は陥落すること間違いなしでしょうが、だからこそなおさら質が悪いのです。これが日常的に女性に求婚しているとは。傾国の男性なのでは。
整髪剤で軽く整えられている短い髪は、まさに燃えるような赤。癖毛なのかセットなのかは分かりませんが、ところどころが跳ねています。黒のスーツをかなり大胆に着崩していますが、どことなく漂う気品は佇まいから溢れているものでしょうか。カリスマという奴なのでしょうかね。
変わらずにハムを食べているこっちの王子にもそういう雰囲気があると言えばあるのですが、今は見る影もありませんわね。そもそも王族でもないただの貴族の女に教育的指導を食らっているシユウ様に、そんな高貴さを期待する方が間違ってはいます。
しかし、想像していた以上に気さくですわね。シユウ様の話から物腰が柔らかいような方だと予想はしていましたが、ここまで軽いともはや軽薄。気品はあっても威厳はない。私の暴言に怒らなかったのがいい証拠ですわ。侮辱罪で捕まってもおかしくない発言だったのですが。
「ま、改めて俺の方からも自己紹介はさせてもらうぜ。俺はフラット。セルム第二王子、フラット・ステム・ドットレイドだ。所詮は第二王子だし、気楽に接してくれると助かるぜ。可愛い女の子に礼儀やら作法を強要するような狭量な男にはなりたくないからな」
「あら、私可愛いですか?」
「勿論。可愛いだけじゃなく美人でもある。その年にしてもう王妃らしい気品があるとは、末恐ろしいほどだよ」
「まさに褒め殺しですわね。男性にそこまで褒められるのは初めての経験ですわ。ここでハムを食べているチキン野郎は恥ずかしがって全然そういう言葉を口にしてくれないので」
「くくく。そこの馬鹿は臆病だからな。確信したことしか口に出せないのさ。女子に髪切った? とか多分一生言えないタイプだ。俺はそんなことないぜ。そのよく手入れされた藍色の髪、ワンポイントの三つ編み。主張し過ぎず、しかし誰の横にいても個性が潰れたりしないドレス。どれもこれも最高だ」
「ふふ、ありがとうございます。似合っていなかったらどうしようと内心怯えていたので、そう言ってもらえるととても嬉しいですわ」
「どうだ、そんな奴ほっといて二人で話さないか? 楽しい時間を約束するぜ?」
「それはそれは。では」
「あーもうそこまで! フラット! 俺昨日連絡したよな! 冗談だろうと口説くなって! お前に真剣に恋して、傷ついていった女子は飽きるほど見てきたんだ!」
「はっ、お前が奥手だからだろうが。言っとくけど、俺は本心から褒めてるんだぜ。お前みたいに思ってるだけで口に出さない野郎と比べたら何十倍もマシだ」
「喧嘩売ってんだったら買うぞ!」
「……シユウ様? 喧嘩ですの?」
「……ちがうよー。喧嘩じゃないよー。な、フラット。俺ら仲良しだもんなー?」
「え? どうした急に?」
「いいから。話合わせて。お願い」
「……うん、俺ら仲良し。生まれた時から仲良し」
「そうなのですか。それならばいいのです。安心しましたわ。シユウ様には再三再四、面倒事を起こさないようにとお願いしておりましたものね。シユウ様は私の胃にこれ以上負担を掛けるようなこといたしませんわよね?」
「あったりまえじゃん! 俺の優先順位の一番上はアンナ嬢だよ!」
「今のお前すげえ気持ち悪い……」
わざとらしい笑顔を浮かべてシユウ様を見つめると、ダラダラと汗をかいています。あら、この会場はそんなに暑くないはずですが、どうしたのでしょう。体調でも悪いのでしょうか。心配ですわね。まあシユウ様のことなので放っておいても大丈夫でしょう。
私が並べられた料理の方に目を向けると背後から安堵を含んだの溜め息が聞こえました。まあ数日前から何度も繰り返し言ってきた約束事を破ろうとする方が悪いですわよね。そもそもただでさえ王族は周りから注目されているというのに、よくもまああんなに騒げますわね。
すっかり静かになってしまったので私はどんな料理があるかでも見ましょうかね。ふむ、肉、魚、野菜。全体的にバランスと彩りが完璧な盛り付けですわね。一つ一つが小さく、食べ易くなっているのは料理長の気配りが見えますわね。幼い頃、私の口が小さくて彼に迷惑をかけたことが多々あります。
勿論、口元を汚さないように、食べ方が汚く見えないようにという考えがあっての事でしょうが、どことなく懐かしさを感じるのは気のせいではないでしょう。ん、どうやらデザートは少し離れた別の机のようですわね。後で見に行きましょう。
「……そういやフラット、他の奴等は?」
「まだ見てない。できればこのまま来ないでくれると懇親会も平穏に終わるんだけどな!」
「確かに。違いないな! あっはっは!」
「あっは……、……俺ちょっとお腹痛くなってきたからトイレ行ってくる。気を付けてな?」
「はっはっは、いやいや、逃がすわけないじゃんこの状況で。俺の後ろに誰かいるだろ? 分かっちゃうんだよなー、そういうの。だってなんか寒いもん。仲良しなんだから死ぬときは一緒だろ?」
「ざっけんな! 一人で死ね!」
「そもそもさあ、今この場から逃げて完全に逃げ切れるとでも思ってるわけなの? あんたら馬鹿コンビは」
後頭部で一束に纏められた腰よりも下まで伸びる長髪。その色は輝くような白。組まれた腕にはたわわに実った胸が乗っかっています。歳は私より二つ上らしいですが、本当ですかそれ。年齢詐称とかしてませんか。いや、してますわよそれ。
ディレッタ第二王女、ハクア・ステイロ・リストベア様は、確かな怒りと共に登場しました。
シユウ・ヒストル・フルランダムとフラット・ステム・ドットレイドの幕間1
「……どうだ、フラット。分かったか?」
「……何が?」
「アンナの性格、最高だろ?」
「お前マゾなの?」
「ツンとデレがめっちゃくっきりしてて、笑顔を見ると俺はとても幸せになる。いずれそれが来るって思うと、多分殺害予告されても俺は幸せだ」
「それ調教が着実に進行してるんじゃないのか?」




