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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第二章 懇親会編
45/156

45、私は寝ます

 懇親会前日になってしまったわけですが、なんだかここまで来るともういっそ晴れ晴れしい気分ですわね。面倒や緊張が限界まで達すると人というのはこうなるのでしょうか。そんなわけがありません。全部嘘です。未だに私の身体、主に胃は明日という日に拒否反応を起こし続けていますわ。

 今日の夕食は無駄に手の込んだコース料理でした。どこの国の料理なのでしょうね、あれは。そもそも私があまりコース料理というものが好きでないことに加え、一品物の方が好きという嗜好も重なって、メインディッシュ到達前にギブアップ。弱った胃は好きでもない食事に耐えることができませんでした。


 私くらいの年頃が過度なストレスを溜め込むのは成長にあまり良くないのではないでしょうか。これは適当に言っているだけですが、身体は健全でも精神が健全でない現状で、正しく成長するというのも無理な話ではないかとは思うのです。ええ。少なくとも健康な食生活からは遠ざかっているわけですし。

 それもこれも全部あの害虫以下の第一王子のせいですわ、と、昨日までなら言えたのですが、今となってはそうでもないのです。心的負担というよりは、純粋な緊張。先日のシユウ様からのお誘いが私の心を強張らせています。


 忘れがちになるのですが、私達ってまだ十二歳なのですよ。中等部に進学したとはいえ、誕生日も迎えていない未成熟な年頃なのです。いえ、分かってはいるのですよ。貴族の結婚に年齢が関係ないとか、別に特別何かを報告するためにロデウロに行くわけじゃないなんてこと。

 ただ問題はそこじゃないわけですわよ。十七歳になった自分なんて想像できるわけもないですし、当然、王子が平民の女に誑かされて私が処刑されるなんて未来も想像できませんし。そこからシユウ様に助けられてそのまま結婚なんて具体的に想像しろという方が無茶でしょう。


 そんな自分の未来もあまりに不透明が過ぎるこの私が隣国の第一王子に顔見せとは一体どういう運命の巡り合わせでしょうか。いえ、このままシユウ様と一緒にいるつもりであるならば避けられない出来事の一つではあるのです。確かにそれはそうです。

 この場合私の胃を攻撃しているのはこのタイミングで、懇親会を控えたこのタイミングでそんな話をしてきたシユウ様の気遣いの無さです。いえ、まさかシユウ様も私がこんなことを考えているなど想像することすらできないでしょうが、懇親会の後じゃ駄目でしたかねその話。


 まあ、反射的に構いませんわなどと返事をしておいて何を今更うだうだ言っているのかとは自分でも思います。いや、深く考えたのが後からだったんです。言われてすぐは現実を微妙に脳が許容できておらず、行き先を提案してくれたなら断る理由もないですわねとか楽観的なことを考えてしまっていたんです。

 後になって考えてみればロデウロの次期国王に顔見せなどという正気かと疑いたくなるような訪問内容。逃げるつもりはないとはいえ、なんだか確実に着実に外堀を埋められて行っているような気分と言うか、逃さないと言われているような気分です。あの人にそんな考えはないのでしょうけれど。


「まあ、外堀を埋めてるって側面も無いわけじゃないだろうね。束縛とか独占欲とかそういう話じゃなくて、単純にアンナを気遣ってのことだと思うけど」

「どういうことですの?」

「いくら第一王子が害虫以下だとしても、アンナはその婚約者。十七になって他の王族と急に結婚しますなんてあんまりいい話じゃないでしょ。そういう将来的な悪評を避けるために、今の内から仲が良いぞってアピールをして周りに知らせておいてるってわけなんじゃないの?」

「……私がシユウ様を誑かした、みたいな悪評を回避するための策だと? ……いえ、まあ確かにそうですか。留学してきて初日からシユウ様と仲が良いなど本来あり得ない話。私が何らかの手段を用いてシユウ様を篭絡したと考える者がいてもおかしい話ではありませんものね」

「事情を知ってる側からすると真逆なんだけど、世間はそれを信じてはくれないだろうねえ。国の第二王子が、他国の次期王妃に初対面でプロポーズしたなんて現実味があまりにもない。それこそ御伽噺の世界だ」

「まあ、そうですわね。御伽噺というのであれば、シユウ様が言っている五年後の方が余程御伽噺染みていますが」

「それは確かに。……でも実際不自然な話だよねえ。いや、今更シユウ君を疑うってわけじゃないんだけど、あの第一王子が平民を選ぶのってかなり、滅茶苦茶に怪しいと思わない?」

「……それは、思ってはいましたが」

「でしょ? あの贅沢しなきゃ死ぬ、自分が一番じゃなきゃ死ぬみたいな考えの第一王子が、頭が良いとか優しいとか可愛いとかだけの理由で平民を王妃にするかね? 立場的にも選びたい放題だろうに」

「では、何か別の要因があったと? 王子が平民を正妻にするに足るだけの要因が」

「そう言われると……、いや、普通に誑し易そうだよねあの王子。身体で陥落されたとかそんなんじゃないの?」

「ああ、有り得ますわね」


 容易にあり得ると確信できてしまうのがこの国の悲しい所ですわね。他国からハニートラップでも仕掛けられたら明日にでもこの国は滅ぶのではないでしょうか。現国王がそこまで色欲に溺れているという話は聞いたことがありませんが、十二歳の少女の耳にそんな話が入っていたらそれこそ末期ですわね。

 しかし、何が致命的な要因となってこの国を崩壊させるのかということには一考の価値があるかもしれませんわね。まあ、それを回避してしまうと私の婚約が破棄されないので見過ごしますが。王子を見殺しにする次期王妃とは前代未聞ですわね。面白いですわ。


「……でもさ、ロデウロの第一王子に紹介するってことは、アンナの事情とか理解してるってことなのかな?」

「……え? ロデウロ第一王子がシーツァリアの未来を知ったうえで放置していると? そんなことあります? 国が一つ減った場合の面倒さは貴女が教えてくれたのでは?」

「近い未来だけ見据えたらそりゃ無くなったら困るよ? でも数十年、数百年後を考えると、メリットとデメリットのどっちが大きいかって結構わかんないんだよね」


 ああ、考えること、頭を悩ませることが増えてきましたわ。なぜ懇親会を明日に控えているのに私は自ら悩み事を増やしてしまったのでしょうか。まあ、今更ですわね。さて、明日着ていくドレスの準備でもして、今日は寝るとしましょう。

 夢の中は不可侵なのです。

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