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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第二章 懇親会編
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43、私は報告する

 デートの約束を取り付けるというリーデアに放った大言壮語を達成したので、そのことをその日の晩に伝えました。例によって私の部屋です。うちのメイド達は私の部屋を談話室か何かだと勘違いしている可能性がありますわね。

 リーデアは私の話を聞くと、両手の平をこちらに向け、馬鹿みたいに口を開けてこちらを見ていました。当然むかついたので大きく開いた口に手元にあった空き缶を突っ込んでみました。意外と入るものですね。思い切り咳き込んでいましたが自業自得でしょう。


「まあ、今の顔は冗談にしても、実際問題として重要なのはここからですよ。出かけてからどのくらいアプローチを掛けることが出来るかで勝敗は決まるわけですから。特にアンナ様は立場を気にする傾向が強いので、苦労するだろうと私は見ています。自分でもそう思いませんか?」

「思うわよ。今は余裕だろうなどと考えているけど、その時になったらおそらく無理でしょうね。恥ずかしさが勝ってしまって、まともに手を繋いだりも出来ないだろうというのは予想がつくわ。ええ、貴女の思ってる通り、どうせ口先だけの女よ。笑えばいいわ」

「卑屈すぎませんか? まあ、手を繋ぐのが無理にしろ、何処に行くかの候補くらいは考えておいた方がいいと思いますよ。当日になってからグダグダするのも……、まあありといえばありですけど、アンナ様的にはあまりお気に召さないでしょう?」


 問題点としては二つ。私はどこかに出かけたいという欲が極端に薄いので、候補を考えるのがかなり厳しいということ。シユウ様はどんなふざけた場所に誘っても唯々諾々とついてくるだろうということ。そうなると結局行き先はシユウ様に丸投げするのがいいということになりかねませんが。

 というか、シーツァリアに観光名所や名物などって無いのですよね。いえ、無いわけではないのですが、年々人口が減ってきている国がそんな方向に力を入れられるわけもなく、観光事業などに関しては衰退しているという言葉以外に表現が出来ません。


 そもそも国の特徴からしても観光して楽しい国というわけではありませんし。シーツァリアが七か国で請け負っている分野って『軍事』なのですよ。軍事というのは幅広く言っているだけで、より詳細に言うならば、有事の際に身を守る術の開発、といったところでしょうか。

 七か国の外側から戦争を仕掛けられることが無いという保証はありませんし、道端を歩いていたら刃物を持った不審者に襲われることだってあるでしょう。そういったことから身を守るための開発を日々行っているのが、七か国で『軍事』を司るシーツァリアなのです。


 要するに、流行っているお菓子とか、人気の娯楽とかそういったものが国内で発達することがあまりにも少ないのです。方向性としては完全に真逆なので。遊びに行くという話になった時に、まあ困るわけですわね。最終手段としては、他国に行く、でしょうか。

 そこまで敷居が高い選択肢というわけではありませんが、日帰りという発想は捨てた方がいいかと。そこまで近距離にあるというわけでもないので、ろくに楽しめないまま日が沈むでしょう。私のこの楽しくない性格は私だけの責任ではないというわけですわね。自己弁護です。


 国のことに関しては住んでいる人間よりも詳しいであろうミラにそういったことを話してみると、腕を組んで唸ってしまいました。なにやら悩んでいるような、あるいはどういう言葉で説明するか選ぶのに手間取っているような。


「……確かにシーツァリアって来て楽しい場所じゃないもんねえ。今回の懇親会の開催がシーツァリアなのだって、ぶっちゃけ、何か起こった際に一番対処が楽だからだし。兵士の練度も高いから、それだけで抑止力にもなるし」

「他の国を知らないので何とも言えませんが、この国の兵士って強いのですか?」

「強い。勿論六か国敵に回しても勝てるかって言われると微妙……、いや、勝てるのかもね。七か国の取り決めが締結されて以降、目に見える争いは起こってないけど、備えは必要だって考えてるのはどこも同じ。そうなると自然、シーツァリアの開発した兵器やらは高額で取引される。三世代に渡って王族が愚かでもなんとか存続してるのはその部分が大きいし」

「……六か国と戦っても勝てるというのは大げさでは? 年々、数人とは言え兵士の数も減っています。その中には、他国に移住した者もいるとか。そんな纏まりの無さで、勝てるものですか?」

「はっきりとは分かんないよ。ただ、シーツァリアがなにかを隠してるのは間違いない。開発した最新の技術を、片っ端から他国にばら撒くほど愚かじゃないと考えるべきなのか、六か国にまでそのうち喧嘩を売ることを考えているほど愚かなのかは、判断に迷うところだけど」

「敵対国に周りを囲まれても、形勢を逆転できるほどの隠し玉がある可能性があると?」

「あるんじゃないかなあ。ここ五十年、シーツァリアの開発速度は明らかに衰えた。王が愚かだからで済ますのは簡単だけど、私はそうじゃないと見てる。技術公開のスパンを長くすることで、開発にある程度の余裕を持たせて、その時間を別のものにあてている、とかね」

「そのレベルの深い部分に潜り込んでいる機関の人間はいないのですか? 三十年近く続けられているのでしたら、そのくらいに信頼を得ている者がいてもいいような気がしますが」

「警戒心だけは強いっぽくてねえ。どうもそんな素振りすら見せない。私は今、凄い確信があるみたいに話したけど、全然ない。何の証拠も証言も、一切見つかってない。今の話は私の妄想だと思って聞き流してくれてもいいよ」

「いえ、火のない所に煙は立ちません。貴女がそう思ったなら、そういう雰囲気があるのでしょう。頭に入れておきますわ」

「流石親友。ありがたい話だよ」


 いつから親友になったのでしょうね、私達は。気が付けば、学園内での長い時間のほとんどを彼女と過ごすようになっていました。秘密を共有し、それについての相談をし合える仲。それを親友と呼ぶのならば、確かに私達は親友なのでしょう。

 ですが、彼女はいつかこの国を出ていく。任務を終え、私を置いてどこか他の国へ行ってしまう。仕方のないことだと理解はしています。根本的な立場があまりにも違う。それでも、そのいつかを想像するととても悲しい気持ちになるのです。確実に、その時は近付いている。


 懇親会まで、あと三日。

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