28、私は困惑します
「正直、私がシユウ様と二人きりで会っていたというのはどうひっくり返しても好評を受けられる美談にはならないと思うのですが、貴女にはそれを可能にする策でもあるのですか?」
「ある。というか、事実そのままでいいと思うんだよね。シーツァリアの次期王妃とロデウロの第二王子が国の未来に関しての話し合いをしたっていうのは、第一王子に愛想を尽かしてる国民にとってはとびっきりの朗報だよ。会話の内容が不透明だから好き勝手言われてるだけで、素直に事実を伝えればそれだけで支持率が上がると私は見てる」
「……機関からしても、第一王子はそういう認識なのですか?」
「そりゃあねえ。あれだけ派手に遊び散らせば嫌でも評判は響くよ。今のところ新聞に書いてないのは、これから先に更生する可能性と、他国に与える影響を加味してだし。執行猶予みたいな感じかな?」
「もう罪人扱いなのですね……。しかしなるほど、あれだけ国に不和を齎しながら、未だに機関から何の声明もないのは他国に影響が及ぶからだったのですか。私としては、既に死んでいるようなシーツァリアが与える影響など無いに等しいと思っていたのですが」
「無いに等しいは無いと等しいわけじゃないからねえ。七か国が六か国になるっていうのは、そんなに単純な話じゃない。法整備もやり直し、担う役割も決め直し、王族は全員集合、国を失った民の受け入れ先の決定とか、全部終わるのに何年かかるやら」
第一王子が死んでも大した影響など無いだろうと考えていた私からすると、初めて聞かされるその厄介さは驚きに値するものでした。国が減るという事象の前例が存在しないので何が起こるかなど知らない方が自然なのですが、ミラーがそれを把握しているということは、機関はもうそうなることを前提に動いているということですわね。
ただ、シユウ様の話からするとシーツァリア自体は最低でもあと七年は確実に存続するわけですわよね。今のままで七年間存続出来るものは、具体的に何年後に滅びるのでしょうか。そもそも国が滅びるというのはどういうことなのでしょうか。前例に無いことをしないでほしいものですが。
「法整備のやり直しというのはどういうことです? 今のままだとなにか不都合でも生じるのですか?」
「不都合はないよ。多分全く同じ条文が採用されることになると思うんだけど、七か国の合意で成り立ってるからさ、国が一つ減るとなると改めて可決し直す必要があるわけ」
「……一回なくなったものを、再度作り直すわけですか。なんと言いますか、完全に余計な手間ですわね。それを行うのに一体どれだけの時間と人員、お金を消費するのかと考えると目眩がします」
「あっはっは。だからなるべくそれをさせないように、私みたいに秘密裏に忍び込んでる機関がいるわけさ」
「え? ……まさか、機関がシーツァリア内に大勢いて、この国が滅びないように調整しているんですの?」
「その通り。大変なんだよ? 広まりそうになる嘘の噂をそれとなく抑制してみたり、王子の行動を緩やかに誘導してみたり、国政をちょっとずつ改善してみたりとかね。それこそ何百人規模で取り掛かってる一大プロジェクトって感じなわけ」
なんだか凄く得心がいきましたわ。この国の惨状で今も崩壊せずに形を保っていられるのは、外部からの取り繕いがあってこそなのですね。確かに時々、城内が賑わっていたりすることがありましたが、あれも機関が国政の改善をしたがゆえ。国王に逆らえる立場の部下が一人もいないんですもの。悪化の一途ですわ。
この先何年その先伸ばしが成立し続けるかは分かりませんが、少なくとも七年後までは確定しているのは明らか。ただそれは逆に言えば、もっと早くこの国が崩壊していれば、私は処刑されずに済んだということなのでは。いえ、シーツァリアの国民と私一人など、確かに天秤にかけるまでもないのでしょうが。
彼女がシーツァリアの学園に入学したのには、内部で流布される噂、悪評を制御するという目的があったわけですわね。第一王子の噂が一番流れやすいのは、彼自身が通っている初等部ですもの。その全てがそのままの形で外部に漏れ出たらそれこそ国の終わりですわ。
不自然に噂が消えていくとは思っていましたが、そこまで大掛かりな話だとは思っていませんでした。てっきり城が下手な圧力でもかけているのかと。今考えれば、立場的には楽観的すぎましたわね。機関が動いているなんて予想しろと言う方が無理な話ではありますが。
「どのくらいこの国に食い込んでますの? 答えられないなら別に構いませんが」
「答えられないねえ。なんせ三十年くらい継続してる計画だから、多分全貌を把握してる人がそもそもいないんじゃないかなあ。私も私以外は五人しか知らないし」
「答えられないって決まり的な話でなくて、知識的な話ですのね……」
「見分ける方法はあるよ。教えてあげよっか」
そういうとミラーはおもむろに自分の髪の毛を掴み、上に持ち上げました。え。いや、え。かなりのボリュームを誇っていた彼女のツインテールは、彼女の手の中に。え、ウィッグだったのですね。




