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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第一章 出会い編
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24、私は夢を見ます

「貴様が今まで彼女にしてきた暴挙の数々、許すわけにはいかない! 今この場をもって、フォーマットハーフ家との婚約破棄を宣言させてもらう!」


 今の状況に、悲しさはありません。ただ、目の前で高らかに愚かなことを宣言する王子に対して憐れみを向けるのみです。ある程度事情を知っている周りの方達も、何かを言いたそうにしては口を閉じます。王族に、いえ、あの王子に逆らえばどうなるか分からないので、それが正解でしょう。


 恐らく、王子は今、まるで自分が物語の主人公のような気分なのでしょうね。私という悪人から、弱々しい娘を演じている彼女を守っているという自己陶酔に気持ちよく浸っている。その宣言をしてしまえば、一体どうなるかを一切考えていない。


 私がなぜそのような愚行を犯したのかなど、頭の片隅ですら考えていないでしょう。そもそも、考えて分かるほど、私と彼の間に接点も無いわけですが。私は彼を慕っていない、どころか、嫌ってすらいるなんてこと、学園の生徒たちの間では語り草だというのに。


 自分が誰かから嫌われているだなんて夢にも思っていないのでしょうね。自分が世界の中心であるという誇大妄想を抱いているあの愚物は、調子よく傍らの小娘に操られているだなんてことに思い至らない。だからこそ哀れなのです。私と何も変わらない、ただの傀儡に過ぎないのですから。


「その場で許しを請えば、命は助けてやってもいい。さあ、今までの愚行を彼女に詫びろ。今の貴様に出来る善行などそのくらいしかないのだからな」


 年齢を重ねるごとに増えていく憐みの視線に、彼はとうとう気付くことが無かった。尊敬の視線を彼に向けている者などほとんどいなかったのに、全ての視線を都合よく解釈した彼はどこまでも上からの目線を崩さなかった。その愚かさに、誰もがこの国の終わりを予見させた。


 私もそう考えていました。この王子と結婚することは、国を良くすることには繋がらない。彼女は果たして、王子のどこを好きになったのでしょう。この王子と結婚し、王妃になって、贅の限りを味わうことが出来るとでも思ったのでしょうか。他国からも見放されているこの国に、未来などないのに。


 何に対して頭を下げればいいのかもわかりません。王子の気まぐれのとばっちりを食らうことになる私の家族には、王子の方から土下座でもしておいてください。そもそも、すでに婚約者がいる男性に近付いて寝取った女性に謝らなければならない理由などありません。


 私はむしろ謝られる側でしょう。国からも、城からも、彼女からも、王子からも。全ての期待を、全ての理想を可能な限り体現してきました。要望に応えてきました。その末路がこれですか。せめて、自分の死に方は自分で選びたかったものです。


 誰かに縛られる死など、誰かに強制される死など、あまりに味わいがありません。まあ、私がいなくなり、彼女が王妃の座に着いた後のこの国の終焉を想像すれば、それはそれで愉悦というもの。実際に見ることが出来ないのが唯一の心残りですわね。


「どうした、何か言ってみたらどうだ? 命乞いの一つも出来ないのか貴様は?」


 この状況で思い出すことではないかもしれませんが、そういえば、彼女が現れてから王子の暴走は勢いを増したような気がします。間違いを肯定するかの如く、失敗を許容するかの如く、愚劣を抱擁するかの如く。積極的に肯定してくれる都合のいい女が現れたことは、王子にとって幸か不幸か。少なくとも国民にとってはこの上ない不幸ですわね。


 高等部に進んだあたりから、学校内に不穏な空気が流れていましたが、原因としては彼女だったのでしょう。平民という身分にもかかわらず、多くの王族との交流を快く思っていた者はいませんでした。彼女はこれから、シーツァリア全てを敵に回して国を治めていかなくてはならない。


 笑いが止まりません。きっとこの国はそう遠くないうちに滅びます。そしてそれは私が望んでいたこと。私の死で、その願いは完璧な形で成就される。そして愚かな二人はその事実に未だ気付いていない。いつまでも自覚することはないのでしょう。


 彼女に国民に慕われる人間性はない。彼女に国を治める統治力はない。彼女に会話を優位に進める語彙力はない。彼女に交易を円滑にするだけの知識はない。ここから無理矢理にそういった教育を施したところでたかが知れています。


 平民が真実の愛で王族と結婚なんて、聞こえがいいだけで現実味も将来性も無いのです。実現するだけの価値もない絵空事。実現したところで何の意味もない。私の唯一の心残りは、怒る国民に引き裂かれる二人の死体を実際に見ることが出来ないということだけ。


 ああ、見たかった。私を処刑に追い込んだ、二人の無残な死に様を。


 私はドレスのスカート内に仕込んでおいた刃物を取り出し、それを首に当てます。驚いた顔をする眼前の二人。誰かによってもたらされる死など、苦痛でしかないのです。だから、私はこの道を選びます。これが、私にとって最も幸福な最期。


「ざまあみろ」


 なんて汚い言葉。けれど、最後の私にとっては、最も綺麗な言葉だったのです。

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