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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第一章 出会い編
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20、私は嵌まります

 ここで怯えていても仕方がないので、私は早速、小包を開けます。リボンで綺麗に結んでありますが、やたらと開きやすくしてありますわね。どれだけ私に力がないと思っているのでしょう。ダンスのレッスンに付随して筋力を鍛えていたりするので、むしろ同年代と比べると力はある方だと思うのですが。

 これはむしろ、過保護だと言うべきなのかもしれません。シユウ様からすると、今の私よりも未来の私の方がよく知るアンナなのでしょう。私は将来的にかなり追い詰められるようですし、そういう点からのすこしずれた気遣いだと思えば、まあ、いえ、ありがたくはないですわね。


「……ん? ……携帯、よね?」

「携帯ですね。それもつい半月前に販売された最新機種です。今度のお給料が入ったら私も買おうと思っていました。なにせ優秀ですから。今までの機種とは比べ物にならないほどの処理速度と容量。さらに──」

「携帯のプレゼンはもういいから。なんで携帯なんか……、おお、画面が大きい。うわ、すごい綺麗。……なるほど、クラスの子達が嵌まってるのも頷けるというもの……」

「……あれ、この小包、他にも何か入ってますね。……手紙? 読みますよ? 読んじゃってもいいんですか? ……駄目だ、聞こえてない」


 教育の方針だかなんだか知らないですが、私は現状携帯電話を所持することが許可されていません。最近微妙に妹が携帯を欲しいような素振りを見せているので、その流れで私も持つことになるかもしれませんが。可能な限り妹と私の間に差別が発生にしないように気を付けてくれはしているのです。あの両親は。あのような両親でも。

 それを知っているゆえなのかは知らないですが、私の友人という立ち位置にいる子達は私の目の前で携帯を触りません。気遣いなのか、私の機嫌を損ねたらまずいと思っているのかは分かりませんが、そうされると、私としても少し使わせてくれないでしょうか、などとは言えないわけで。結果として、私が携帯に触れることが出来るのはメイドが私の部屋に訪ねて来てくれている短い時間だけなのです。

 そんな私に最新の携帯なんて与えてしまってはもはや歯止めなど効くはずもありません。別にゲームをしたり誰かとメールのやり取りをしたりするわけではありませんが、そんな相手もいませんが、ただ画面を触っているだけで脳内の知的好奇心がどんどん満たされていくのを感じます。


「アンナ様、手紙が入ってますよ。このまま携帯に傾倒したままだと先に私に読まれてその内容が屋敷の使用人たちの間で拡散されることになりますよ」

「さり気に恐ろしいことを言ってくるわね。やめなさい。ほら、手紙をさっさと渡して。なんでこう、うちのメイド達は油断も隙も無いのかしら」

「そういう優秀な人材が雇用されているからではないでしょうか?」

「そんなことは分かってるわよ。そういう問題じゃないでしょうこれは」


 うんざりするほど畏まってくる教師やクラスメイトを相手にしている私からすると、うちで働いているメイド達はかなり対等な話相手なのです。勿論、全幅の信頼を置くというわけには行かないですが、余計な気を遣わずに会話してくれるので、ストレス過多な私の人生における清涼剤であることは確かな事実です。それでも、今日の放課後までは自殺を検討していたわけですが。

 負荷と軽減のバランスが取れていなかったわけですが、シユウ様から言われた、七年間適当に過ごして待っててくれ、という言葉が効いているのでしょうね。どうせ逃れられないのだから、期待通りやってやる。理想通りに育ったところで、それをこの国の連中から永遠に奪ってやる。というのが私の人生設計だったわけですが、逃げられるとなると前提が変わってくるわけでして。

 私の人生、明日からどうなるのでしょうね。まあ、それは明日のお楽しみということで。私は封筒から便箋を取り出します。綺麗に折られた一枚の便箋には、そこまで多くの文字が書かれているわけではなく、綺麗な文字が書かれているわけでもありませんでした。でも、それは不思議と私の心を惹きました。


『アンナ嬢、多分貴女は今、突然の贈り物に驚いているだろうと思う。でも、それを届けた使者が何処の誰かを聞いた段階で、なんとなく俺の顔が頭に浮かんでたんじゃないか?

 お察しの通り、その携帯は俺からの贈り物だ。名義は俺になってるから、好きなだけ買い物でも課金でもなんでもしてくれ。限度はあるぞ。

 俺が最初のプレゼントに携帯を選んだ理由は複数あるが、一番は貴女と連絡が取りたかったからだ。迷惑な話かもしれないが、俺の第二王子という立場も、留学生という立場も、アンナ嬢と接するうえでは足枷にしかならない。だから、こそこそとでも話せるような手段を用意する必要があった。

 勿論、不要だというなら処分してくれて構わない。そうじゃないなら、登録してある唯一のアドレスにメールを送ってくれ。そうしてくれると俺は凄く喜ぶ。そっちからは見えないけど。

 七年後の恋人、シユウより


 追伸 多分そこにいるだろうメイドに言っておくけど、この件を外部に漏らそうとしたら情報漏洩の罪でどうにかして犯罪者にするからな。無用な心配だろうとは思うが』


「……どうするの、リーデア。あの人はやると言ったら本気でやるわよ」

「これ完全に巻き込み事故じゃないですか? なぜ手紙の内容口に出したんですか?」

シユウ・ヒストル・フルランダムのワンポイント講座


「アンナは物凄く警戒してるけど、アンナの部屋は本人にとって一番のセーフルームだ。監視用の機器も存在せず、使用人は裏切らない。幼い頃から信用できる大人なんかいなかったから仕方ないけどな。ちなみに、アンナはあんまり人の目を見て話さないから特技がほとんど意味ないんだ。もっと生かせよな」

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