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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第一章 出会い編
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16、私は溜め息を吐きます

 多少はお母様の用件がなんだったのか気になりますし、どうせそのうち思い出してまた呼ばれるのでしょうけれど、面倒なことを自ら進んで聞きに行くほどの積極性は私にはありません。できれば一週間くらいシユウ様の件で浮かれて、その間に期限のようなものが過ぎ去ってしまえば理想なのですが。

 お母様に先生方から報告が入ったということは、もうすでに帰宅なされたということです。であるなら、わざわざ会いに行って謝ることはしなくてもいいということ。そもそも謝らなければならない理由もないわけですが、謝っておけばとりあえずその場はやり過ごせるという考えが根付いている私は反射的に頭を下げてしまう悪癖があります。


 悪くなくとも謝ってしまう。やってもいない罪を認めるというのはあまりにも愚かなことだと理解はしているのです。ただ、口で言って納得してくれる大人は極端に少ない。こういう理由があったからこれができなかったと言って、ならば仕方ないと言ってくれる大人は驚くほどにいないのです。

 むしろ、言い訳をするなと怒られることが多々ありまして、もうそれだったら最初に謝って適当に丸め込んだ方が早いという結論に達してしまったのです。正しさが存在しない道に入ってしまうと、自然と迷ってしまい、結果として適当なところで妥協することになる。大人に期待するだけ無駄だと、自分の感情に折り合いをつけてしまう。


 なにせ両親があれですもの。優先順位を付けられない父親と、優先順位を何があろうと曲げない母親。あれを幼い頃から見続けていれば、大人って自分が考えてるほど大したものじゃないんだと思ってしまっても仕方の無いことだと思いたくなるというものです。ややこしいですわね。

 要するに、私は大人という存在に失望したのです。独善的で一方的で盲目的な大人を、子供らしく見上げることに疲れてしまったのです。私が自殺を計画した要因の一つがそこにあります。大人になりたくなかったという、酷く子供らしい、心底からの悩みが。


 自分を優先順位の一番上に置いているあの妹が、あの父親を尊敬できるのは素直に羨ましく思います。私もあんなエゴイストだったらもう少し気楽に生きられたのかもしれませんもの。優先順位を付けるのが下手でも、出来るという部分で妹にとっては眩しいのかもしれません。お母様はそれが不可能な性格ですから、妹からすると似てると思うのかもしれません。

 私は全てに優先順位を付けていないように見えるよう振る舞っているので、そういった感情を向ける相手としては不適格なのでしょう。実際は、優先しようと思えることが人生において存在しないというだけの話なのですが。王子も教育も家族も、優先しようと思えない私は、薄情なのでしょうか。今更それに後悔などいたしませんが。


 そういえば、我が家にはもう一人、優先順位がおかしい子がいます。現在、この屋敷にいないので簡単に紹介しますが、フォーマットハーフ家第三子の長男が存在します。ならば私が王族に嫁ぐ必要はないのではと思いますが、それとこれとは別問題のようで、お母様は私と似たような期待を弟にも寄せています。

 彼の何がおかしいかと言えば、彼の価値観が完全に狂っているという点です。具体的に言うと、弟は価値観の基準を完全に第一王子に置いているのです。私から見たらこれ以上ない問題児です。姉としてではなく人として言うなら、会話すらしたくありません。ことあるごとに王子を持ち上げるので、辟易としているのです。


 まあ、その主な原因は私なのですが。弟が生まれたとき、私はとても喜んだのです。これで家のことを一人で背負う必要はなくなると。会話が成立しない妹の分まで抱え込む必要がなくなったと喜び、大層可愛がってしまったのです。姉が弟を可愛がる分には誰も文句は言いませんので、それは溺愛と言ってもいい段階までいったのですが、弟の存在は私の利得になり得ないと気付いた時、その溺愛は終わりを迎えました。

 身勝手だと思うでしょうが、溺愛から真っ当な家族愛になったというだけです。妹よりよっぽど話が通じましたから、待望の存在ではあったのです。問題が発覚したのは弟が五歳になったとき、つまり三年前なのですが、王子に対して崇拝と言ってもいい尊敬の感情を抱いていることが判明しました。


 その理由は私でした。私が溺愛した弟は、私を溺愛し、その婚約者である第一王子まで溺愛してしまったのです。こんな素晴らしい姉の婚約者が素晴らしくないわけがない、という理屈ですわね。無茶苦茶ですわ。その後、ある程度第一王子と関わりを持った弟は、信徒と言ってもいいところまで成長、いえ、退化しまして、何かを考えるとき、その根底に第一王子がいるという取り返しがつかない状態になってしまったのです。

 結果として、フォーマットハーフ家は取り返しの付かない状態に陥ってしまったのです。まともな判断を下せる人間、正しい対応を取れる人間が消滅し、私は自殺を考えるようになりました。


「……はぁ」


 半袖半ズボン姿でベッドに寝転ぶ私は、誰にも聞かせられないような重苦しい溜め息を吐きました。誰にも見せられない姿ですわね。

シユウ・ヒストル・フルランダムのワンポイント講座


「アンナの弟、アレクリア・デルスロ・フォーマットハーフは第一王子に好かれている。無条件で自分を持ち上げてくれるんだから好きにならない理由もないとは言えるけど、年々酷くなる第一王子の常識の無さはこいつのせいとも言えるな。拍車をかけるのに一役買っている。ま、こいつのお陰で第一王子の目はアンナから逸らされているところが無いわけでもないから、俺としては少しだけ感謝してるんだけど、アンナには言えないな」

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