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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第三章 ロデウロ編
124/156

124、私は盗み聞く

「ここか……、十一番倉庫って確か学習道具類が収納してある倉庫だった気がするんだけど、なんでわざわざそんなところを隠れ家に選んだんだろうな。割と頻繁に開けられる場所じゃなかったっけ?」

「いや、年数回の例外を除けば文房具類とかの保存がきくような物ばっかりのここはほぼ開けられないさ。教科書は毎年新しく作り直されるから、湿気とかでカビの生えそうな紙類はないし、確かに隠れるという点で考えるならここは最適解ではあるね。こんなところわざわざ見回りなんてしないし」

「確かに……、俺も存在は知ってたけどここに実際に来たのは初めてだしなあ。倉庫の中で有利なポジショニング取れるかどうかって言うと結構怪しい……」

「まあシユウ様に頭を使った戦いなどは期待していません。倉庫内に誰かがいるのを確認したら、サロメ様の能力で全員眠らせてしまいましょう。クイラさんがいるかどうかの確認はその後でも問題ありません。この場合の問題は唯一です」

「寝なかった奴がいた場合、だろ? その時は俺様とシユウが力ずくで制圧する。幽霊屋敷で二人揃って翻弄されたからな、汚名返上のいい機会だ」

「そうですね、実力行使の場面になった時は頼りにしています」

「アンナ。頼りにするべきは俺だ。ヘキレキじゃなくて、俺だよ、俺」

「そういう自己主張は行動で示してください」


 自分のことを両手の親指で指している第二王子だが、一応クイラさんが攫われたこと自体にはかなりの責任を感じているらしく、ここまで移動してくる最中の車内ではひたすら黙り込んでいた。私が隣に座っていたにもかかわらずだ。自意識過剰と言わないで欲しい。実際に私と至近距離にいるシユウ様が黙るというのはかなり珍しいことなのだ。今でこそやっと普段の調子になってきたようだが、表情は日常の中では見せないような真剣なものだ。王子としては当然のことなので今更見直したりはしないけれど。


 手順はある程度車内で決めてきた。まあ四人中二人が完全な脳筋なので作戦と呼べるのは私とサロメ様の行動くらいなのだけれど。私は十番倉庫の外壁に『ポケット』で穴を開け、十一番倉庫の中に繋げる。以前自分の能力を検証した際に確かめたことがいくつかある。シユウ様と会うまで自分の能力を隠すことに執心していたのでそういう検証も出来なかったのだが、これからの行動に当たってその辺りを考えざるを得なくなった。


 私の能力『ポケット』に筒状のものを突っ込み耳にあてると向こう側の音が聞こえる。穴の直径的に頭を入れることも出来ず、手を突っ込んで物を取るくらいしか使いどころが無いと自分では思っていたのだが、結構応用が利く能力だった。盗み聞きと言うと聞こえが悪いが、盗聴と言うと格好つかないだろうか。やってること全く一緒だけど。こういう状況では役に立つからそんなことを気にしている場合ではないのだ。


 向こう側が見えればさらに使い勝手が良かったのだが、そこまでの利便性は備えていなかった。シユウ様の知っている未来の私も、この能力を十全に使いこなせているわけではなかったらしい。これ以上の情報はシユウ様からは得られないということは、私が発見していくしかないということだが、この手くらいしか突っ込めないような小さな穴で、他に何が出来るというのか。


 筒から聞こえてきたのは僅かな物音と、遠くの方で囁かれるような声。十一番倉庫の壁に穴を開けたのだが、どうも距離が離れすぎていたらしい。ただ、中に誰かがいるというのは確定した。本来なら無断での立ち入りを禁じられているここにいる時点で、全員をサロメ様の能力で眠らせてしまっても構わないのだが、現状は捕らえてしまってからでは聞き出せない話を盗み聞きする絶好のチャンスとも言える。まさかグースさんが裏切るなど、洗脳がかかっていないなど考えてもいないだろうし、油断というなら今しかない。


 私は十一番倉庫内の『ポケット』を倉庫中心付近の天井に開ける。床に開けるのが理想だったが、下の方にある不審物は目につくので断念。倉庫内というのは音が反響するのでほぼ真上にあれば聞こえるだろうと思うが、聞こえなかった場合が怖い。外にいるというのがバレた瞬間中にいる人物は全員揃って逃げ出すだろうことは想像する意味すらない程に確定した事実。三人の視線を感じながら、耳を澄ます。


「……状況っつーなら、今のこの状況も結構煩わしいもんだけどな。向こうからの指示を待つしかねーってのは、どうもまだるっこしくていけねえと思わねえか?」

「別に。私は指示に従うだけだし。それでシーツァリアが滅ぶならそれ以上を望む気は全くないから」

「なんだよそのクールぶった発言はよお。お前だって内心本当にそんな絵空事が実現するか怪しんでんだろ?」

「……アウトロー気取ってるだけの半端者のくせに私に同意を求めるの止めてくれる? 不快だから」

「手厳しいなあ。でも、何の能力持ってるかもわからないこいつを攫うっつーのは、少し戸惑いがあっただろ? 俺は鮮明な未来が苦手なもんでそういう感覚は分からねえけど、お前からは少し戸惑いを感じたような気がするぜ」

「――たまたまコンビ組まされただけの立場で偉そうに口出しするな! あんたに私の何が分かる!」

「あーあー、悪かったって。ったく、こええんだから。雑談ってことで流せよなあ。お前もそう思うだろ?」

「……さあ、どうだろうな。まずもってそんな事情に俺は興味がない、よって知らない」

「ったく、陰気臭い奴等だよ、本当に。なんで俺と組まされてんのお前ら?」


 聞こえてきた声から判断する限り、倉庫内部には人が三人。男二人に女一人。姿を見れるわけではないからこれは純然たる私の勘でしかないのだけど、恐らく三人全員強い。流石にロデウロのトップ2よりも格上とは思いたくないけれど、そうであってもおかしくない程度には強いと感じる。一定以上の実力を身に付けた者には二通りの人種がいる。慢心する者と、落ち着く者。例外こそあれど、大多数がこの二種のどっちかだと言っていい。


 中にいる三人は間違いなく後者。己の力を過信せず、振るうべき時を弁え、それでいて自分の欲望のために身に付けた者を使用すると決めた者達。相手にすれば本来厄介な相手だが、こちら側にはどんな猛者でも一緒くたに無力化できるお方がいる。私はサロメ様を視線で呼び、『ポケット』に手を突っ込むようジェスチャーで示す。サロメ様の能力は基本的に全身何処からでも発動可能らしいが、手が一番慣れているとのことだ。


 サロメ様が能力を発動した――直後、倉庫のシャッターを勢い良く破壊して、狂気に満ちた笑顔の男が飛び出してきた。

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