122、私は詰む
「あっはっは、いやいや、ジエイは確かにあんたらに今回の件を任せたけど、あたしがそれに従う理由って言うと特にないんだよね。むしろ、そんな無責任な話あるかって話さ。でもまあ、次期国王の面子はあたしの立場的にも立てないといけないから、こうしてお忍びでこっそりと一人で来たってわけさね。ま、ヘキレキもいるんだったら身の危険もないだろうし、そんな身構えなくても大丈夫さ」
「……イブキさんを眠らせてくれたことには素直に感謝しますが、一国の王妃がこんなところに護衛も無しに来るというのは正直咎めざるを得ません。助けていただいたという事実には素直に感謝ですが、じゃあ現状を許容できるかと言うとまた話は別です」
「わかってるさ。こんなことがジエイにばれたらどやされるのは目に見えてる。だからお忍びなのさ。今もあたしは城の自室にいるってことになってるから、あたしがここに来たことは内緒で頼むよ、三人共」
「……俺様の店の修理費用を出してくれるならその提案を受け入れてもいい」
「お前親友の母親で、自分が住む国の王族によくそんな交換条件出せるな。恐れ知らずっていうか、もう愚かって言われても反論できないと思うんだけど」
「こっちは本来俺様には関係ねえ、国が解決しなくちゃいけない問題で物理的被害を受けてるんだよ。少しくらいたかったっていいだろうが。どうせさっき俺らが無力化した連中もほとんど洗脳されてる奴等だろうし、冷静に考えて国から絞るしかねえんだよ」
「まあ、間違っちゃいないけど……、せめて俺がいない場所でそういう交渉はしろ。というかそういう交渉は俺にしろよ」
「当然その辺りの補填はさせてもらうさ。被害を受けたのに加えて事件の解決に協力してもらってるんだ。修理費用何てケチなこと言わないで、それなりの額を贈呈させてもらうよ。元々アンナちゃんにもそういう対応をする予定だったし、一人増えたくらいで――いや、クイラもか。あの子にも何かしてあげなくちゃね。かと言って札束貰って喜ぶような子じゃないし……」
「なんか俺様が守銭奴みてえだ……」
「つーか、これからどうするんだ。事後処理は他に任せるにしたって、このままクイラが攫われたままなのはまずい。あいつの安全的にもまずいし、各国の要人の身辺についてもまずい。『追跡』は本当に僅かな痕跡からでも全てを追跡できる能力だ。悪用されたらどんなことになるかは想像がつくし、想像がつかないことが起こってもおかしくない。……携帯で場所が分かるって言うから期待したのによお」
「……戦ってる最中だったからそれで大丈夫だと思ったんだよ。頭が回ってなかった。……携帯がその辺に捨てられてる可能性を考えてなかった俺様の楽観視だ」
「ったく、シユウとヘキレキが一緒にいてどうしてこうなるかなあ。うちの最高戦力はこれだから頼りないんだから。クイラがいないのに気付いたのだってアンナちゃんだって言うじゃないか。もう少し周囲に気を配れないかね」
「俺様はそもそも誰かとの共闘なんて想定してない。戦ってる最中に誘拐されるとか知るかって話だ。そもそも、クイラだって馬鹿じゃない。俺様を撮影してたとしたって、十把一絡げの雑魚に音も無く攫われるなんて、普通は考えられない」
「ならば二択ですわね。クイラさんを再度洗脳し組織が連れていったか、私達三人が察することも出来ない程巧妙に攫うことが可能な実力者の仕業か。私としては後者を推しますが」
「まあ俺も同意見だ。ヘキレキからの電話で洗脳が解けたようなあいつが、ヘキレキの戦ってる姿を撮ってるのに洗脳にかかるわけがない。かかったとしても一瞬で解除されるのが目に見えるわ」
「それは先ほどまでの会話で私も確信しています。ならば、今の状況はまさしく最悪なのです。シユウ様にヘキレキさん、それに、自画自賛ではありませんがまあまあ戦える私。各自がそれぞれ戦っていたにしても、覚られずに人一人を連れ去るというのは並大抵の難易度ではありません」
「仮にそいつが姿を消したりできるタイプの能力者だったとして、戦闘能力が皆無に等しかったとしても、今からの追跡は難しい。そういうことだね?」
「はい。それこそ、今クイラさんがいれば追うことは可能ですが、そのクイラさんが攫われている状況では……、手詰まりと言わざるを得ません」
不意に現れたサロメ様のお陰で窮地を脱した私達――まあ、窮地に陥っていたのは私だけだったような気もするけど――だが、一難去ってまた一難。この場所に来ることが出来たのだってクイラさんがいたからこそだし、敵を追うという状況において私達は余りにも脆弱だ。言ってしまえば、私達三人は能力で戦うことしか考えていない脳筋の集まりでもあって、後手に回る状況に弱いのは当たり前と言えば当たり前なのだが。
クイラさんをあれだけ煙たがっていたヘキレキさんも頭を押さえている。恋愛対象としては見ていなくとも友人としては確かに認識しているのは目に見えていたし、それこそ目を見ればどれだけ心苦しく感じているかが私には分かってしまう。当然私としても、クイラさんをこのまま放置するつもりはない。だが、紛れもなく状況は詰んでいる。闇雲に走って見つかるなどと楽観的なことを考えている暇すらない。今の時間を確認しようと取り出した携帯が、そのタイミングで震えた。
非通知の表示。普段だったら絶対に出ない。この携帯を所持しているのが私だと知っている者はごく限られているし、間違い電話だったならその秘密が露呈する危険性があるからだ。だが、知っているものする少ないこの電話番号に、非通知で電話を掛けてきた誰かと、この追い詰められた状況に因果関係を全く感じない程、私はリアリストというわけではない。一縷の望みというのはこういうのを言うのだろう。私は三人の視線を感じながら電話に出る。その声は。
『アンナ様、グースです。適当な相槌を打ちながら、このまま話を聞いてください』




