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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第三章 ロデウロ編
120/156

120、私は目で追えない

「ヘキレキ! 上手前奥!」


 シユウ様がそう叫ぶと同時にヘキレキさんが飛び上がり、上下逆さまになったかと思うと何もないように見える場所に着地した。おそらくは『六盾』のうち一枚に足の裏を付けているのだろうが、その原理が全く分からない。いや、というかさっきからヘキレキさんの動きが一つも理解できない。足の裏で瓦礫を吹き飛ばしたかと思えば、重力に逆らって空中の『六盾』に張り付くし、足の裏から空気を吸い込んで吐き出しているくらいしか思い浮かばない。


 吸着で『六盾』に張り付き、噴射で移動している――いや、それにしてはその影響を周りが受けている様子がない。草が靡いている様子もないし、身体が浮かび上がるほどの風力だったら人すらもその影響を受けるはず。だとしたら彼はどうやって移動している。腰が抜けているイブキさんが瓦礫で怪我をしないように安全な場所まで運んでから、シユウ様に声を掛ける。


「……シユウ様、あれ、ヘキレキさんのあの移動は、どうなっているんですか? 『六盾』に張り付いているということはかろうじて分かりますが、どういう能力なのかを絞り込めません。可能性としていくつか考えられるものはありますが」

「分かったからって対処できる類の能力でもないからな。薄々勘付いてるとは思うけど、ヘキレキの能力は能力が強いんじゃなくて、あいつが使うから強い。さっきも言ってたけど、まじでヘキレキって自己顕示欲の塊なんだよ。普通と違うのは、目立ちたいけど目立ちたくないってところだ」

「どちらかと言えば、自己顕示欲というより承認欲求なのではないかと思いましたが」

「いや、あいつは目立ちたいのさ。でも、不特定多数の大人数の中でじゃなくて、自分の知人友人の中でっていう点が普通と違う。褒めてくれれば誰でもいいわけじゃないのさ。他人に褒められても嬉しくない。好きな奴に好きだと言われてこそ、欲求は満たされるって、口癖みたいに言ってたよ」

「……で、それが何の関係が?」

「目立ちたがりのあいつにとって、あの能力はまさにうってつけだ。どう動いたら他者の視線が向けられるのか、どうすれば視線を誘導できるかをあいつは理解してる。ああやって縦横無尽に動いてるのは、大勢を相手にするときの常套手段だな」

「狙いを絞らせないために不必要なまでに動き回っているわけですか。理由がある以上、実質的には不必要ではないわけですが」

「そう。あいつの引き付ける技術は、あいつの性格と相性が良くてな。攻撃主体のくせに守備全振りみたいな俺より強いのも、まあ仕方ないかなとも思う。あいつの能力は『磁力』。S極でもN極でもないけど、色々調べた結果として、引力でも重力でもなく『磁力』だって判明した」

「SでもNでもない? ……残骸の中の金属が反応しないのはまた別の原理が働いているのだとしても、逆さまで『六盾』に張り付いているあれは……、まさか普通に自力ですか?」

「鍛えてるからなあ。身体さえ固定されてれば一時間くらいは逆さでも大丈夫なんじゃね?」


 パーカーを着た集団は、ほとんどが移動系統の能力者だったはずだ。基本的に他系統の能力者と移動系統の能力者の機動力というのは比べ物にならない。百メートルを二秒程度で駆け抜ける人間に速さで勝つなど無理に決まっている話なのだが、その根本的な差をヘキレキさんは感じさせない。自らを捕らえようと高速で移動してくる敵を翻弄するように動き回る。


 高速で動き回るパーカー集団の動きは、正直早すぎるし多すぎるしで確かな認識が難しいが、そこまで早く動いているわけではないヘキレキさんの動きは比較的はっきりと視認できる。周囲の動きを把握していなくてはあのゆったりとした動きで回避することは出来ないだろう。戦い慣れている。それも多数を相手にした状況に精通していると言ってもいいほどに洗練されている。


 どんな人生を送って来たら多人数を敵に回す状況などに慣れるのかは分からないが、戦闘におけるセンスがずば抜けているというのは見ていれば誰でも分かることだろう。空中の見えない『六盾』の位置を完全に把握し、三枚のそれを経由しながら移動、体勢を崩したところを横や後ろから強襲し、敵の数を確実に減らしている。


 と、そこで私の謎の第六感が働いた。恐らくは背後から何かの音が聞こえたとかだろうが、私が後ろを向くと、擬音でコソコソとか描いてありそうな動きで、気まずそうな顔でこちらを見ている先程の男性がいた。明るい所で見たからだろうが、思っていたよりも背が高い。高等部くらいか、あるいはそれより上か。なんにせよ、静かにこの場を離れようとしていたら、不意に振り向いた私と目が合ったのだろう。


 誇張抜きで私達全員を殺そうとした人間を睨みつける私の眼光に怯えたのか、目も逸らさずに表情を歪める。数秒の後、硬直が解けたかのように逃げ出そうとしたので『ポケット』に腕を突っ込み足首を握る。突然動かなくなった足に混乱したのか思い切り前のめりに倒れ、強かに顔面を地面に打ち付けた。残骸のある所だったらかなりグロテスクなことになっていただろうが、幸いにも草の生い茂っている所だったので大した傷はないだろう。


 伝達系統の能力者に戦闘能力などほとんどない。このまま足首を握っていれば捕縛自体は容易に終わるだろうが、予想外の反撃をされても面倒だし、早めに縛り上げたいところ。まあ縄も手錠も持ってないからどうするかはこれから考えることになるわけだけれど。パーカー集団はヘキレキさんに任せておけば良さそうだし、とりあえず一件落着ってことでいいのかしらね――。


「アンナ! 後ろ!」


 そんなシユウ様の叫び声に反射的に私は瓦礫の少ない右側に移動する。当然それと同時に『ポケット』は解除され、男性は自由の身となるわけだけれど、ここでシユウ様の忠告を無視するという選択肢は私には無かった。何の意味もなく叫ぶ人じゃないのは良く知っているから。寸前まで私のいた場所をナイフが通り過ぎる。ナイフは失速することなく前進し、壁に勢いよく突き刺さった。


 なんとなく、怪しい雰囲気はしていた。そこまで大したことはしていないのに容易く洗脳が解除され、ここまで大して文句を言うことなく着いてきた。人の好さもあっただろうが、決してそれだけではなかった。イブキさんは虚ろな目で、指の間に挟んだナイフを私に向けていた。

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