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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第三章 ロデウロ編
119/156

119、私は脱出する

 状況から言うなら、最悪だった。どういう理屈か、突然加速したヘキレキさんがシユウ様を引っ張ってこちらへ走って来てくれたお陰で、『六盾』で作られた箱の中に五人全員入ることには成功し、屋敷が爆破で木っ端微塵になっても無傷でいることが出来ている。だから、問題はコンディションではなくシチュエーションだ。傷はないが痛みはあるし、木材に埋もれてしまっていて脱出も難しい。


 僅かな光が残骸の隙間から差し込んできてはいるが、生き埋めとなっている私達がここから脱出するのは困難だろうというのは誰にだってわかる現状だ。箱が角を下にした形で静止していて、五人の身体が妙に絡まってしまっている。具体的に言うと重い。誰だ私に体重掛けてるの。とはいえ体勢を整えることが出来るような状況ではないし、かなり困ったことになっている、のだが。三人の会話は余裕に満ちていた。


「なるほどね……、むしろ俺様達が一網打尽にされる側だったってわけだ。確かにこの幽霊屋敷なら、誰にも怪しまれずに忍び込めて、基礎に爆薬くらい仕込めるわな。俺様達がここを突き止めて侵入してくるところまで想定済みだったってわけだ」

「奴等にとって誤算だったのは、クイラがこっち側に付いてたってことだろうな。洗脳が維持されてるようなら、俺らと一緒に生き埋めにするには勿体ないって思ってたのかもしれん。『追跡』の有用性は昨日と一昨日の二日間でしみじみ感じたろうし」

「全然記憶がない……。っていうか、どうして私の能力知ってたんだろう。それなりに伏せられてる情報のはずなんだけど。表向きにはありふれた低ランクの知覚系統ってことになってるし、それだったらわざわざ私を選ぶ必要ないもんね?」

「まあ、向こうにも俺みたいな奴がいるってこったろ。俺みたいに、まだ不確定な未来を少しでも知ってるって奴が。俺みたいに直接自分で動かないから、こうして俺らを始末し損ねるんだよ。絶対許さねえ。奴等にとってもう一つの誤算は、俺とヘキレキがここにいるってことだ」

「どうせ俺様らがもう死んだと思ってすぐに移動はしねえだろ。むしろ、クイラとか探すためにこの近辺に残ってたっておかしくないくらいだ。ぜってえ逃がさねえ。伝達系統っつー全体の目さえ潰しちまえば、これ以上窃盗犯が動くことはない。後からゆっくり捕まえていけばいい」

「……つまり、今からヘキくんが能力を使ってこの瓦礫をどける。シユウくんが能力を解除して、二人が組織の人達に襲い掛かる、ってこと?」

「それしかねえだろ。むしろ、俺様の能力じゃねえと脱出も出来やしねえ。くっくっく、二年前だったら脱出何て不可能だったろうが、今は違う。奴等には情報を更新してもらうとしようかねえ」

「……ねえヘキくん、提案なんだけどね、もう一分だけこのままってわけにはいかない?」

「は? なんでだよ?」

「いや、この位置丁度ヘキくんの服が近くていい匂いがするから、私の鼻に匂いが染みつくまで待って――」

「いくぞシユウ!」

「お、おう!」


 もはや突っ込みを入れることもなく、ヘキレキさんは箱から瓦礫の方へ視線を向ける。多分向けている。光がほとんどないし、先程のようにあらかじめ目を慣らしておいたということも無いので何をするつもりなのか全く分からない。だが、ヘキレキさんがようやく能力を使うのだろうということは想像がついた。この状況を打開できる能力となると、正直かなり強力な能力なのだけれど。


 そう思うと同時に、視界が光で埋め尽くされる。目の前の瓦礫が一瞬にして消失したのだ。少なくとも私の目にはそう見えた。いや、厳密に言えば瞳孔の問題で何も見えてはいないのだけれど。シユウ様が箱の一面だけ消したのか、そこからヘキレキさんがかなりの勢いで飛び出ていく。この狭い箱のどこでそんな勢いをつけたのだ。なんだ、何をしている。


「ほぉーん? さっきのは気絶した振りだったと? 俺様達を一番奥の部屋に誘導して、そのまま全員ぶっ殺すって計画だったわけか? それとも単なる行き当たりばったりか? どっちでもいいけどよお、とりあえず店の修繕費払ってくんねえかなあ!? 老朽化のせいで住めねえよ! 俺様は今日からどこで寝ればいいんだあ!?」

「ヘキく~ん!! 私の家~!!」

「うるせえ! とりあえず全員縛りあげてからその辺の責任問題はゆっくり話し合うことにしたから大人しく捕まれや全員! あぁん!?」


「ぶちぎれすぎておかしくなってませんか? それはそうと、シユウ様、とりあえず出ましょう。体勢的に起き上がれないので上から引っ張り上げてください」

「分かった。流石にヘキレキの方も、加勢しないとまずいしな」

「ここからだと何も見えないのですが、何人くらいいるんです?」

「……ざっと三十人くらいか? 半分くらいだったらヘキレキだけでもなんとかなってただろうけど、流石に三十じゃな。くっ、よいしょ。えーと、なんかパズルみてえだな。クイラから引き上げればいいか?」

「早く上げて! ヘキくんの雄姿を映像に収めなくちゃいけないから!」

「お前を一番に上げることに俺は抵抗を感じている。ほれ、手掴め」


 言っていることと行動に一切の違いがない。シユウ様に引っ張り上げられて箱の外に出る前から既に携帯を取り出して撮影モードにしている辺りに彼女の優先度を素直に感じる。一体ヘキレキさんは何をしてこんなに惚れられてしまったのだろう。依存度が高そうだから切っ掛け自体は大したことじゃなかったのかもしれないが、もうこうなってしまうと収拾もつかないだろう。


 状況に疲れてしまったのか、若干虚ろな目になっているイブキさんを先に箱の外へ押し出し、最後に私が出る。足元が崩れた瓦礫なので不安定ではあるが、立てない程ではない。シユウ様が能力を解除したのか、後ろから箱の上に乗っていた瓦礫が落下する音が聞こえるが、目前の景色に勝る衝撃ではなかった。以前私は多対一の戦闘は避けるべきだと言ったが、これは、何と言えばいいのだろう。


 地面と空中を行ったり来たりしているヘキレキさんが、襲い掛かってくるパーカー集団を次々に蹴散らしている。浮いているというよりは、跳躍力が強いような動き。強いのは見ていてわかるのだけれど、なんだろう、ワイヤーアクションのように見えて仕方がない。攻撃が全て本気なので、本気で怒っているのは見ていてわかるのだけれど。


 それを笑顔でキャーキャー言いながら撮っているあの女子は一体どういう感性をしているんだろうか。

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