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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第三章 ロデウロ編
117/156

117、私は慣らしておく

 一階の床に倒れている三人を放置して私達は二階に駆け上がる。イブキさんが突如として起こった事態に頭が付いていっていないようでフリーズしていたが後ろから強引に背中を押して登らせる。この屋敷内に犯人がいることがほぼ確定的となった以上、尚更イブキさんを一人にするわけにはいかなくなった。人質に取られでもしたらそれこそ全滅しかねない。


 後方の三人がしっかり気絶しているかどうかを悠長に確認している暇はない。一対一で戦えば勝てる相手でも狭い空間で囲まれて混戦になってしまえば絶対に勝てる保証などどこにもない。シユウ様とヘキレキさんが組んだ場合にどのくらいの人数を一度に相手できるのかは分からないが、負わなくていいリスクをわざわざ負うのは避けたい。


 二階に上がると同時に前方から殴打する音と人間が壁に激突する音が聞こえる。恐らくは前の二人が障害物を殴り飛ばしたのだろう。廊下の壁際に倒れ込んでいるパーカーを着こんだ何人かが目に入る。突然起き上がってこられても困るが、まあ、あの二人ならそんな中途半端な殴打はしないだろうと信じることにしよう。こちらを逐一確認しながら走ってくれるクイラさんがありがたい。


 途中にあるドアを開けて確認する必要はあるだろうかと考えるが、ある程度ドアノブに埃が積もっている。前の二人もこれを見て判断しているのだろう。その情報を鵜呑みしていいのかという懸念は当然あるが、他に手掛かりに出来るようなものも見えないし、そうせざるを得ないというのはある。妥協していかないと捜索など無限に時間がかかってしまう作業だ。


 こんな廃屋では隠れる場所、探すべき場所など文字通り腐るほどある。本来ならばその全てを虱潰しに探していくべきなのだろうが、当然のことながらそんな時間はない。証拠らしきもの全てがミスリードで、私達は首謀者からどんどん離れていっているという可能性もある。先程殴り飛ばした三人のうち誰かだったかもしれないし、もしそうだったならもう逃げているかもしれない。


 だけれどしかし。仮にそうだったとしてもこちらには『追跡』の能力を持つクイラさんがいる。その辺に倒れているパーカーの誰か一人に能力を使用すれば再追跡は容易だ。全員それが分かっているから防衛が固められている奥へと進むことに躊躇がない。仮にもぬけの殻だったとしても、隠れ家の一つを潰せたというだけで戦果としては十分なのだ。


 外から見た限りこの屋敷は二階建てだ。低く広くという設計なのだろう。まあ下手に高く建ててしまうと火事の時に逃げられないかもしれないので賢くはある。貴族らしくはないが。どうやら突き当たりに辿り着いたらしい。先程も似たような音を聞いたがどうやら扉ごと蹴りぬいた様子だ。クイラさんに続いて私もイブキさんの背中を押しながら部屋へと突入する。


「ちょっ……、アンナさん……、押し過ぎ……、体力……、もたない……」

「あ、ごめんなさい。でもまあ、死ぬよりはましだと思ってください」

「ま、まあ、確かにましだけど……。……ていうかアンナさん、なんで――」


「暗くて見えねえけど誰かいるな? 電気点けるなり窓開けるなりしろよ。さもねえと俺様がその辺の壁ぶち抜くぞ。こっちにはシユウがいるんだから、最悪この屋敷まるごと潰したって良かったんだってことを考えればかなり温情ある方だと思うぜ? 大人しく投降したらどうだ?」

「それは俺の能力があれば怪我しないって意味か? それとも尻拭い的な意味か?」

「尻拭い的な意味だ。カウントするぞ。三、二、一――」

「はいはいわかったわかった。窓開ければいいんでしょ? 電気点けてあげたいところだけど、こんな幽霊屋敷には当然電気なんか来てないから窓開けまーす」


 という言葉と同時に窓が開け放たれる。ただでさえ薄暗い屋敷を進んできて、こんな真っ暗な部屋に入ってしまった目はその光量に耐えられない。目を顰める。しかし、それとほぼ同時に床を蹴る音が聞こえる。窓を開けた誰か、光に背を向けた誰かがこちらへ進んできている。私はそんな姑息な手を使う誰かに向けた銃の引き金を引く。それと同時に足音が止んだのを聞く限り、どうやら命中したらしい。何も見えないから全く分からない。


「――何で片目を閉じているのか、ですか? そりゃあ、目を慣らしておくためですよ。窓が開く前に照準は合わせていたので、よほどトリッキーな走り方でもしていない限りは当たったはずですが」

「……じゅ、銃?」

「ええ、銃です。初めて見ましたか? 先程サロメ様に借りたまま返すのを忘れていたのですが、怪我の功名ですね。運良く奇襲を防ぐことが出来ました。それにしても、階段辺りからずっと目を閉じていたせいで痛くてしょうがありませんね。シユウ様、無事ですか?」

「さすがアンナ! 全部計算ずくの女! 無事だぜ! まあそれは、敵さんも同じみたいだけどな」


 シユウ様からの不名誉な称号を聞きながら薄ら目を開けると、窓から入ってくる光を背にしながら立ち上がる誰かがいた。銃弾がどこに当たったのかは分からないが、後ろに倒れ込む程度には衝撃を受けたということなのだろう。まあ、この程度で戦闘不能になるとは私も思っていなかったが、これで終わってくれればという願望がなかったわけではない。


 それにしても一人か。私の考えが正しければ、知覚系統と伝達系統の二人がいるはず。しかも役割的に一緒に行動していなくてはならないはずなのだけれど。どこかに隠れている、あるいは携帯とかでやり取りしていたか。どちらにしても、今ここで一人だけでも捕まえられれば事態の収束はかなり簡単になるはず。さて、私かなり恨み買った気がする。


「……銃かあ。王女の車で使ってたって連絡入ってたなそう言えば……。まさか持ってきてるとは思わなかった。可能性くらい検討しとくべきだったか……。当たったら危なかったけどね」

「当たらなかった、ということは、貴方は知覚系統の能力者ですか? 私の挙動を察知し、銃弾を避けたと?」

「さあ、どうだろうね? コメントは控えさせてもらうよ。……ていうか、なんでクイラそっちにいるの? スパイ大作戦的な感じ?」

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