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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第三章 ロデウロ編
116/156

116、私は命令する

 もし組織に人間がここを頻繁に出入りしているのならば、幽霊屋敷の内部は思っているより綺麗なのではないかと少しだけ願っていたのだけれど、残念ながらその願いは叶わなかった。床や家具には普通に埃が積もっていて、歩く度に細かい粒子が宙に浮く。玄関から差し込む日の光を埃が反射する様は傍から見れば綺麗だったかもしれないけれど、中にいる私達にとっては鬱陶しい現象でしかない。


 外観はそこまで豪華な屋敷という感じはなかったけれど、中に配置されている家具はかなり値が張るようなものが多い印象を受ける。隠れ成金みたいな感じだろうか。別に人の趣味にあれこれと口を出す気はないし、家主が死んでしまっている以上言ってももはや意味が無いので飲み込むけれど。劣化が進んでいるのか床の板がギシギシと軋む。抜けなければいいけど。


 ただ、目に見える収穫が一つだけあった。内部を少し進んで日の光が弱くなった辺りで床を見ると、積もっている埃にしっかりとした足跡がかなりの量刻まれている。屋敷内に誰かが出入りしていることの証拠だ。本来ならば幽霊屋敷に住んでいるくらい見逃してもいいくらいの話だろうが、今の状況では怪しい人物筆頭である。見つけたら殴って縛って捕まっても文句は言えない立場だ。


「足跡は二階に進んでるな。まだ埃が積もってない所から見るに、最近のもの、ひょっとしたら直近のものかもな。一階には誰もいなさそうだし、二階に行ってもいいと俺様は思うが」

「それ自体に異論はないけど、二階に上ったらまあ間違いなく暗闇だぞ。光源が携帯のライトくらいしかないのに加えて、地の利的にも圧倒的不利だ。それでも行くか?」

「なんだなんだ、ビビってんのか? ……店では油断しただけだ。もう老朽化が進んでるこの建物内ならだれに憚ることもねえ。極論、屋根でも壊せば明るくなるだろ?」

「周辺が騒ぎになるのは避けられねえけどな……。アンナ、クイラ、イブキ、どっちがいい? 危険だと思うなら一階で待っててもいいし、ここにいる方が危ないって思うなら一緒に来てもいい。別に俺等なら三人くらい守れるしな。どうする?」

「愚問ですわね。私はロデウロの第一王子から正式に依頼を受けた立場、犯人がいるかもしれない方向へ行かないという選択肢などそもそも存在しません。守ってもらう必要も当然ありません」

「ヘキくんが行くんなら私が行かない理由も無いわね。ここで女の意地見せずにいつ見せるかって話よ。まあ、足手纏いにはならないから安心してよ、知ってるでしょ?」

「…………」

「イブキさん」

「は、はいっ!?」

「率直に言います。ついてきてください。気は進まないというのは貴女のの目を見れば分かりますが、ここで一人で待機する方が危険だというのは薄々感づいているのでしょう? 私達には貴女をここまで連れてきた責任があります。真っ先に貴女が狙われたとしても、必ず護ると約束しましょう」

「…………う、うん。分かった……」

「ありがとうございます。さあ、行きましょう。窃盗犯の息の根くらいは、止められるといいのですが」


 息の根を止めるつもりは毛頭なかったが、どうせここでの会話も聞かれているんだろうと考えての牽制だった。こんな言葉に怯えてくれるような相手だったら私としてもかなり楽だったのだけれど。ヘキレキさん、シユウ様、クイラさん、イブキさん、私の順番で階段を上がっていく。下から誰かが襲ってきても対処できるように私が一番後ろだ。


 対処という点から言うならばシユウ様かヘキレキさんが最後尾というのが正解だったのだろうけれど、上への警戒を最優先にして欲しかったため、私はこの位置を譲らなかった。真っ先に逃げるためとか思われてないといいんだけど。一応、さっき拾った包丁と、未だに返却していない銃がチョッキと背中の間に挟んである。大体の事には対応できるだろう。


 王族の持ってる銃を借りたままって結構危ない橋渡ってる気がするのだけれど、サロメ様は心が広いしまあ大丈夫だろうと勝手に判断。そもそも命を護るための武装だ。責められる謂れも無い、とまで言うと少し言い過ぎか。目の前で肩を竦ませながら、おどおどとした様子で階段を上っていくイブキさんが目に入る。この位置からなら、全員が良く見える。


「うぅ……、なぜこんな目に……。私はただ買い物に出ただけなのに……」

「……そう悲しそうな声を出さないでください。その辺りの責任は犯人を捕まえたらきっちりと謝罪させますので」

「えっ。いや、いい。謝罪とかいらないよ。怖い人と関わるなんてやだよ。私は平和に生きていたいんだから」

「はあ、そうですか。ですがまあ、今回の件の解決に協力してくれたのは事実なので、何かしらの恩赦は出ると思いますよ。物か現金かまでは分かりませんが」

「うーん……、そういうのもいらないんだけどなあ……」

「ですが、何かしらの形で恩返しというのはする必要があるのですよ。立場や地位が高くなるほど、そういう無駄な慣習に人は煩くなっていくのです。それをする当人ではなく、関係もない部外者ほどに。ですからまあ、そういうものを断るというのもなかなか悲しい話ですよ。断られる側としても、来るものがあるでしょうし」

「……そう言われても、私普通の飲食店の一般人だし……。協力って言っても最初があれだから、個人的には申し訳ない気持ちの方が大きいし……」

「ご実家が飲食店なのですか?」

「うん、うどん専門店なの。うちのうどんは食事通り一だよ!」

「ほう、うどんですか……。……あの、今回の件が終わったら食べに行ってもいいですかね? シーツァリアってまともなうどん屋さん無いんですけど、私うどん大好きなんですよ」

「え、うどん好きなの? 貴族のお嬢様らしからぬ好物……」

「私が常連になれば、いずれシユウ様と結婚した時にお店に箔が付くと思いませんか? うどんを布教していきましょうよ。やはり麺類第一位はうどんですから」

「おお、思ってたより気が合うね。是非とも来てよ。満足させる自信があるよお……!」


 とまあ、思ったより盛り上がってしまった会話を私の隙と捉えたのか、階段の上部の壁がぶち抜かれてそこからパーカーを着た人物が三人飛び出してきた。壁が軋む音にいち早く反応していた前方の二人が空中で二人を殴り飛ばし、私の頭上に振ってきた残り一人は私が蹴り飛ばした。三人が床に倒れ伏すのを見た私は叫ぶ。


「シユウ! ヘキレキ! 急いで探しなさい!」

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