115、私は周囲を調べる
「ヘキく~ん……、一回りして来たけどどこにも入れそうなところなんて無かったよ~……」
「まじか。クイラが見つけられねえってことはまじでねえんだろうし、そうなるとこの草を踏んだ跡も無い正面玄関から入ってるのか? 俺様的にはここから入ってるってことはねえと思ったんだが……」
「クイラさんの『追跡』で侵入経路を見つけることは出来ないのですか? それとも何か制限があるとかでしょうか?」
「うん、申し訳ないことにね。私の『追跡』は追跡する対象との距離が最低百メートルは離れてないと追跡が不可能なのよ。だからこそ、私のこの能力は知覚系統にも分類されない例外認定ってわけ。遠距離限定だけど、遠距離なら最強ってわけ」
「そういう経験からか知らんけど、こいつ痕跡とか見つけるの滅茶苦茶上手くてな。俺の家の合鍵とか隠してるのに当たり前みたいに見つけるからな。住居不法侵入だよ」
「通報されなきゃ犯罪じゃないから大丈夫!」
「バレなきゃ何してもいいみたいな犯罪者特有の思考をこいつからは常々感じているから、正直怖い」
「えっ、ヘキくんが怖いって言った! あの自信と不遜の権化みたいなヘキくんが弱音を漏らしたー! レア、これはレアよ! 録音するからもう一回言ってー!」
「な? 怖いだろ?」
「ええまあ、正直なところ恐怖は感じます」
クイラさんが携帯の録音機能を起動する前にそそくさとこの場を離れていくヘキレキさん。玄関の方へと歩いていく姿は逃げたようにも見えるが、どうせ粘着されるのだから逃げても意味がないことなど本人も理解しているだろう。それにしてもどこから出入りしているのか。玄関には露骨な板が釘でバツ印に打ち付けられており、人の出入りがないことを証明している。
まさかいちいち剥がして打ち直して、なんてことは無いと思うが、偽装工作のためならばそのくらいしてもおかしくはないのかもしれない。あるいはセブンスヘブンで襲ってきた双子のように透過の能力で出入りしているとか。もしそうだった場合私達には打つ手が一切なくなってしまうので勘弁してほしいところだが。そのくらいしていてもおかしくない以上、私達は今追い詰められているのかもしれない。
私は門から正面玄関へ、途中で枝分かれして屋敷の裏まで伸びている石畳を靴の裏で叩きながら歩く。こんな所に隠し通路があったりするかもしれないという漫画的発想を本気で信じているわけではないけれど、とりあえず全部疑っていかないと手詰まりな状況なのだ。周辺を見渡して何かないか探すが草が生い茂っていて地面もまともに見えやしない。
屋敷の大きさは貴族基準で言うなら中くらいと言ったところか。まあうちの方が大きい。必要以上に巨大な家って結構面倒な点が多いので、個人的にはこのくらいの大きさの屋敷には好感が持てる。と、屋敷を見ていて思ったのだけれど、不審な一家心中が起こった家に変な方法で出入りしている人間がいたらそこそこの噂になるのでは。
透過の能力で入っているにしろ、こそこそと害虫のように忍び込んでいるにしろ、この屋敷には幽霊が出るみたいな噂が立っていてもおかしくないはず。けれど我々の中で唯一の部外者でありながら唯一の常識人と化しているイブキさんはそんなことを一言も言わずに付いてきた。出入りしているにしても目立たない方法を用いているなら、それは。
「アンナ、なんか見当ついたか?」
「いえ、全く。ここまで何も見つからないとなると、透過の能力か、あるいは移動系統だと考えるのが妥当でしょうね。それなら周辺の住民に見られることもなく、変な噂が立つこともありません」
「噂? ああ、変な方法で出入りしてたら幽霊屋敷の噂に尾びれ背びれ付くだろって話か。まあ確かに、ここが幽霊屋敷って言われてるのだって、単に外観が不気味ってだけだからな」
「ふむ……、となると……、……そういえば、先程クイラさんはここに肝試しをしに来たことがあると言っていましたが、シユウ様はここでそういうことをした経験はありますか?」
「……実際あるんだよな。ていうかそれこそクイラから誘われたんだけど。小四の夏休みに肝試ししようって誰かが言って、まあ最悪俺がいるから大体許されるだろってことでここになったんだよ」
「王族を免罪符代わりに使うとは……、ロデウロの国民は恐れというものを知りませんね。というかシユウ様が尊敬されてなさすぎというべきなのでしょうかね……」
「その哀れんだ眼はやめろ。孤独な王族よりは馴れ馴れしい王族の方が好感が持てるだろ」
「なぜそこまで両極端なのか……。その肝試しの時は屋敷内には入れたのですか?」
「入れた。だけに不思議だ。あの板も無かったし、ここまで草が伸びても無かった。二年前の段階で事件から五年経ってたにもかかわらずだ。今だからそれを疑問に思えるけど、当時は思いの外綺麗だなくらいにしか思わなかった」
「時間経過から見れば自然な荒廃具合ですが、確かに少々妙ですね。この二年で七年分荒れたというわけですから。……カモフラージュ、でしょうか。ヘキレキさんの店を破壊した時間系統の能力者が、この土地にも同じように能力を使った、とか」
「っらあ!」
ガシャガシャバキバキバキと大きな音と共に響き渡るヘキレキさんの声。シユウ様と顔を見合わせた後に振り返ってみると板ごと正面玄関を破壊しているヘキレキさんが目に入った。目を輝かせてその背中を見ているクイラさん。是非とも一度こちらに声を掛けて頂きたかった。まさか予告も無しにそんなことするとは思わんじゃん。
「障害物ってのはよお、壊せばなくなるから障害物なんだよ」
「いや意味わからん。……まあ、もう壊すくらいしか選択肢がなかったのも事実ではあるか……」
「いいなあ板さん! ヘキくんに蹴ってもらえるとかまじ羨ま過ぎて嫉妬が止まらないよ! 私がそうなれれば良かったのにぃ!」
「なんか、狂人みたいなこと言ってる人がいるんですけど……」
「関わるな……、関わらなければ害は無いんだ……」
「いや、俺様から言わせると狂人はそこにいるだけで周囲に精神汚染を引き起こす。関わるなは適切じゃない。近寄るなが正しい」
「何の補足だよ」




