表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第三章 ロデウロ編
114/156

114、私は揶揄う

「なるほど……、これは確かに幽霊屋敷と呼ぶに相応しい佇まいですね……。正直、なぜロデウロにこんな建築物があるのか疑問で仕方ありませんが」

「まあ、そこまで深い事情があるわけじゃないよ。単純に、元々ここに住んでた一家に近親者がいなくて、誰も相続できないから放置されてるってだけの話。別にロデウロって土地に困ってるわけじゃないからさ、わざわざ屋敷壊してまで確保する必要も無くて……」

「……その、元々ここに住んでいた一家はどこに行ったのです? 首が回らなくなって夜逃げでもしましたか?」

「いや、一家心中。本当にそうなのかは分からないんだけどな」

「どういうことです?」

「七年前にこの屋敷に住んでた貴族の一家が五人全員死亡してる状態で見つかった。朝に出勤してきた使用人からの通報で発覚して、すぐに殺人事件ってことで捜査が始まったんだけど、調べてみても盗まれたものがあるわけでも、中が荒らされてるわけでもなくて、強盗の線は薄いってなってな。一家の死亡状況が自殺とか事故ってことでもおかしくないってことで、結局一家心中って結論で話が終わった」

「……それで捜査関係者が全員納得したとは思えないのですが」

「全員どころじゃねえよ。全員納得してない。でも、いくら調べても一切の痕跡が出て来なくて、半年が過ぎた辺りで状況から判断せざるを得なくなった。一つの事件だけにいつまでも人員裂いてられないからな。今も捜査してる奴等はいるみたいだけど、もう新しい証拠も出てこないだろうし――って、俺も思ってたんだけどな」

「今回の件が七年前の事件に関係してると? 流石に論理が飛躍し過ぎなのでは?」

「俺もさすがにこじつけが過ぎる気は自分でもしてる。でも七年前なら組織が活動してても特におかしくない時だ。まさかそんな存在がいるなんて思わないから容疑者の候補にも上がらないだろうしな。まあ別に疑うだけなら誰も困らないだろ?」

「もしそうだとしたら本当に洒落にならないですがね。今の所、私の殺害未遂くらい……、いえ、先程一人犠牲者が出てしまいましたが。そこまで凶悪な犯罪組織というわけでもないという認識でしたが、人命を奪うことをそこまで躊躇なくやらかす連中となると危険度が跳ね上がりますよ」

「危険度自体は元から高いけどな。俺の知ってる歴史からここまで乖離してるとなると、俺と同じ知識を持った奴が向こうにいるのはほぼほぼ間違いない。動き出しとその大胆さが俺とは段違いだった。こんな後手に回ることになるとは……。だからこそ俺は、これからあらゆる事態の元凶を組織の奴等だと決めつけて動くことにする。軌道修正は任せた」

「私の負担やたら大きくありません?」


 現在私達はロデウロの街外れ――というわけでもなく、むしろどちらかと言えば街の中心付近に位置する屋敷の前にいた。概要は今のシユウ様の話の通りだ。食事通りからそこまで距離が離れているわけでもなかったので徒歩で来たのだけれど、せめてグースさんとか大人を一人くらい呼んでおいた方がよかったのではないかと今更ながら思う。私達だけでは何かあった時に対処の幅が実力行使くらいしかない。


 ぶっちゃけこの四人がいれば大体の敵は物理的に倒せる気がする。小細工とか不必要。しかし、街中の建物にしてはおどろおどろしい雰囲気が漂い過ぎている。人が住まなくなった建物は劣化が早いとは聞くけれど、幽霊屋敷と言われるとこうも不気味になるものか。植物に歌を聞かせると綺麗に咲く、みたいな話と同じようなものだろうか。いや、全然違う。


 四人とは言ったけれど、この場には念のために連れてきたイブキさんがいる。あのまま解放して組織に消されでもしたらそれこそ寝覚めが悪いし、かといって城で保護するには時間が足りなかった。位置を特定したのが把握されていても、逃走する暇がない程度には早々に追い詰める必要があったからだ。寄り道をしている暇がなく、それゆえにこの場に連れてくるしかなかった。


 なんだか余計に危険な目に合わせているような気もしたけれど、放置して死ぬよりはましだと思ってもらいたい。こちらとしてもわざわざ足手纏いを連れてきたわけだし。まあ、巻き込んだのはこっちだからなんたる言い草と思われても仕方なくはあるけれども。借りてきた猫のように大人しいという言葉があるけれど、今のイブキさんはまさにそんな感じだ。


「……うん、門から入り口に向かって草がしっかり生えてるな。どっか別の入り口から入ってると考えるべきか、能力かなんか使って、わざわざ浮いたりしてると考えるべきか。俺様的には、どっか別の入り口があると思うが」

「ヘキくんがそう言うならきっとそうね! 見てて見てて! いち早くその入り口を発見してヘキくんの期待に応えて見せるから!」

「誰もお前に期待はしてない――って速っ! ……さっきもそうだけど何の能力も無しにあの速度ってなんなんだ? 筋肉ゴリラかなんかか? そんなにゴツイ印象無いんだけどな……」

「ヘキレキさん、私がその答えを教えて進ぜましょう」

「何だその占い師みたいな口調」

「答えはずばり愛です! ラブです! 愛は人を変え、愛は人を強くし、愛は時として人を狂わせるのです! 恐らくクイラさんはヘキレキさんへの愛が限界を超えた結果として、人知を超えた速度を出せるようになったのでしょう。素晴らしいですね」


「……なあシユウ、アンナっていつもこんな感じ?」

「いや、多分お前のこといじってるだけだと思うぞ。アンナって見た目おしとやかだけどからかったりするのめっちゃ好きな隠れサドだから」

「そうか……、だからお前はマゾになっちまったんだな……」

「そうなんだよ……、やっぱ磁石のS極とN極みたいに反対こそ相性がいいからさ、俺もマゾになった方がいいのかなって思って。最近はもう罵倒が褒め言葉っていうか、悪口あってこそのアンナっていうか」

「そこは否定しろよ。つかやだなー……、親友がドの付くマゾって……」

「クイラに振り回されるのが好きな奴に言われたくねえなあ!」

「よっしゃこら戦争だこら! 店の仇討ちの前に尊厳を取り戻す戦い勃発だなあ!」


「……これ、ロデウロの命運がかかった事態なんじゃなかったっけ?」


 唯一の常識人であるイブキさんの呟きは、誰の耳にも入らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ