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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第三章 ロデウロ編
112/156

112、私は恐れる

「よろしくねアンナちゃん!」


 そんな大声と共に両手で握った私の右手を上下にぶんぶんと振り回すクイラさん。肩が壊れかねない勢いなのだけれど笑顔が全く崩れないということは、恐らくそんなことを考えてもいないのだろう。先程からの会話と目を見て理解したが、この人には共感能力が致命的なまでにかけている。自分にとって都合のいい情報だけを受け入れるのは人間ならば誰もがやっていることだけれど、この人はその度合いが明らかに異常だ。


 勿論、今までの私の人生で都合の悪いことは全て耳を塞ぐという人間を見たことはある。けれど、ここまで自然体のままに全てを受け入れないことが出来るという人間は初めて見た。自分にとって不都合な情報の一切が遮断されると、それはそれで人間不安になるものだ。そんな人間らしさから怖いほどにかけ離れたこの少女は、私からするとあまりにも不気味だ。


 シユウ様やヘキレキさんからすれば少し空気が読めなくて自己中心的な人物くらいの印象だろうが、目を見てしまった私からするとこんなに信用していいかどうかわからない人物はいない。ヘキレキさんへの好意を直接的に表しているように見えるが、目の奥に感情の一切を見ることが出来ない。誰にどういう感情を向けているかが不透明過ぎる。


 私は誰かに対して怖いという感情を持つことはほとんどない。幼い頃から何を考えているのか分からない大人を見て育ってきた私がいまさら何を怖がるという話だ。だが、この少女は明確に怖い。この歳でそこまで現実から目を背けるようになってしまうなんて、まともな神経ではない。まともな成長ではない。まともな人格ではない。私の手を、何を思って握っているのだ。


「シーツァリアの美人さんに挨拶できたところで本題に戻ろっか。さっきのヘキくんの言い方だと告白以外にも何か用事がありそうだったけど、それってここ数日の窃盗事件と関係してるのかな?」

「やっぱ、同一犯による連続での窃盗ってもう噂になってるのか?」

「噂になってるか、それともなってないかで言えば、多少なってるわね。でも私が判断したのは別よ。シユウくんがここにいて、ヘキくんと他国の女の子を連れてる。これはもう只ならぬ事態への対処意外に可能性はない。ばれないように行動してるつもりだっただろうけど、実際結構ざわついてるんじゃない?」

「俺が歩いてるだけでそこまで騒ぎになるのも本当に考えものなんだけどな。どうしてここまで俺に人望なんか付いてきちゃったんだか……」

「そりゃあ強いし、表に出てくるからね。他国ではジエイさんが国王を継ぐのはほぼ確定みたいに言われてるらしいけど、国内だけで見ると勢力的にはかなり拮抗してる。優秀なだけじゃ信頼はついてこないことの典型例よ」

「ジエイ様に何か悪い噂でもあるんですか? 他国に留学して、戦うしか能の無いシユウ様と人望的に拮抗するなんて、余程の悪評でもないと説明がつかないように思いますが」

「敬語はいらないわよ、同い年だし。というかシユウくん酷い言われようね。仲が良いようで羨ましいけれど。うーん、別にジエイ様に悪いところがあるってわけじゃないのよ。ただ、擁護する材料も無い。表に出てくる機会が極端に少ないから、支持しない理由も支持する理由もないってだけ。優秀っていうのだけは、皆知ってるんだけどね……」

「お前ら誰か俺様の告白云々について訂正しようって気はないのか!? 身体のどこかに発信機でも付いてるんじゃないかって必死に探してる俺様の姿が見えないかお前ら!」


「そこに座り込んでるのイブキって奴なんだけど、そいつに洗脳かけた奴って探せないか? 正直な話大分手詰まりでな。事情に関してはまあ、もう少し誰も見てない場所で後々丁寧に説明するから、今は何も聞かずに協力してほしい」

「誰も見てない場所で、ねえ。それはとても魅力的なお話だけれど私がそれに協力することのメリットは? シユウくんのことだもの、何の見返りもなしに協力しろなんてこと言わないわよね?」

「メリットか……、そうだな……。一週間ヘキレキを自由に引っ張りまわしていいっていうのは?」

「乗ったわ」

「俺様の意志はどこ行ったあ! つーか一週間は長い! せめて一日とかだろ! なんだ一週間って!」

「まあまあヘキレキさん、そう青筋を立てないでください。日数が多いのが不満だというのであれば私が値切り交渉をクイラさんにしてきてあげましょう。ですから一旦落ち着いて」

「なんかこの状況で値切り交渉って言われると俺様の値段を下げようとしてるみたいだな……。まあ、日数が短くなる……、いや、勝手に決められた交換条件だから俺様が従う理由も無いんだけど。日数が短くなるならそれに越したことはないし……、とりあえず頼む」

「承りました。……クイラさん、少々宜しいですか?」

「ん? どうしたのアンナちゃん」

「私達が現在追っている人物はヘキレキさんの店を襲撃し、内装も外装もボロボロにして逃げ去っています。ヘキレキさんはそれゆえに犯人追跡に協力してくれています。しかし、お店のあの有様では修繕が完了するのはかなり先のことになるでしょう」

「そんな! ヘキくんのお店が! 絶対に許せないんだけど!」

「お気持ちはわかります。つまり私が何を言いたいかと言えば、今回の件でクイラさんが犯人を見つけ出せば、ヘキレキさんの中でクイラさんの株は爆上がり、好感度は鰻登り。一週間引っ張りまわしていいなど小さいことを言わずとも、ヘキレキさんが感謝し、クイラさんに身も心も委ねるのは時間の問題です」

「おいこらそこの次期王妃。なんて奴になんてこと吹き込んでやがる。行き過ぎた嘘は時として人間を破滅に追いやるぞ」

「わかりますか、クイラさん?」

「……つまり今回の件は、ヘキくんから私への遠回しな愛の告白ってことよね? もうヘキくんったら! そんなことしなくたって言ってくれれば拒んだりなんてしないのに! 照れ屋さんなんだから!」

「愛情の裏返しというやつですよ。微笑ましいものです。というわけでクイラさん、全力でお願いします」

「まっかせて! それでヘキくん、お店が直るまでの間、ううん、これから先ずうっとでもいいんだけど、私の部屋に住むっていうのはどうかな? 不自由なんて絶対にさせないから。ね?」

「ああああ! もう! 面倒くせえ! 俺様はもう帰る! じゃあな!」

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