111、私は黙る
「恐らくは、知覚系統の能力者と伝達系統の能力者が、私達の動向を洗脳済みの人間に逐一共有しているのでしょうね。かなりの広範囲をカバーできる知覚系統が私達を監視し、その情報を元に伝達系統が私達の妨害をするという役割分担。洗脳系統も合わせて考えれば、相当に珍しい能力者の集団ですが、悪事に利用された際の質の悪さはやはり一級品ですね」
「ってなると、俺等が正攻法であいつらに接触するのは結構難易度が高いって話になるな。洗脳済みの奴から辿っていけばいつかは遭遇するんじゃないかっていうのはやっぱ楽観視だったか。なんかしらの対策っていうか、どうにかして強引にでも接触する手を見つける必要があるかね」
「いや、ないな、そんな方法は。俺様が言わなくてもお前ならわかってるだろ? ここまで徹底的に間接的な接触を貫き通してるってことは、どうしても自分の居場所を特定されたくない。ゆえにそれに対してやりすぎとも言える対策をしてるはずだ。つまり、正攻法だろうが邪道だろうが、俺等が向こう側を特定するのは限りなく難しい」
「しかし、そう断言してしまうと状況が絶望的とも言えるものになってしまいますよ。我々は事態を収束できず、ヘキレキさんは店の修繕費を自腹で払うことになってしまう。誰も幸せにならない最悪の展開です」
「店の修繕費は国から多少補助してもらえるって話じゃなかったっけ? そうじゃねえと店の再開が十年後とかになりかねないんだけど」
「そこは最悪俺がどうにかするから。まあでも、誰かは捕まえないと誰も納得はしねえだろうな。少なくとも、洗脳されてるにしたって首謀者として扱える誰かを確保したい。そうじゃないと近い内にロデウロに来る機関を黙らせられない。捜査のためとか言ってロデウロ内に留まられたら、今以上に国内への組織の浸食が進行する可能性もある」
「しかし、現状は完全に袋小路です。いくら窃盗犯を現行犯で捕まえても、今のようにあやふやな証言だけでは何も収穫がないのと同じ。むしろ、証拠が潰れていくという点では進展どころか後退していると言っても過言ではありません」
「……一人だけ、俺様に心当たりがある」
「……犯人にですか?」
「いや、逆だ。この状況から犯人を見つけ出せるかもしれない奴を知ってる。本当はもっと早く呼ぶべきだったんだろうけど、なんつーかな……、俺様はあいつが苦手であまり関わりたくないというか……」
「…………、……? ……あっ! えっ、おまっ、あいつ呼ぶの!? あれを!? あの人間大砲を!? つか連絡先知ってんの!?」
「知ってるというか、いつのまにか携帯に登録されてたと言うか……」
「こわっ。いや、でも、うーん……、あれかあ……。確かにお前が呼べばすぐ来るとは思うんだけど、なんていうか、あいつの場合たった一回の借りがえらい利子引き連れてきそうというか……」
「ああ、お前の心配もごもっともだし俺様も似たようなことは思ってる。だけどな、今のままロデウロが滅びるかもしれない可能性と天秤にかけたら、まじで比べ物にならないことは俺にだってわかる。それに最悪いざとなったら他の国に逃げる」
「リスクが巨大すぎる……」
「つーわけで今から電話を掛ける。俺以外に誰かがいるってわかったら来ないかもしれないからお前らは可能な限り息を潜めてろ。……イブキ、お前もだぞ」
「は、はい」
そう言うと少し離れたところで携帯を取り出すヘキレキさん。呼吸を整えて、画面を見て、呼吸を整えて、画面を見て、呼吸を整えて、画面を見て。全然先に進まないわね。どれだけ電話を掛けたくない相手なのよ。逆に言えば、そんな相手にも頼らざるを得ないほどに今の私達は崖っぷちにいるということでもあるのだけれど。にしてもそこまで怯えるって何。悪魔とでも契約しようとしてるの。
誰を呼ぼうとしてるのかをシユウ様に聞きたかったけれど、可能な限り喋るなと言われたので素直に黙る。この苦境で唯一出てきた希望を絶やすのは賢くないと判断したからだけれど、なんだかこのシユウ御一行の人数がどんどん増えてきている気がする。このままイブキさんまで連れていく気は当然ないけど、それにしたって四人目になるわけで、段々ゲーム染みてきた。
ちなみに私はゲームはそれなりにやる。私自身が買うことは許可されていないけれど、リーデアが少しずつ持ち込んだゲーム機を私の部屋で組み立てて夜な夜な興じている。正直嵌まってはいる。だって楽しいもの。勉強の五億倍楽しい。本来なら携帯の所持すらいまだに許可されていない身分にしては、我ながら最近少し娯楽にのめり込み過ぎだと感じてはいるのだけれど、だからと言って止められるわけではないのが娯楽の恐ろしいところだ。
「あ、もしもし。俺様だけど、ああそうそう、いや違う。そうじゃない。急な心変わりじゃない。照れ隠しでもない。分かった、久しぶりなのは確かだけどちょっと俺様の話聞いてくれ。聞こえてるか? 聞いて? ……そう、ちょっと手伝って欲しいことがあってな。今暇か? ああ、いや、別にわざわざ、え? いや、俺様は今……、切れた」
「……っ! ヘキレキ! 一歩右!」
「うおっ――うおおお!?」
「なーんで避けるのよぉ! 久しぶりにヘキくんからデートのお誘いだから気合入れて来たのに! 私の数か月分の愛情を込めたハグを受け取ってよぉぉ!」
「久しぶりもくそもあるか! お前とデートしたことなんかねえだろうが! そもそもどうやってここまで来たんだ! 俺様はまだどこにいるかとか言ってなかったんだけどな!」
「そりゃあ勿論愛の力ってやつよ! ってあら、シユウくんじゃない! お久しぶりね!」
「今回はお前に会わずに済むかと思ってたんだけどな。毎回ヘキレキの店にいるから今日こそはって。なのにこんな形で……」
「なによなによシユウくんってば! そんなに私に会いたかったの!? はいこれ、私の電話番号。寂しかったらいつでもかけてきていいわよ?」
「曲解にもほどがあるし、なんで自分の電話番号を書いた紙なんか持ち歩いてんだお前」
「あら、そっちの子は? 初めて見る顔だけど……、って、なになに! すっごい美人さんじゃない! よろしくねよろしくね! 私の名前はクイラ・エスティ・ブレインハート! あなたは?」
怒涛とも言える勢いで現れ、私に名前を聞いてきた少女は艶のある黒髪を脇腹ほどまでのツインテールにした、形容するならば美少女と言うべき少女だった。目にはハートが浮かんでいるようにすら見える。ただどうもそれ以上に、性格に難があるというのは火を見るよりも明らかだった。




