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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第三章 ロデウロ編
109/156

109、私は信用していない

 私の腹部に包丁が刺さらなかったことに多少の衝撃を受けたらしい女性は少しだけ首の角度を上に向けて私の顔を見る。いや、そんな表情の確認されてもこっちとしては困るだけなのだけれど。微妙に殴られたみたいな衝撃はあったから怒ってもいいと言えばいいんだけど、別に怒るほどの事じゃないというか、困惑してるこの人を見てると怒るのも何か違うのではというか。


 とりあえずここで何もしないと逃げられそうなので手首に右手で手刀を叩き込み包丁を落とさせる。後で痣くらいにはなると思うけど我慢してほしい。抵抗のために暴れて手錠掛けられるよりは痛くないと思うので。叩き落された手を呆然と眺めているのでそのまま手刀を首にも叩き込み、息苦しさから姿勢の良くなった上半身を思い切り右足で蹴り飛ばした。


 私には体の動きを助けるような能力はないけど、別に多少鍛えればこれくらいできるようには誰だってなる。通りの真ん中に倒れ込む女性だけれど、動けないほどのダメージを食らっているわけではないはずなのでもしこのまま起きないと完全に狸寝入りだ。ビンタとかしなくちゃいけなくなるから出来れば早めに起き上がって欲しい。


 叩き落して金属音を鳴らしながら地面に落下した包丁をハンカチでくるんで拾う。目の前に現行犯で被害者に暴力で負けた人がいるのでこれ以上の証拠とか正直いらない気がするけど、もし第三者の指紋とかが残ってたらそれは重要だし。さて、本当ならばここで警察を呼ぶべきなんだろうけど、今この状況でこの女性を警察に渡すのは少し考えるところがある。


 タイミング的に偶然とは思えないのよね。多分今も私達はどこかからか監視されていて、三人で一緒に行動し始めたからそれを邪魔しようとしてこの女性を差し向けてきたと考えるべきだろう。となると彼女はこの状況で非常に希少な情報源だ。警察に渡すのは少しだけ時期尚早な気がしてならない。どうせ洗脳食らっててまともな裁きも特にないだろうし、別に大丈夫でしょ。


「シユウ様、ヘキレキさん、この方はこのまま連れていきましょう。少しくらいなにかの情報を持っているかもしれません。この場に留まって必要以上に目立つのも嫌ですし、私が騒動の中心と思われるのも嫌ですし、さっさと逃げたいという本音もあります」

「本音言っちゃったら建前の意味がないんだよなあ。正直なところも、俺は好きだけどな!」

「その急に告白してくる感じ久しぶりですね。そんな戯言は今はどうでもいいので早くその女性を担いでください」

「戯言……」

「くっくっく、いいねいいねえ。その冷静さ、判断力、対応力。シユウがいなかったら俺様が口説いてるところなんだがな」

「あら、それは残念。シユウ様がいる以上、それは叶いませんね」

「……ふーん、お似合いってところか? よく言われねえ?」

「ええまあ、事情を知っている王族の方には割とそういう風に言われることも多いですね。それにしたって別に特別なことはありませんよ。ただ私が愚直にシユウ様を信頼しているというだけです。シユウ様、早くしてくださいな」

「あれ? 俺が担ぐのはもう決定してるの? 別にいいけど……」


 そういうとシユウ様は当然のように女性を肩に担ぎ上げ裏路地へと走っていく。いや、まあ、連れていくにしてももう少しやりようがあったのではないかと思うのだけれど。その持ち方は完全に荷物よ。荷物、まあ、間違ってはいないけれど、自分がそう運ばれたらと考えると少し悲しい気持ちになる。周りからの注目が集まる前に私もさっさと裏路地に走り込む。


 私がシユウ様に女性を運ぶのを促したのは、別にシユウ様の苦しむ顔を見ると愉悦が味わえるからとかそんな鬱屈した理由ではない。ただ単純な話、私はヘキレキさんをまだ信用できていない。シユウ様から向けられる信頼が揺るぎないものであるというのは見ていればなんとなく察せるのだけれど、私からするとそこまで信用するだけの材料が全然足りていない。


 今の段階だと食事しに行ったら一足先に襲われてた謎の人物なのよ。シユウ様より強いって言葉にもいまいち信憑性が無いというか、もしそうだとしたら彼が有名になっていない現状が謎過ぎる。十歳当時は私もシユウ様のことは知らなかったけれど、それからの二年間でシユウ様の名前を聞く機会は爆発的に増えた。十歳を超えたことで入ってくる情報量が飛躍的に増大したからというのもあるけれど。


 能力を使用した近接戦において意味が分からないほど強い人物がロデウロにいるという話が信じられない速度で七か国に広まった。シユウ様にその話をしたら、ああ、それ俺だよ、とか言われて驚いたという裏話も一応ある。世間というのは狭いというか、王族にとっての世間が七か国そのものというか。スケールの違いを知るいい機会ではあったけども。


 王族でなければその存在が噂にならないということも無いと思う。ロデウロで行われる能力使用ありの試合は七か国の中でもかなりハイレベルで信憑性の高い催しだ。それで有名になったのがシユウ様だけなのだから、大会に出ていないという話は本当なのだろう。ただ、その目的が有名になると何かしら不都合が生じるから、というものでないという保証が現段階では存在しない。ゆえに信用できない。


「それで、さっきなんで包丁が腹に刺さらなかったんだ? なんか仕込んであるのか、あるいはお前の能力か?」

「基本的に外出時には上半身に防護チョッキを仕込んでいます。以前熊も一撃で気絶させるスタンガンを当てられて以来重要性を再確認したので、最近は絶対に身につけていますね」

「なるほどね、シーツァリアっつったらそういう護身用やら撃退用やらのアイテムの開発数も多いしな。だてに軍事に発達してるわけじゃねえってことか。ってか熊も気絶させるスタンガンって。どんな恨み買ったら十二歳がそんなん食らわされそうになんだよ」

「さあ? それは私も知りたいところなんですがね。問題が解決した際には、組織のトップを拷問している様子を見ながら優雅に紅茶でも飲みたいところです」

「大分鬱憤溜まってんな。で、シユウよー、そっちどうだー?」

「どうもなにも、今から話聞くところだよ。なんで俺一人に任せんだよお前らも来いよ!」


 怯えた表情を浮かべる女性を三人で取り囲むというのはなかなか、犯罪の匂いがするわね。

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