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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第三章 ロデウロ編
108/156

108、私は余裕を持つ

「そういえば、シユウ様が勝手に同行を許可したので確認を取るのを完全に失念していましたが、ヘキムラさん……いえ、ヘキレキさんは強いのですか? 交戦したという情報からある程度は戦えるのだと解釈していますが」

「まあ間違っちゃいねえな。さっきは不意を打たれたっていうか、思いもよらぬ角度から精神攻撃を食らったんで、衝撃によろめいてる間に情けなくもやられちまったわけだが、少なくとも俺様はこいつよりかは強いぜ」

「……は? シユウ様より強いというと、ほぼほぼロデウロで一番強いということになるのでは?」

「そうなんじゃねえの? 大会とか出たことねえから知らねえけど。はっはっは、下手に大会とか出ちまうとシユウの目標とかその辺纏めて蹴散らしちまうから、これでも配慮してんだぜ? なあ親友?」

「……癪だけど確かにな。別に俺から頼んだわけじゃないけど、正式に戦うとなったら俺が負ける可能性の方が高い。今までの勝率で言うと三七ってところだけど」

「はあ? そりゃ盛っただろ。どんだけお前の顔を立てて控えめに見積もっても八二がいいとこだろうが。正直言ってお前に負けた記憶とかどんだけ脳みそひっくり返しても遥か彼方の大昔なんだけど?」

「いやいやいやいや、そりゃ冗談きついぜ。なんだ? 俺に負けたのが気に食わなくて記憶でも消したか? 正直今戦ったら勝率を六四くらいにまで引き上げる自信あるぞ。やるかこら。それとも追い抜かれるのが怖くてできねえか?」

「上等だこら。どっか開けたところ行こうぜ。ロデウロで一番人望のある王族が平民にボコボコにされるところお披露目してやるよ、公開処刑の時間だ」


「……今はそんなことをしている場合ではないでしょうに。というか、シユウ様より強いのならばなぜ公式の大会などに出場しないのです? 飲食店で働くよりもそのほうがいい稼ぎになるのでは?」

「あ? 金とかいらねーよ。いや、最低限はやっぱ必要だけどな。金に執着ねえせいで自腹じゃ店も直せねえわけだし。俺様が大会とかに出ねえのは必要以上に目立つのが嫌だからだよ。優勝とかしちまうと色々と勧誘がうるせえって聞いて出る気なくなっちまってな」

「そんな言い分初めて聞きましたよ。普通はその勧誘を目的としているのですがね」

「必要以上に過剰な勧誘なんざ鬱陶しいだけだっての。そもそも俺が飯屋やってるのは自尊心を満たすためだからな。俺様って承認欲求の塊だから」

「ええ……?」

「鍛えて強くなるのは強いねって言われたいからだし、飯作ってるのは美味いって言われたいからだ。飯作るのが承認欲求満たす手段として一番都合がよくってなあ。褒められるとすげえ気持ちいい」

「……そういうのって普通自分で言います?」

「言わねえな。だから大体の奴は満たされねえのさ。本当に欲しいものが、ただ黙って待ってるだけで手に入ると思ってる方がどうかしてると俺様は思うがね。何かを心底求めるなら、周りからだせえとかうぜえとか言われても、それでもそれを口に出し続ける勇気が不可欠だ。こいつが昔っからあんたのことを口にし続けたみてえにな」

「……なるほど、シユウ様を例えに出されると、手に入れられた身としては無駄な説得力を感じざるを得ませんね」

「なんかその言い方は俺の印象を悪くする気がするんだけど」

「アンナはそういうのを口に出さねえ性格だな。見りゃわかる。だから手に入らねえのさ。本当に欲しいもんがな。シユウがうるせえから俺もアンナについては一通り調べたけど……、改めて実際に見ると、お前をシーツァリアの次期王妃にしようとした奴はいい仕事したと思うよ、本当」

「どういうことです?」

「容姿、声、性格、気を悪くしないでもらいたいけどお前は確かに王妃の器だよ。本当なら、王妃になってもお前はなんだかんだ上手くやって幸せだったんじゃねえかとも思う。ま、こいつの言う限りそんな未来は来ないらしいけど」

「らしいですね。十七の時に私は処刑されるそうですから」

「ただまあ、その処刑も仕方ねえかなとも思うわけだ。お前は誰かに足並みを合わせることは得意だけど、足並みを合わせ続けるのは無理って感じの性格だろ。そりゃこの世で一番損する性格だぜ。他者からの反感を一番買いやすいからな」

「ふむ……、そう言われると確かにそうですね。私は第一印象を取り繕うのは得意ですが、付き合いを継続していくとなると徐々に鍍が剥がれていく性格ですから、的を射ていると言えます」

「だからこそ、お前らはお似合いだって俺様は思うのさ。くっくっく、誰かに足並み合わせてる奴ほど不自由な奴はいねえ。本当ならできてたはずのことが出来なくなってまで誰かに合わせるとか、そりゃもう足枷だぜ。自分のペースで走ってても、いつの間にか隣にいる。人間っつーのは本来そういう奴の隣にいるべきだし、そういう奴を隣に置くべきなんだよ」

「……私達がそういう関係だと?」

「俺はそう思うがね。違うか?」

「いやー、なんか照れるなー。そうかー、俺達ってお似合いに見えるのかー。あっはっはっは」

「……まあ、確かにこれなら置いていっても気にならないような気がします」

「だろ? っていうか今更だけどさ、なんで俺様に対して敬語なんだ? 俺様は別に貴族でもなんでもねえただの一般国民だぜ?」

「それは先ほどの会話で分かっていますが、私がヘキレキさんに普通の口調だと、シユウ様に対してだけ敬語という、無駄に距離の空いた状況になってしまうので、それはあまりよろしくないかなと」

「それはそれで面白いけどな」

「疎外感がえげつなさそうだから勘弁してくれ……」


 そんな会話を続けていてもまあいいのだけれど、犯人に辿り着くのは一生不可能になりそうなのでそろそろ本題について話そうと切り出そうとしたところで、目の前の角から少女が飛び出してきた。少女とは言っても私よりもいくつか年上だとは思うけれど。あと少しタイミングがずれてたら激突してたななどと考えていたら、その手には包丁が握られていた。


 ふむ、痴話喧嘩がヒートアップしたのかななどと悠長に考えているのはある程度私に余裕があるから。状況的にも心境的にも。包丁の切っ先は私を捉え、そのまま一直線に私の腹部にそれは突きたてられた。組織はどうしても私を殺したいらしい。ああもう、面倒な。

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