104、私は間に挟まれる
さて、まあなんというか色々と面倒なことになってきた。というかややこしいことになってきた。これは完全に私の自己責任なのだけれど、今回のロデウロの問題はロデウロ国内で完結する類のものだと思い込んでいた。まさか他国にいるはずの機関の人間がこんなところで呆気なく死ぬなんて想定もしていないし、当然どう対処すべきかなんて知るはずもない。
他国まで巻き込んでいる事案だというのなら、その情報は通常七か国で共有されるべきではあるのだけれど、機関すら信用していないジエイ様がこの場にいる時点でそれは少し現実的ではない。そもそも、ジエイ様に確認を取っていた場合ミラに連絡を取れたかすら怪しいのだ。こう言ったらなんだけど、私は今ジエイ様を意識的に避けている。
ろくにコミュニケーションを取れていない現状での私からジエイ様に対しての印象は、『完璧で面倒な人』だ。実際に話してみれば多分そんなことはないのだろうけど、シユウ様からの情報とこの間の懇親会で聞いた話などを合わせると、多分私と意見が合うということはない。見解の一致は有り得ても、立場の一致は成立しない。勿論これが偏見であるというのは自覚している。
ただ、機関を無条件に疑うというスタンスを取っているジエイ様とまともに意見を戦わせる気が私には無いというだけの話だ。疑ってばかりでは何も進展しないというサロメ様の言葉は、少なからずジエイ様にも向けられていると私は感じた。別にそういう立場の人間はいてもいいと思うけれど、私は一緒に行動できないってだけの話。
『ロデウロの取調室……、城の地下一階か。太陽の光が入るような構造になってるんだっけ? いやはや、流石は犯罪者の人権への配慮が七か国で一番だって言われてる国だよね。……どうせそこにジエイ君もいるんでしょ? 何でそんなことを知っているのか、なんてことを言いたげな顔でさ』
「それをあえて口にする意味がどれくらいあるのかしらね……。言うまでもないでしょうけど、ジエイ様の表情が凄いことになってるわよ。しかも君付けって……、どういう意図があっての発言なの?」
『まあまあ、私はジエイ君に聞いてみたいのさ。疑うことが利益を生むことはないと理解していながら、なぜそうまで頑なに疑うことをやめないのかってね。疑うことはいずれ訪れる被害を防ぐことは出来ても、それ以上に本来生まれていたはずの利の芽を踏み潰している。シーツァリアとの交易を断絶させること自体には、私は是も非も口にはしない。でも、その決断が時期尚早であることは理解しているんじゃないの?』
「……何が言いたいのかな?」
『別に。御大層なことは何も考えてないよ。ただの興味本位。この道楽坊やは何を考えてんのかな? ってね』
なんでこの子私の携帯からロデウロの次期国王に喧嘩売ってるの。別に喧嘩売って死刑にされるのは勝手だけれど、それに私を巻き込む必要性ないでしょ。しかも坊やとか言ってるけどミラの方が年下だし。どの立場からものを語ってるのよ。上司辺りからジエイ様に釘を刺しといてとでも言われたとか、いや、私から連絡が来るのが確定してたわけじゃないし、一体ミラの何の琴線に触れたのか。
というかジエイ様もジエイ様で言い返して欲しいのだけれど。そんなに言われっぱなしでいいの。サロメ様は声も出さずにジエイ様の背後にいるのを良いことに滅茶苦茶笑ってるし。この王妃様本当に王族らしくないなあ。それも魅力の一つではあるんだろうけど。
「……まさか、初対面とも言えない人物からそこまで露骨に喧嘩を売られるとは思わなかったよ。参考までに聞かせて欲しいな、一体僕の何がそんなに気に食わないんだい?」
『全部。まず今の発言から振り返ろうか。参考までにっていうけど、本当に参考にする気ある? 多くの人はジエイ君を欠点の無い完璧な人間って評するけど、私からは全然そう見えない。全方位満遍なく欠けてるせいで綺麗な円に見えてるってだけの話。全部欠けてると何も欠けてないように見えるよねってだけだよ』
「…………」
『参考にする参考にする、ねえ。君の口癖らしいけどさ、本当に参考にしたことあるの? 聞くだけでしょ? 結局自分の意見を曲げる気なんて最初っから無いのによくもまあそこまで嘘吐けるもんだよ。私は君みたいな人間が一番嫌いだ。聞くだけなんて赤ちゃんにだって出来るって知らないの?』
なんだか部屋の空気は別に重くなってないんだけど私のテンションがただただ下がって行く。全くこの言い争いに関係ないのになんで私が間に立たされてるの。サロメ様は笑ってるし、グースさんは我関せずみたいな顔でマレの耳塞いでるし。こんな時にいると助かる人物がシユウ様だったりするのだけど、まだ当分起きないって話だし、さてどうしたものか。
「くぉら母さん! よくもやってくれたなあんた! 寝不足のせいで寝落ちしたかと思ったけどよく考えたら絶対にあんたのせいだってことに思い至ったよ! 能力使ってまで俺を寝かせた挙句にアンナを襲撃に巻き込むとか悪魔かあんたは! ……何これどういう状況?」
「あ、シユウ様。もう起きたのですか? 昨日の夜は楽しみで眠れなかったからもうしばらくは起きないだろうとグースさんが言っていたのでもう数時間は寝ているかと思っていました」
「グースてめえ余計なことしか言わないな! で、なんで兄貴はアンナを睨んでるんだ? ことと次第によっては今ここで世界一苛烈な兄弟喧嘩が勃発することになるけど仕方ないよな?」
「仕方なくはないでしょう。地下に生き埋めにはなりたくないのでするならば外でやってください」
「喧嘩自体を止める気はないのがアンナちゃんの凄いところだとあたしは思うんだよ」
「止めて止まるなら止めますが、無意味だということを私は知ってしまっているので止めません」
『なんだかよく分からない状況になって来たし、本題には答えたし言いたいことも言ったから私はゲームに戻るね。アンナ、くれぐれも私の名前漏らさないようにねー』
「あっ。……切れた」
機嫌を悪くさせるだけ悪くさせておいて一方的に切りやがりましたわよあの女。ついつい私の口調も荒れてしまうけれど、この状況だとシユウ様が私の清涼剤だわ。ああ、助かる。後は全部任せましょう。




