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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第三章 ロデウロ編
103/156

103、私は遺体を撮る

 打ち付けたというのは身体を前に倒して頭を机に自ら当てに行ったという意味ではなく、全身から力が抜けた、脱力した身体が前に倒れた結果として頭が机にぶつかったのだ。取調室内の人間が慌てた様子で駆け寄り、脈などを測っている。緩やかに振られた首は、カレッタさんが既にこと切れていることを意味していた。口を開いてから死ぬまでが早いな。よっぽど言って欲しくなかった情報なのか。


 まあ、人が一人死んだくらいで大騒ぎするような真っ当な感性を持っている人間もここにはいないので経緯の詳細は省略するけど、全員で取調室に移動した。取り調べをしてくれていた方々は退出してもらったけれど、私としてはそっちの方が都合がいい。カレッタさんが自身の職業を口にする前に亡くなってしまったということは、ミラに確認しなければならないことが増えてしまったということだ。


「サロメ様、今のこの状況において最も頼りになる人物に電話を掛けたいのですが、控えた方がいいでしょうか?」

「いや、アンナちゃんが頼りになるって言うならそれは多分信頼できるんだろうけど、誰かだけは教えてくれるかい?」

「うちの国の学園に通っている同級生です。現状、カレッタさんに関しての詳細を知ろうと思えば、彼女に連絡を取るほかありません」


 取るほかないというのは少々盛った言い方だけれど、別に間違ってはいない。私は機関の人間に他の知り合いなどいないし、結局こういう時に頼れるのはミラだけなのだ。私の交友関係が狭いのは認めるけれど、そう何人も機関の知り合いがいる中等部一年生もそれはそれで不気味だと思う。裏社会と通じてるんじゃないかと疑われてもおかしくない程度には。


 そしてなによりそれ以上に、機関内部まで組織の手が及んでいるという現状がはっきりしている今となっては、確実に信頼できる人間というのはとても貴重だ。まあ、ミラが裏切っていないと断言できるだけの証拠もないのだけれど、見ず知らずの機関の一員より百倍は信頼できる。ミラもそういう現状が分かっているから、私に色々と情報を回してくるのだろうし。


 ミラから色々な話を聞き過ぎて、今の私は野放しにしておくと結構危ない存在になっていたりする。自分で言うのも悲しいけれど。学校内の噂話と同じようなテンションで他国の裏金問題の話とかしてくるからね、あの子。しかも妙に語り口が上手いというか、聞いていて面白いと思っちゃうからもう話さないで、みたいなことを言うタイミングも無くて。


 もう少しミラとの付き合いを考えた方がいいんじゃないかと思えて来たけど、とりあえず今は電話だ。返信はしなかったけど、そのくらいでへそを曲げるほどあの子は狭量ではない。はず。例え拗ねていたとしても、今はそんな場合ではないのは向こうだって重々承知しているはずで、ねちねち言ってきたりとかそんなわけ。


『もっしー、アンナ? どうかしたのかにゃー? カレッタについての報告なら全然後でいいっていうか、むしろ後にして欲しいっていうかー? ふん、えい、あー、死んだ。で、何の用?』


 どうやらゲームをやっていたらしい。気にしていないのは助かる話だったけど、そこまでさばさばしてるのもどうかと思う。ふむ、さて、何処から話すべきか。そもそも私が疑っていることを確認しようと思ったらテレビ通話にしなくてはいけないわけで、そうなると自動的にミラの顔もこっちに見えることになる。いや、ならないのかな。したことないから分からない。


「楽しいゲームに興じている最中に悪いわね。非常に言い難いのだけれど、たった今ロデウロが確保したカレッタさんが亡くなったわ。取り調べの最中に亡くなったことから考えるに、恐らくは何かタブーとして設定されている話題に触れると発動する能力」

『遠隔系統の殺害型? そりゃまた随分とレアな能力を掛けられたもんだね、カレッタも。実際に会ったことがあるわけじゃないからどういう人かは知らないけど、そりゃそいつが迂闊だね。もうちょっとやりようあっただろうに』

「で、貴女に連絡したのは顔を見て欲しいから。私達が今現在カレッタさんとして扱っているこの男性が、本当に本人なのかを貴女に確認してほしいのよ。顔写真くらい回って来てるでしょ?」

『そりゃまあね。というか、そんな現場ってことは周りに誰かいるってことだよね? 信用できる人たちなのかな?』

「信用できるかと言えば、なんとも言えない、というのが正直なところ。でも、今の状況じゃ誰だってそうよ。親だって信用できるか分からない、すれ違った人が不意に襲い掛かってくるかもしれない状況で、下手に警戒し続けて神経すり減らす方が損よ」

『そりゃごもっともだね。うん、別に構わないよ。私としても情報はなるべく多めに手に入れておきたいところだし、助かる話ですらあるからね。それで、死体はそこにあるの?』

「ええ。サロメ様、構いませんか?」

「ああ、アンナちゃんの言う通り、疑ってばっかりじゃ何も進展しないのも事実だしね」


 私は画面のいくつかのボタンをおっかなびっくり操作して、通話をお互いの顔が見えるようにする。ミラはいつも通りの覇気のない顔を画面に向けていた。サロメ様という名前を出した段階で王族がいるという察しは付いているはずなのによくそこまで気を抜いた顔を晒せるわね。羨ましいわ、そのだらしなさ。まあ、私の格好も人のことを言えるほどきちんとしたものではないけれど。


 机に突っ伏した体勢から床に仰向けの状態で寝かせてあるカレッタさんの遺体にカメラを向ける。死体の写真を撮っているみたいで気分は良くないけれど、カレッタさんとしても身元不詳の人物として扱われるのは困るだろうし勘弁してほしい。私だって携帯を死体に向けるの嫌よ。


『……なるほどね。うーん……、これ言っていいのかな? 私の立場的にあんまり正直に言うと機関のルールに抵触しそうで怖いんだよなー。でもそのうち分かることだろうし、むしろ今のうちに私が情報提供すれば表彰くらいされるのでは?』

「……何をぶつぶつ言ってるのよ。電話かけたのは確かにこっちだけど、割と急を要するんだけど」

『……分かった、簡潔に結論から伝える。確かにその男はカレッタじゃない。ただ機関の人間ではある。本来そこにいるはずのない、プレントに潜入しているはずの機関のメンバー、リテルって男。やばいねこれ。もしかして七か国の機関メンバー満遍なく襲撃されてたりするのかな?』

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