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異世界転生、おっさんニートの成功物語  作者: 佐藤コウキ
第1章、異世界転送
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第7話、商売繁盛、お客様は神様ほとけさまー


 トルティアが昼食を用意してくれたので、一緒に食べることにした。

 味の薄いシチューのような物だった。肉が入っているのだが、もしかしたらモンスターの肉じゃないだろうなあ。


 百均で買った生活雑貨をトルティアが珍しそうに見ているので、食事のお礼としていくつかプレゼントすると彼女は大喜びしてくれた。プラスチック製のブラシとかビニール袋とかは異世界には存在しないのだ。

「今日はどのような用事で来たんですか?」

 トルティアが聞いてきた。いかん、いかん。彼女と会話するときは、つい胸元に目が行ってしまう。

「日本から仕入れた商品を売ろうかと思って」

 俺はチラッとトートバッグを見る。まだ商品はたくさん残っていた。

「そうですか。サトウさんは旅商人だったんですね」

 うーん、そういえばそうかなあ。

「じゃあ、私と一緒に町に行きませんか」

 トルティアが笑顔で言った。彼女が少し動くたびに大きな胸が揺れる。オジサンには目の毒だぜ。

「町?」

「ここから少し離れた場所に、大きな町があるんですよ。私が作った薬をいつもそこで売っているんですが、サトウさんも売ってみたらどうですか」

「それはありがたい。ぜひ同行させてください」

 よし、販売マーケットを知ることができた。そこで日本の商品が売れるかどうかだな……。


 昼過ぎ、トルティアと一緒に馬車でシンヤードの町に向かった。

 トルティアには特別な能力があって、人の病気を知ることができた。そして、その病気に合った薬を調合できる知識があったのだ。

「病気と言っても、軽い症状のものだけですけどね」

 彼女の話によると、一族には病気を判定できる能力がある子供が生まれる。それがトルティアだった。病気の種類を知り、それを治療する薬草を採取して特効薬を作ることができるのだ。

 トルティアの家は、彼女の作った薬によって生活費を得ていた。


 シンヤードは城壁に囲まれた割と大きな町だった。

 城壁があるということは異世界にも戦争があるのかな。

 馬車は城門から入って町の通りを進む。

 村と違ってシンヤードは人通りが多い。馬車はレンガ作りの大きな建物の前に止まった。

「ちょっと待ってて下さいね」

 そう言ってトルティアは、大きな手提げカゴを持って中に入っていった。

 その建物は各種の薬剤販売の取り次ぎをしてくれる薬局のような所で、彼女が作った薬はそこに納入していた。

 やがてトルティアが出てきた。財布と思われる革袋を持って中を探っている。

「薬はいくらで売れるんですか」

 俺が聞くと革袋を開いて見せてくれた。中には白く光る硬貨が数十枚入っている。銀貨のようだな。

「今回は30万リラでした」

 30万リラ? リラって何円になるのだろう。たしかトルティアは月に1回、町に来ると言っていたから一月の収入が30万リラということか。1万リラは1万円くらいになるのかな。


 それから俺達は大通りに屋台を作ることにした。

 トルティアが納めた以外にも残った薬があるので、在庫を路上販売するのだ。

 彼女は手慣れた手つきでテントを張る。俺は作業を手伝って屋台を完成させた。花火大会のときに並んでいる夜店のような感じ。

「いらっしゃいませー。ヤオジの薬ですよー」

 声優のように可愛い声で呼び込みをする。

 しばらくすると、なじみ客がやってきて薬を買っていった。

「毎度ありがとうございます」

 彼女は銅色の硬貨受け取って頭を下げた。

 俺もトートバッグの商品をテーブルに並べる。果たして売れるのだろうか。

「いらっしゃいませー。異世界から持ってきた珍しい物ですよー。この世界には無い貴重な物だよー」

 店の呼び込みをするなんて生まれて初めて。

 すると一人の紳士が足を止めて、テーブルの上の雑貨を手に取った。シルクハットをかぶったゲームに出てくる貴族のようだ。彼はプラスチック製のザルで3個セットの物をしげしげと見ている。

「これは、いかほどかな?」

 値段を聞かれて俺は困った。いくらにすれば良いのだろう。トルティアの方を見たが、彼女は首をかしげるだけ。

「これくらいでどうですか」

 俺は人差し指を立てる。

「うむ、ちょっと高いな……」

 少し迷ってから紳士は銀色の硬貨を1枚、俺に手渡した。

「まいどー」

 硬貨を握って頭を下げる。紳士はザルを持って去って行った。

「すごいじゃないですか! 1万リラで売れるなんて」

 トルティアが目を見開いて驚いている。この硬貨が1万リラなのか。

 物珍しさで人がドンドン集まってきた。日本ではありふれているスポンジや石けんが瞬く間に売れていく。しばらくして商品が売り切れたときには、俺の手元に43枚の銀貨が残った。

「43万円か……。砂金よりも利益率は低いなあ」


 腕組みをして考え込んでいると人影が近寄ってきた。

「君は、あのときの少年だな」

 暗そうな目で俺をにらんでいるのは、あの根暗の旅商人だった。前と同じように茶色のコートでフードをかぶっている。

「君から買った魔道具は使えなくなったぞ」

 そういって赤いスマートフォンを俺の前に突き出す。

 何だよ、説明も良く聞かずに持って行ったくせに。俺は気持ちを表情に出さないように気を遣って、バッグの中から説明書とソーラー充電器を取りだした。

「アフターサービスです。これをどうぞ」

 説明書を見せて、使い方を根暗の旅商人に教える。書いてある日本語は分からなかったが挿絵などを使って何とか理解させた。

 背の高い商人は、無言でうなずきながら使って試している。

「よし、これはもらっておこう」

 以前のように無造作な仕草で充電器をカバンに入れ、そこからガラスビンを2本取り出した。例の回復薬か。

「これで良いな」

 そう言って俺にポーションを押しつけると、無言で去って行ってしまった。

「まいどー」

 全く愛想がこもっていない声で礼を言って、俺は手に持ったポーションを見る。それは手にすっぽりと入るくらいのビンで、中には赤い液体が入っている。その液体が重病人を回復させ、健康な人間なら10歳以上も若返らせることができるのだ。

 日本で売れば、どれくらいになるのだろう。

「サトウさん、すごいですね。今日はかなりの売り上げで、しかもポーションを2本も手に入れるなんて」

 トルティアが尊敬のまなざしで俺を見ている。女に見つめられるのは俺にとって、まれな事態だ。

「1本あげるよ」

 彼女にガラスビンを差し出すと、少女は目を丸くした後、俺の腕に抱きついてきた。

「ありがとう! サトウさん」

 右腕にトルティアの柔らかい胸が押しつけられていた。女の体って温かくてフニョフニョとしているんだなあ。今まで女と付き合ってこなかったが、俺の人生はもったいないことをしていたのか。

 もっと積極的に、別の人生を送る必要があったのかと俺は後悔していた。


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