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異世界転生、おっさんニートの成功物語  作者: 佐藤コウキ
第4章、争い
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第68話、未来


 季節は秋に入ったが、残暑は厳しい。

 俺達は捕虫網を振りまわしてスライムを追いかけていた。


「先輩、そっちに行きましたよ!」

 山口がこちらを指さす。草原の草むらを丸くて半透明のスライムが跳ね回っていた。

 俺は捕まえようとして網を振り下ろしたが、すばしっこい最弱モンスターは、ちょっとの差で逃げていく。

「何をやってんデスか、先輩」

「うるせえよ」

 必死に追いかけて、やっと網の中に捕らえた。

 運動不足の小太りオヤジにとって、このような重労働はきついのだが、藤堂さんに頼まれると断れない。

 藤堂探偵事務所の所員は汗まみれになり、朝からスライムの捕獲をやっていた。昼前の日差しは強く、草原には微風しか吹かない。

 トヨタ・ハイラックスの荷台には大きな檻が乗っている。それは金属の枠に金網を張った物。中では野球ボール大のスライムがウジャウジャとうごめいていた。


 戦争が終わったので、藤堂探偵事務所は正業であるモンスター退治に戻ることになった。

 隊長にとって日本での浮気調査よりも、異世界で仕事をしていた方が楽しいようで、ずっとシンヤードに居着いている。

 大陸の中央では凶悪なモンスターとの激戦が続いているのだが、この地方ではスライムやコボルトなどの弱いモンスターしかいない。だから、事務所に依頼されるものは、そのほとんどがスライム退治だった。

 それで今日は、所員が総出でスライムの捕獲をやっているのだ。

 トヨタ・ハイラックスは修理して機関銃を取り外し、スライムを入れる箱を乗せた。ダイハツ・タントは人と荷物を運ぶための車。

 今日は藤堂隊長と健司さん、それに俺と長沢、山口、トルティアが出張作業している。俺達がスライム捕獲でトルティアは食事担当。


「手榴弾で吹き飛ばしてやりましょうよ」

 健司さんが面倒くさそうに言ったが、スライムは農家に売れば、一匹につき百リラの値段がつく。商売としては捕獲した方が利益になるのだ。それに日本に持って行って繁殖させれば、マッドドクターが一万円で引き取ってくれる。麻美さんからも生かしたまま捕獲してこいと厳命が下されていた。


「先輩。何か儲け話はないんデスか」

 山口が首に掛けたタオルで汗を拭きながら言う。こいつも俺と同じ小太りオヤジなので、肉体労働は苦手。楽して儲かる商売をしたいのだろう。

 儲け話か……。スゲー利益が出るルートを見つけたが、彼に教えるべきかどうか。トラブルメーカーの山口だから、また何か問題を起こしそうな気がするんだよな。

「そんなものは無い。黙ってこの水まんじゅうを捕まえろよ」

 俺は網の中でもがいているスライムを革手袋でつかんで箱の中に投げ入れた。

 山口は舌打ちをして、捕虫網を持ち、草むらに歩いて行く。

「喉が渇いてない?」

 トルティアがミネラル麦茶のペットボトルを持ってきてくれた。

 まぶしい日差しの下に、まぶしい笑顔のトルティア。

「ありがと」

 俺はニヤつきながら水滴が付いたボルトを受け取って、ゴクゴクと飲む。

 女の子に世話をしてもらうのは良いことだなあ。一度、病気にでもなって看病してもらおうかな。

 あまりトルティアと話していると、サボりと思われるので仕事に戻った。


 ふて腐れたように網を振り回している山口の方に行き、スライムを探す。

 彼は刑期の短縮をギルドに求めていたが、断られてしまったよう。

 リザードマンとの戦いでは活躍したが、戦争の原因を作ったという事実は消せない。ギルドとしては、まだ根に持っていて許せないのだろう。


 昼飯はまだかな。

 トルティアが作ってくれる昼食を思い浮かべた。もう少し頑張れば、彼女の手料理を食べることができる。

 目の前にスライムが飛び出してきたので、網を振り下ろす。

 しかし、それはボールのように飛び跳ねて山口の頭に乗った。

「何をするんデスか、先輩!」

 慌てて振り払う山口。

「ああ、スマン、スマン。わざとじゃないぜ」

 俺は軽く笑って、またスライムを探す。

 すると何かが飛んできて俺の顔にグチャッとへばりついた。

「ギャー」

 慌てて剥がすと、それはスライムだった。

「ああ、すいませんね、先輩。わざとじゃないんデスよ」

 そう言った山口は憎たらしい笑い顔。

 この野郎。わざとじゃないって言っているだろうが。

 スライムはモンスターの中では最弱だが吸血生物だ。致死性はないが噛まれると毒のために痺れて動けなくなる。そんな物を投げつけやがって……。

 俺は網で近くのスライムを穫り、草むらを探して腰をかがめている山口に放り投げた。

「うわー!」

 山口は叫んで首の後ろに張り付いたスライムを払いのける。

「あれ、どうしたんだ。山口」

 口をゆがめて笑ってやった。悔しそうな後輩。

「もう、怒りましたデス」

 やつはトラックの荷台に上り、箱からスライムを取りだして俺に投げつけてきた。

「何をするんだ! やめろ、やまぐちぃ」

 それでも彼は投げつけてくる。

「この野郎!」

 俺も地面に落ちているスライムを拾って投げまくった。


「何をしているんだ。お前達!」

 隊長の怒号が草原に響く。

 俺は投げようとした手を止めた。それは隊長の制止によるものではなく、体が痺れて視界が暗くなったから。

 狭い視界の向こうでは、山口が白目をむいてトラックから落ちていた。

 ざまあ見やがれ。

 目の前が真っ暗になり、気を失う。

 二人のオヤジはスライムの毒にやられてしまったのだ。


  *


 気がつくと何か柔らかい物を枕にして横たわっていた。

 目を開けると、愛しいトルティアの笑顔。

「気がついた? ホント、しょうがないオジサンね」

 苦笑いしている彼女。

 俺はトルティアの膝枕で寝ていたのだ。

 ハイラックスの後部座席。少しボンヤリしているが、記憶は正常だ。

「ポーションを使ったのよ。それに私のヒーリング」

 ああ、そうか。それで体調が良いのか。

 スライムの毒にやられたら三日は寝込んでしまう。回復薬とトルティアの回復魔法で容態が軽くて済んだらしい。

「山口は?」

 俺は車の外を見る。タントの横に張られた日差しよけのシート。その下に彼は寝ていた。

 長沢の膝枕で横たわっている。まだ目が覚めていないようだ。

「ホモデブの膝枕かよ。ザマー見ろ」

 調子が悪くて、つぶやくような声しか出ない。

「おめーらは子供かよ」

 ペットボトルを片手に、健司さんが笑っている。

 地面に散らばっていたスライムは藤堂さん達が片付けたようだ。

「もう変なことはしないでね」

 俺は小さくうなずく。

 ああ、しないさ。彼女を悲しませる……というよりは、あきれさせるようなことはやらない。もう俺は大人だからな。

「食欲はある? 食べられるんだったら、少しでもお腹に入れた方がいいわよ」

 トルティアが俺の髪を優しく整えた。彼女の指の感触が心地よい。

 ああ、平和だな。このように緩やかな生活がずっと続けば良いのに。


 今の環境は、勇気を持って問題にぶつかってきた結果だ。本当の幸せは前向きに生きないと得ることができない。

 これからも嫌なことや怖いことがやってくるのだろう。でも、まだ俺は生きている。体も満足に動くし頭も回転する。障害が発生しても何とかなるさ。

 俺の目前には明るい未来が広がっているような気がしてきた。


 昼下がりの草原。少し強く、少し涼しい風が草原に大きな波を作った。



  ** 終わり **


 やっと完結しました。

 10ヶ月かかって、ようやく終了。

 仕事をしながらの執筆だと、四日に一回の更新になってしまう。毎日、小説を投稿している人はどうやって書いているのだろう。


 この小説は、普通のオジサンが楽をしてホンワカとお金持ちになるストーリーのつもりでした。

 しかし、私の真面目な性格のためか、けっこう、シリアスな物になってしまいました。読者はホンワカと苦労しないで成功する方が好きなのかもしれない。


 ちょっと、休んでからホラーでも書くつもりです。

 ホラーを書くと、頭がホラー脳になってしまい、日常生活でも暗いところが怖くなってしまう。

 でも、まだ夏なので、ホラーを書こうかなと思います。


 ああ、マネージメントの方は途中で放っていたのか。そっちも進めないと。


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