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異世界転生、おっさんニートの成功物語  作者: 佐藤コウキ
第4章、争い
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第61話、出撃


 進撃してきたリザードマンの大軍は川を渡り、シンヤードの1キロ先に再集結した。

 昼過ぎに敵軍の中から炊煙が上がる。食事をして落ち着いてから次の行動に移るのだろう。


 迎撃のために慌ただしくなったシンヤードの町。

 城壁の上にはドラグノフ狙撃銃を持った戦闘員が待機している。さらに迫撃砲や自動小銃を携帯した軍人が配置についていた。武器の使い方は藤堂さん達がレクチャーしている。

 地球から運び込んだ武器や弾薬には限りがあるので、弓矢などのオーソドックスな武器も大量に備えられている。

 城塞都市の守備責任者はベイカー将軍だ。


 夕方、リザードマン軍は両翼を広げてシンヤードに迫ってきた。町を包囲するつもりなのか。


「さあ、行くか」

 簡単な夕食の後、リュックを背負った藤堂隊長が俺達に言った。

 町を完全に包囲されたら抜け出すことが困難になる。その前に出発して敵の後方に回るのだ。

 俺は食料などが入ったリュックや弾を装填したマガジンなどが入った段ボールを持ってトラックに乗り込んだ。

 ドライバーは藤堂隊長。車載機関銃は健司さん、長沢はショットガンなどで車に近寄ってくる敵を攻撃する役目だ。そして、俺は後部座席で弾丸を配給する係。俺も銃で戦うと言ったのだが、素人が銃を持つと自分の足や味方を撃つからダメだと却下されてしまった。


 ギルドの支部長やベイカー将軍が見送りに来ていた。

「藤堂隊長、健闘を祈る」

 ベイカー将軍が敬礼をした。

「了解しました」

 藤堂隊長も敬礼で答える。危険な任務の前でも、ふてぶてしい笑顔は健在だ。

「先輩、頑張って下さい。ドローンで見守っていますデス」

 山口とカリーナも来ていた。

「ああ、頑張るよ」

 頑張るというのも便利な言葉だ。

 辺りを見回すが、トルティアの姿が見えない。視線をあちこちに飛ばすと、ようやく遠くの木のそばに立っている彼女の姿を発見した。

 トルティアは寂しげに小さく手を振った。俺も作り笑いで手を振り、別れの挨拶をした。


 トラックは町を出立する。

 夕日が消え去ろうとしている中、フォグランプを点けて険しい道を走った。

 大きく遠回りして、リザードマンの後方に待機した。そこは小高い丘の上で、双眼鏡を使って敵の状況が把握できる場所。

 リザードマンの大軍は完全に町を包囲してしまったよう。500メートルほど離れて戦闘準備している。

「佐藤さんは寝ていいよ」

 荷台に立っている藤堂隊長が言った。藤堂さん達は交代で偵察するようだ。

 言葉に甘えて後部座席で横になる。

「夜襲したらどうですか、隊長」

 健司さんが隊長に進言した。

「俺達は専守防衛だ。敵が攻撃してこない限り攻撃することはない」

 隊長が断言する。

 専守防衛も大変だ。こちらが被害を受けてからでなければ攻撃ができないのだから。

「夜は同士討ちを恐れて攻撃しないだろう。大軍なのだから敵は焦る必要がない。たぶん、日の出と同時に進撃するのじゃないかな」

 隊長が双眼鏡をのぞきながら言う。

 俺は精神的に疲れていたのだろう、いつの間にか寝てしまった。


  *


「おい、起きろ! 佐藤さん」

 目を覚ますと健司さんが俺の体を揺すっていた。

「早く飯を食え! 食ったら突撃だぞ」

 ボンヤリした頭で起き上がる。皆は携帯食料を食べていた。朝日が昇り、あたりは明るくなっている。

「どうしたんですか」

 聞く必要もない。敵が攻撃を始めたに決まっている。

「無線で連絡があった。リザードマンが攻撃を開始したらしい」

 藤堂隊長が携帯食料を食べながら片手で双眼鏡をのぞいていた。町の方からは迫撃砲や狙撃銃の音が遠く響いてきていた。

 いよいよか……。銀色のパッケージを破って、俺もカロリーメイトのような携帯食料を食べた。水筒の水で流し込む。

 さらに革のバッグからポーションを取り出して飲み干した。

 しばらく体が熱かったが、やがて熱は引いて体に力がみなぎってきた。18歳の体に戻ったのだ。ウェストが細くなったためにズボンが落ちるので、ベルトを引き締めた。

 根暗な商人からもらったポーションは、2本をトルティアに渡し、残りは車に積んである。誰かがケガをしたときに使うつもり。


「よし、戦闘車両、発進!」

 隊長が号令を掛けてアクセルを踏む。

 トラックはリザードマンの本営に向かって突進していく。

 俺は荷台に立ち双眼鏡でリザードマンを見た。

「あれ、川の水が……」

 昨夜まで流れていた川の水が干上がっている。

「あれは上流をせき止めたのさ、ダイナマイトを使ってな」

 機関銃の取っ手を握りしめている健司さんが解説してくれた。

 崖の岩を落として川の流れを変えたという。

 リザードマンは湿地帯に住んでいる。普段から大量の水がないと生活できない。それで川の水をせき止めることによって敵の補給線に負担を掛け、心理的に動揺させるという作戦行動。

 さらに俺達は敵が進撃してきた方向から攻撃する。すると敵は退路を遮断され補給ができなくなるという疑心暗鬼に陥る。心理的な効果も備えた藤堂隊長の作戦だった。


 しばらく走行すると、川の手前に敵の後方部隊が見えてきた。食料や水などを保管しておく補給基地だ。

「攻撃開始!」

 藤堂隊長の命令が車の中に響く。

 長沢がグレネードランチャーで散弾を発射する。すると補給基地の中央で爆発が起きた。双眼鏡で見ると、数匹のリザードマンが飛び散る様子が見えた。

 次々と散弾を発射する長沢。補給基地には戦闘要員が少なかったのだろう。守備しているリザードマンは逃げ散ってしまう。


 リザードマンは知的生物だ。話せば分かると思うのだが、彼らの余計なプライドが邪魔して和平の道を進むことができない。だから、戦うことしか道はなかったのだ。


 トラックを運転している藤堂隊長は、左手でハンドルを握り、右手でショットガンをぶちかます。補給物資である、水の入った樽を全て破壊してしまった。

 さらに長沢と健司さんが手榴弾で弓矢などの武器を吹き飛ばす。敵の補給基地は完全に壊滅状態。

「よし、このまま敵の本営を攻撃するぞ」

 藤堂隊長は勇ましく命令する。そして、アクセルを踏み込み、加速して橋を走破した。


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