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異世界転生、おっさんニートの成功物語  作者: 佐藤コウキ
第4章、争い
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第56話、作戦会議


 リザードマンの領地を抜け、俺は無線で結果を報告した。

 交渉は上手くいなかったが、生きて帰ることが出来る。この場は、それで良しとするか。


 2時間ほど車を走らせて、シンヤードの町に到着。

 町では城壁を補修したり外側に空堀を掘ったりして、多くの人間が汗を流して慌ただしく働いていた。

 もう、皆の気分は戦争だ。


 車で城門の中に入ると、町の住民が冷たい目で睨む。彼らは劣悪な状況を作った日本人を憎んでいて、俺達をリンチしたいと思っているのだろうが、それをしないのはリザードマンの脅威が近づいているので、精神的な余裕がないからだろう。

 それに俺達は一緒に戦うと表明している。少なくとも戦争が終わるまでは無事が保証されているはずだ。

 だが、その後、異世界で商売するのは無理かもしれない。争いの元凶を作ってしまった日本人に対して、市民は友好的な気分を持ってはいられないよな。


「お帰りなさい。コウイチ」

 事務所に帰るとトルティアが俺の手を握って喜んでくれた。

 俺のことを本気で心配してくれるのはトルティアと母親だけ。ああ、彼女がいるということは、すっげー良いことなのかと思わせてくれるぜ。

「ただいま、トルティア」

 俺も手を握り返す。

「ほらほら、イチャついている場合じゃないのよ」

 二人の世界に入り込みそうになっているときに妹のトルチェが水を差す。

 俺達は気まずそうに手を放した。


  *


 戦争の準備は続けられている。

 俺は日本から武器や燃料、通信機、医薬品などを転送した。山口はロシアから自動小銃や弾薬、手榴弾、迫撃砲など日本では手に入りにくい武器の転送を担当している。

 シンヤードの町の中央に市民会館があり、その大きな部屋は医療室としてヒーリング能力がある者が待機し、さまざまな薬品や回復薬も集められた。

 異世界で治療不可能な重傷者は山口がまとめて日本に転送する。日本ではマッドドクターが自分の研究所を臨時の病院として準備していた。ドクターは腐っていても医者なので、解剖だけでなく医療手術も出来るのだ。

 カリーナは浮遊魔法によって山口の重量物転送に手伝っている。彼女一人では効率が悪いので、もう一人の浮遊魔法使いを呼んで、なるべく連続して重い物を転送できるように工夫した。


 俺達が交渉に行った二日後、藤堂隊長がギルドに呼ばれた。それは作戦会議に参加するため。

 長沢と俺も付いていく。

 出かける前に振り返ると、健司さんがトルティアにライフルの使い方を教えていた。

 それはドラグノフという狙撃銃で、射程距離は800メートルもあるらしい。

 トルティアは治療担当だが、戦闘員が少ないので女も戦わざるを得ない状況だ。彼女に戦闘は似合わないが、今はそんなことを言っている場合じゃないのだろう。生き残るためには、なりふり構っていられない


 町の中央に立っているギルド支部はレンガ作りの三階建てだ。

 係員に案内されて階段を上ると、三階に広い会議室があり、そこには支部長と他に数人が大きなテーブルに着いていた。

「藤堂です。ただいま到着いたしました」

 ビシッと敬礼する。

 テーブルの人間は無表情で無言。支部長だけが軽く手を上げて「よろしく」と言った。


 藤堂隊長はテーブルの隅に座った。

 俺達は壁際の机に着く。テーブルの中央には支部長。80歳くらいだろうか。歳の割には元気なんだよな。

 他には軍服を着た中年の男。背が高くて引き締まった体。見るからに軍人といった感じ。顔の傷が戦いに身を置いていたことを示していた。

「彼はベイカー将軍だ。中央から応援に来てくれた」

 老人が紹介する。将軍は小さく会釈した。

 支部長が咳払いして目の前に置いてある紙を手に取った。

「斥候の報告ではリザードマンが侵攻を開始したそうだ」

 会議の場に緊張の糸が張り詰める。

「敵の数は、およそ10万」

 テーブルにどよめきが起こり、その後には、ため息のオンパレード。

「私が連れてきた千人を入れても、シンヤードの戦闘員は1万人しかいない」

 ベイカー将軍が腕組みをした。

「本当に10万匹でしょうかね」

 皆が隊長に注目。

「話半分というから……たぶん、5万くらいだと思いますよ」

 淡々と言う藤堂さん。

「根拠は何だね?」

 支部長が眉をひそめる。

「リザードマン部族の総数は百万匹と聞いております。その1割を戦闘員とするのは無理があるでしょう。それに補給隊や偵察隊、医療班なども組織しなければならない。多くても直接戦闘するのは5万が限度と考えます」

 隊長の言葉は冷静だ。さすが、戦うために生まれてきたような藤堂さん。

「まあ、そうだとしても、劣勢だということには変わりないな」

 将軍が藤堂隊長をみてうなずく。軍人同士、通じるものがあるようだ。


「それで、ギルドとしても作戦を考えたんだが……」

 そう言って別の紙を手に取る支部長。

「敵は真っ直ぐこちらに向かってくるだろう。そこで橋の手前に陣地を作り、敵を迎撃する」

 シンヤードの町からリザードマンの領地に行くには、ほとんど直線の道を通る。シンヤードは山に囲まれた盆地のようになっており、近くを浅い川が流れている。橋を渡ってから山に挟まれた小道を抜けて、そこから少し曲がり、領地に向かって真っ直ぐに進む。敵はその逆を進軍するだろう。

「リザードマンは多量の水を必要とする。きっと川の向こう側に布陣するはずだ。だから、橋を渡ってくるリザードマンを陣地から攻撃するのだ」

 老人は一息ついてから、続けた。

「その陣地は藤堂小隊に任せたいと思う……。君たちの強力な兵器で戦って欲しい」

 ああ、やはり日本人は憎まれているんだな。まずは俺達から死ねということか。

「その作戦は上手くいかないでしょう」

 藤堂隊長があっさりと反対する。あくまでも冷静な口調は変わらない。支部長が顔をゆがめた。

「川の中央を抑えたとしても、敵が素直に陣地の向こう側に布陣するとは考えられない。少し上流か下流に陣取れば済むことです。その上で渡河し、陣地を無視してシンヤードを攻撃するか、それとも包囲して補給路を絶った陣地をじっくりと殲滅すれば良い。塹壕でシンヤードと連絡用の通路を作ったとしても撤退は難しいでしょう」

 ベイカー将軍が「うむ」と言って藤堂隊長の意見を支持する。

 支部長が口を結んで黙り込んだ。

「ギルド本部から、もっと兵力を送ってもらうわけにはいきませんか」

 藤堂隊長の意見はもっともだ。しかし、ベイカー将軍は「無理だな」とつぶやいた。

「それはすでに要求した。しかし、やってきたのはベイカー将軍の千名だけだ」

 そう言って支部長が首を横に振った。

「千名を集めるだけでも大変だったんだよ」

 ベイカー将軍が説明する。

「中央ではモンスターとの大規模な戦いが続いていてね。余分な兵を割く余裕はない」

 そう言って苦笑する将軍。今は危機的な状況ってやつだな。



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