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異世界転生、おっさんニートの成功物語  作者: 佐藤コウキ
第4章、争い
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第53話、通告


 気がつくと朝になっていた。

 昨夜から点けっぱなしのテレビは朝のニュースを放送している。

 ソファで寝たから変な姿勢になっていたのだろう。上半身を起こすと腰が痛い。

「俺は何をしていたんだろう」

 目に入るものに現実感がない。異世界での騒動が夢だったような気がする。

 ソファに座って大きく背伸びをする。すると、なぜか力が抜けて横たわった。まるでスライムになったよう。気分がすぐれず、体中がグタグタだ。

 しばらく現実逃避して時間が過ぎるに任せていると、カーテンを閉め忘れた窓から朝日が入ってきた。

「まぶしいな……」

 しかし、窓に行ってカーテンを閉めるだけの気力が無い。世の中から精彩が消えている。

 窓の外から猫の鳴き声が聞こえてきた。

 ああ、猫になりたいな。何も考えずに一日中、ずっと寝ていたいものだ……。


 モノクロの世界にドアのノックが響く。

「佐藤さん! 起きているの。これから忙しくなるわよ」

 麻美さんか……今日も元気だなあ。

「佐藤さん。入るわよ」

 ドアを開けて入ってきた彼女は俺を見て片目を細める。麻美さんは白いブラウスにチェックのブレザー。まるでサラ金の受付嬢のようだ。そんなフォーマルな服を持っていたのか。

「こら、オヤジ。髭くらい剃りなさいよ。まったく、そんな落ち込んだ顔をして……」

 お早うの代わりに俺は大きくため息を吐く。

「昨夜はどうしたのよ。山口さんとは会えたの? 私に何も言わないで……」

 麻美さんは腰に両手を当てて俺を責めている。

 ハイハイと適当に返した。

 ああ、疲れる。体が重くなり、ソファに沈み込んでしまいそうなんだよ。

 無言になった麻美さんは、いきなり俺の襟首をつかんで上体を引き上げる。

「しっかりしなさいよ!」

 彼女の目に写っているのは死んだような男の顔だろう。

「ああ、もう!」

 俺はソファに投げ捨てられた。

「あんたが立役者なんだから、腐っていてどうすんのよ!」

 俺のケツをバシンバシンと叩きだす。俺の方が年上なんだけど……彼女は強い性格をしている。

「目を覚ましなさい! そんなことじゃ、トルティアちゃんから振られてしまうわよ」

 心の照明が点灯した。そうだ、トルティアが待っているんだ。

「分かりました。そんなに叩かないでくださいよ」

 自分の声が弱々しい。

 そう言えば、ガンダムで同じようなシーンがあったかな。


 2階で麻美さんが用意してくれた朝食を食べた。

「武器をオーダーしておいたからロシアに転送してシンヤードに持っていってちょうだい」

 食べながら小さく首を縦に振る。いつものミリメシ、缶詰の豆ご飯だ。

「車も買ってあるから、それはカリーナちゃんに頼んでね」

 自動車なんか何に使うのだろう。

「それから費用を払って欲しいんだけど、いいわよね」

 言い方が事務的だ。麻美さんも、非常事態モードに変更したのか。

 モグモグと食べながらコクンとうなずく。これから戦争になるかもしれないのに、節約していても仕方がない。


 食事の後、麻美さんを連れて3階の自室に行く。

 俺は金庫を開けて中から札束や砂金を取りだし、テーブルの上に置いた。

「現金は1億円以上あります。ゴールド関係は60キロ以上あるので武器の費用としては十分でしょ」

 念のために金庫の中には1千万円ほど残している。

 麻美さんは頬を染め、目を潤ませていた。まるで、離ればなれにされていた最愛の恋人に巡り会えたような顔。

「金製品は質屋のジイサンに持っていけば1キロ、200万円で買い取ってくれますんで、1億2000万円になるでしょう」

「1キロが200万円?」

 そう言った麻美さんは目を見開いている。

「それは安すぎるわ。私だったら300万円で買い取らせるわよ」

「えっ、そうなんですか……」

 じゃあ、今まで俺はジイサンからぼったくられていたのか。訳ありで取引していたから安くてもそんなものかなと思っていたのだが……。


  *


 重いリュックを背負い、シンヤードの事務所に転送した。


 荷物を置いて、1階の販売所に降りる。

 そこには藤堂さん達と、見知らぬ老人がいた。老人の後ろにはギルドの係員が数人立っていた。

「どうしたんですか、藤堂さん」

 夕暮れが迫る薄暗い部屋。藤堂さんはゆっくりと振り返った。

「ああ、佐藤さん。やっと帰ってきたか」

「何事ですか」

「リザードマンから宣戦布告が来たらしい」

 体が寒くなる。ああ、やはり最悪の事態になってしまったか。

 リザードマンはプライドが高いのか、戦いを仕掛ける前に通告をするんだ。正々堂々としているんだな。

「すぐに日本人は強制送還することに決定した」

 老人が重々しく告げた。背が低くて髪もあご髭も白い。片手を杖に置いているが、毅然としていて衰えを感じさせい。

「即刻、日本とやらの異世界に転送するように。シンヤードおよび近隣の村から退去しない場合は捕縛して投獄する」

「だそうだ……」

 俺の方を向き、苦笑いしている藤堂さん。

「藤堂さん、この人は?」

「ギルドの支部長さんだ。つまり、この地区で一番偉い人さ」

 そうか……まあ俺達が悪いわけではないが、日本人の山口が犯したことは連帯責任で、ということか。

「君たちには、このような事態を招いた責任があるだろう」

 支部長は杖で床をトンと突いた。見た目は冷静だが心の中は俺達に対する怒りで暴風雨なんだろうな。

「責任があるというのなら取りましょう。だがしかし、ここから逃げることが責任を取るということにはならない」

 藤堂隊長も迫力では負けていない。言葉に物理的な強さがある。

「俺達は自衛隊だ。あ、いや……自衛隊ではないが兵士だ。戦闘員にはそれなりの責任の果たし方がある」

「それは?」

 また支部長が杖で床を突く。

「一緒に戦います」

 堂々と宣言する隊長さん。やはり、そうきたか。


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