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異世界転生、おっさんニートの成功物語  作者: 佐藤コウキ
第4章、争い
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第51話、幕開け


 トルティアとのデートコースは大体決まっている。

 今の付き合い方でいいかなとは思うが、さらに二人の仲を進展させるにはどうすれば良いか、手探り状態の交際をしている。


 リザードマンから手に入れた金製品は、その半分を換金して1億円を手に入れた。

 大金が入ってきても、日本では派手に使うわけにはいかない。俺は探偵事務所の一社員なのだから、税務署の調査が入ったら収入源の言い訳ができない。

 豪勢な鉄筋コンクリートの三階建て住宅に住み、フェラーリやクルーザーを乗り回す生活をすることも可能なのだが、日本の窮屈な状況では布団に入って見る夢でしかないのだ。

 しかし、砂金を取ることをやめる気はない。俺には使い道がなくても、お金はたくさん欲しいからだ。それは本能的な欲求で、その乾きが満たされることはないのだろう。


 二日後。トルティア薬局の客をもう一人対応した後、異世界に帰ることにした。

「今日は前にする? それとも後ろ?」

 トルティアが聞いてきた。彼女は俺が選んだジャンパースカートを着ている。

「そうだなあ……。オンブにしようかな」

 前というのはお姫様だっこで、後ろはオンブという意味。

 彼女は俺にバッグを手渡し、背後から俺の首に手を回した。柔らかい曲線を背中に感じる。

「よし、行くよ」

 シンヤードの佐藤商会を思い浮かべる。

 今は順風満帆だ。リザードマンの砂金もいつかは尽きるだろうが、感じから言ってまだまだ資源はあるようだ。取り尽くしたら、また考えればいいさ。

 トルティア薬局の部屋が白い世界に侵食され、やがて闇の世界に。


 レンガ作りの建物の3階、佐藤商会に転送した。

 部屋には誰もいない。店番のトルチェはどこに行ったのだろうか。

「1階の店に行ってくるわ」

 トルティアはバッグを持って階段に向かう。俺も付いていった。

 店に行くと、藤堂さんを始め全員がそろっていた。誰もが無言で雰囲気がおかしい。

「ただいま帰りました」

 トルティアが言っても、トルチェは何も答えない。

「何かあったんですか」

 腕組みをして難しい表情の藤堂さんに尋ねてみた。

「ちょっと問題が起こってな……」

「問題?」

「うむ、……山口達がリザードマンの領地を襲ったらしい」

 ガツンと頭を殴られたようだ。思考がぶっ飛んで何も考えることができない。

 しばらく現実から逃避して天井付近をフワフワと遊泳した後、脳に意識が帰還した。

「なんだってー! 山口の野郎がリザードマンの領地を侵略したんですかあ!」

 重くうなずく藤堂さん。

「あの野郎、なんのために……」

 そうは言ったが、目的は決まっている。砂金が欲しかったんだ。

「集めた荒くれ共を使ってリザードマンを攻撃し、彼らにとって大切な黄金の像……なんと言ったかな、……とにかく像を壊して持ち帰ろうとしたらしいぜ」

 聖なるウポンケ様の像か……。確かにあれを売れば大金になる。欲深い山口ならやりそうなことだ。しかし、リザードマン達にとっては崇拝の対象。傷一つ付けても激怒するだろう。それをバラバラにしたのなら……ああ、もう想像するのも怖い。

 さっきまでは順風満帆だと、のんびり構えていたのに、今は暴風雨に飲み込まれてしまった。これで沈没しなければ良いが……。

 これが人生というものかな。順調なときでも危機管理は必要らしい。


「武装した30人以上の冒険者を引き連れてリザードマンの領地に忍び込み、像を壊して持ち帰ろうとしたが、警備の兵に見つかって戦闘になったそうだ」

 藤堂さんの説明は淡々として簡潔だ。乱れた状況になるほど冷静を保つのか。

「殺し合いになり、シンヤードに戻ってきたのは三人だ。それも一人は重傷で動けない」

 ああ、大変なことになった。これでリザードマンとの関係は絶望的。修復は不可能だろう。

「それで山口はどこに行ったんですか」

「帰還した冒険者の話では、いつの間にか姿が見えなくなっていたらしい」

 転送して逃げたんだ。あの卑怯者が! どこまで無責任で卑劣なんだ。

「あの野郎、ぶん殴ってやる!」

 目をつむって転送の用意。

「待てよ、佐藤さん」

 藤堂さんが俺の肩を強く握っていた。

「落ち着け。このような状況では冷静に対処しないと問題がこじれてしまうぜ」

 藤堂さんの態度は普段と変わらない。心はいつも戦場にあり、ということなのか。

「落ち着いていられませんよ。とにかく、山口に話を聞いてみます」

 俺の目を見て藤堂さんは口を結んで、ため息をついた。

「分かった。それじゃ日本に転送しなよ。では、これを麻美に渡してくれ」

 差し出されたメモ帳。俺は手に取った。

「何が書いてあるんですか」

「渡せば分かる……。じゃあ、頼んだぜ」

 藤堂さんは小さく敬礼した。反射的に俺も右手を顔のそばに挙げる。それは軍隊をイメージさせ、胸に暗雲が忍び寄った。

 深呼吸をして目をつむる。

「コウイチ……」

 トルティアが何か言いたかったようだが、最後まで聞くことができなかった。


 日本の藤堂探偵事務所に転送。

「どうしたの? こんなに早く帰ってくるなんて」

 夜遅くまでパソコン作業をしていた麻美さんが立ち上がる。

「山口の住所を教えてください! 調べてもらえましたよね」

 俺の迫力に黙り込む麻美さん。

「何があったのよ」

「山口の野郎がリザードマンと戦闘したんですよ。もう何もかもお終いだ」

 麻美さんは腕組みをして黙り込む。

「あいつをぶちのめしてやる!」

 俺は両手の拳を握る。

「落ち着きなさい。山口さんをリンチしても状況は良くならないわ」

 藤堂さんと同じようなことを言っている。俺が間違っているのか……そうかもしれない。でも、あいつに会って何かをしないと気が済まない。

「住所を教えてください……」

 麻美さんは切なそうな顔をして机からメモを持ってきた。

 受け取って場所を確認する。そんなに遠くではない。やつはアパートに住んでいたのか。

「くれぐれも早まったことをしないでね」

 俺は適当にうなずいて外に出ようとしたが、ドアの手前で立ち止まる。そうだ、藤堂さんから頼まれていたんだ。

 ポケットから手帳を取り出して麻美さんに手渡す。

「忘れてた。藤堂さんからです」

 彼女は手帳を開いて中を確認。口を開けたまま固まってしまった。

「何が書いてあるんですか」

「武器のリストよ。本格的な戦いをするつもりね」

 あの戦闘オヤジは、すでに戦争の準備を考えていたのか。混乱した状況に動揺することもなく、先のことを、最悪の事態を冷徹に見据えている。

「費用のことは佐藤さんに頼めと書いてあるけど、……どうするの?」

 今はケチケチしている場合ではない。

「ああ、いいですよ。いくらでも出します! 俺の全財産を吐き出しますよ」

 そう言い捨てて、1階の倉庫に降りた。


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