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異世界転生、おっさんニートの成功物語  作者: 佐藤コウキ
第4章、争い
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第45話、商談


 もう季節は真夏になっていた。

 森の中を曲がりくねって進む道。きちんと整備した道路ではなく、けもの道が少し広くなったようなもの。

 木漏れ日が点々と深い草むらの上に落ちている。藤堂さんが運転する軽自動車に揺られて、俺達は川の上流に進んでいた。

 助手席には健司さん。後部座席には俺と長沢、それに山口が座っている。


 どうして山口がここにいるのか。

 やつは一度、刑務所に入ったが、被害者に慰謝料などを払って示談にしたのだ。それに保釈金もたくさん払って簡単に出所してしまった。

 異世界でも日本でもお金がものを言うのだ。そのお金は俺から盗んだ砂金を使って手に入れたに違いないのだが、証拠がないのでガマンするしかない。

 山口の顔など見たくはないのだが、やつはなぜか俺に付きまとう。俺のそばにいれば砂金が手に入ると思っているのだろう。

 俺としては山口を蹴飛ばして車から放り出したい。しかし、転送能力を重視している藤堂さんは山口を仲間にしようと思っているので粗末には扱えない空気だ。


 馬車と違ってエアコンが効いているN-BOXの車内は快適だ。しかし、走っている道は、道という名前を付けるには恥ずかしいほどの細くて荒れたものだった。

 やがて車が進むには無理なほどに、うっそうとした林になる。

「ここからは歩きだな」

 運転席の藤堂さんが後ろを振り向いて言った。

「やれやれ」

 ため息をついて車を降りる。車内と違って外はサウナ状態。後部ハッチを開けてリュックを取り出す。

「長沢。お前は車で待機だ。輸送手段を確保しておけ」

「はーい、分かったわん」

 藤堂さんの命令にオカマのトーンで答える長沢。

 健司さんは車から自動小銃を取り出して藤堂隊長に手渡した。健司さんも藤堂さんも武器を手にすると、なぜか生き生きしてくる。まったく物騒な連中だよ。だが、それだけに今回のようなときは頼りになる。


 自動小銃はソ連のAK47という物らしい。ロシアや中国に行けば独自のルートで銃や手榴弾が比較的簡単に手に入る。

 それらの武器を異世界に持ってきたのは俺。

 まず、日本から旅客機で外国に飛び、健司さんと一緒にブラックマーケットで武器を購入する。それを俺が担いでシンヤードの佐藤商会に転送したのだ。日本でも銃器は手に入るらしいが、密輸品なので末端価格が現地の十倍以上になるという。

 そんな違法なことに加担したくはなかった。でも、シンヤードの町を守備するためだ。トルティア達をモンスターから守りたくないのか。一般の市民を専守防衛するためには武装しなければならない――と隊長さんが力説するので、渋々と納得した。きっと、自分たちが戦闘したいだけだろう。

 藤堂隊長は異世界に自衛隊の派遣基地でも作るつもりなのか。


 武装、その他の費用として藤堂さんからは5000万円を要求された。

 そんなに出せるかよー! と断ったが、藤堂さんからは防衛論を長々と説明されるし、健司さんは脅しにかかってくる。それに長沢から襲われそうになったので、最後には出資してしまった。

 俺の総合資産の半分以上を投資したので、懐が凍死してしまいそうだぜ。


 お金を出したので用心棒になってもらうことにした。

 人間の土地では、もう砂金を得ることができない。それで上流に行って砂金の調査をしようというのだ。大金を払ったのだから、モンスターが襲ってきたとき、その分は戦ってもらわねば。商売人としては出資した以上のリターンを得なければならない。


 長沢は車の屋根に取り付けてあった偵察用ドローンを上昇させた。

 それにはカメラが付いていて映像信号を専用モニターで受信する。その映像を見ながら操縦するのだ。

 ドローンは高く空に昇り、モニターには上空から俯瞰した地形が映し出された。

「ここから北西に150メートルほど行ったところに川があるわ」

 コントローラーを操作し、画面をチェックしている長沢が報告する。

 この異世界にも地磁気が存在する。磁力は地球と同じように自転軸と対応していた。

「よし、行くぞ」

 藤堂隊長は林の中に進んでいき、それに健司さんが続く。

 どちらも自衛隊の迷彩服を着ていて、それがサマになっている。俺と山口は汗をかきながら一生懸命付いて行った。


 草むらをかき分けて行くと、やっと川にたどり着いた。

 幅が2メートルほどの川で、下流はシンヤードの町に続いている。そこでは散々、砂金を取りまくったので貴金属資源は枯渇している。

「健司、お前は下流を警戒しろ。俺は上流を見張る」

 さすが、自衛隊出身。隊長さんは、やることがテキパキしているぜ。

 俺は背負っていたリュックから黒い皿を取り出し、靴を脱いで川の中に入った。

 皿で川底の砂をすくい、川の流れを利用して揺らしながら砂と砂金を分離する。砂金は比重が大きいので皿の中に残るのだ。

「すげーぜ」

 皿の中央に残った光る物を見て、思わず声を出す。

 かなりの量の砂金がキラキラと日光を反射している。砂のほとんどが砂金のようだ。この川上にゴールドの鉱脈でもあるのだろうか。


「え、どれどれ」

 山口がジャブジャブと川の中に入ってきた。

「おー、こんなに」

 皿の中を見て目を光らせている。なんだよ……山口は何を考えているのか。


「隊長、敵がやってきたわ。そちらに近づいているようよ。送って」

 藤堂さんが持っている通信機に長沢からの警告が来た。上空にはドローンが浮かんでいる。

「了解。そのまま監視を続けろ。交信を一時終了する」


 馬の鳴き声が聞こえてきた。やがて十騎ほどの兵隊が俺達を取り囲んだ。

 藤堂さんと健司さんは銃の安全装置を外すが、すぐに攻撃する気はない。こちらからは攻撃しないように打ち合わせしてある。

 俺達は包囲したのは、人間と同じくらいの体長で全身がウロコで覆われているトカゲのような生物だった。大きな口に牙がびっしりと生えている……リザードマンだ。

「お前達は、なんの用で縄張りに入ってきたのだ」

 リーダーと思われるトカゲ人間が聞いてきた。革の鎧を着ていて腰に剣を差している。

 リザードマンは人間と同じくらいの知能を持ち集団で暮らしている。馬にも乗るし弓などの武器も使う。


 俺は戦いに来たのでもないし、侵略する気もない。商談のために赴いたのだ。

 ここからが本番で、俺の出番だ。

「待ってください! 俺達は争うために来たのではありません!」

 両手を挙げて武器を持っていないことを強調する。

「今日は取引のために来ました! 話を聞いて下さい!」

 思い切りの笑顔を作って大声を出す。背中に冷や汗が流れた。

 リザードマンたちは戸惑ったように顔を見合わせた。



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