第4話、基地がいい
公園に朝日が差している。
俺は辺りを見回した。日本に帰ってきたらしい。
異世界に行ったのが夜中だった。そして、帰ってきたのが朝ということは異世界で過ごした時間は日本でも経過しているということか。
でも、どのようにすれば異世界と日本を自由に行ったり来たりすることができるのだろう……。
「さて、これからどうするか」
決まっている。手にはズッシリと砂金が入った布袋。まず、これを換金して生活費を得なければならない。
町に行って質屋を探した。砂金も買ってくれるような店でないと。
貴金属、宝石高価買い取り、という看板が出ている小さな店を見つけたので中に入った。狭い待合室の正面に窓口がある。客は誰もいない。俺は窓口に立って呼びかける。
「すいませーん。金を買い取って欲しいんですけど……」
このような言い方でいいのかな。質屋なんて入ったことがないからなあ。
すぐに70歳くらいの店主と思われる白髪のおじいさんが出てきた。
「はい、いらっしゃいませ。何をお売りですか」
背の高い老人は、冷静な表情と声で聞いてきた。
「あ、あの……。砂金も取り扱っていますか」
どうも会話は苦手だ。
「拝見しましょう」
店主は俺の若さに不信感を抱いたようで、口調に用心深さがある。まあ、高校生くらいの子供がゴールドを持ってくれば変に思うのは当然か。
俺はカバンから布袋を取り出して、カウンターにドンと置いた。
店主は袋を開けて中を覗くと、目を細めた。
「これはどちらで入手しましたか」
そう言われてもなあ。まさか、異世界でもらったとは言えない。
「ああ、あの……、父からもらったんですよ」
ふーんと言って、店主は金の粒を手に取る。拡大鏡を使って丹念にチェックし始めた。
「ちょっと、機械で検査してもいいですか」
俺がうなずくと、袋から数粒の金を取り出して店の奥に入っていった。
大丈夫かな。パクられたりしないかな。でも、いっぱいあるからいいか。俺はベルトを締め直した。ウェストが細いとズボンが下がらないので助かる。太っているとずり落ちるので、たまに外出するときはサスペンダーを使っていたんだ。
しばらくすると、店主が戻ってきた。
「比重検査でもオーケーです。かなり純度の高いゴールドのようだ」
はあ、そうですか、と答えると、店主は袋を小型計量計の上に乗せた。
「1530グラムですね。今の相場だと買い取りは450万くらいかな」
そんなにするのか。すげーな、ゴールドは。
「では、この用紙にお名前と住所、それに電話番号を。それに身分を証明する物を見せていただけますか」
そう言って買い取りの用紙を差し出した。
ちょっと待てよ。免許証は持っているが、若返っているので顔が全然違う。健康保険証でいいかなあ。
「あのう……、そういったのは、なしで買ってもらえませんか。ちょっと訳ありなもんで」
店主の顔がこわばった。しばらく俺の顔をにらむ。そして、カウンターから身を乗り出して店内に客がいないことを確かめると言った。
「じゃあ、買い取り価格は300万円。それでいいよね」
俺がうなずくと、店主は用紙を持って奥に入っていった。やがて、厚い封筒を持ってやってくる。
ドサッと俺の前に封筒を置くと、布袋を持ち上げた。
「またのお取引をお待ちしております」
お金を持ってさっさと帰れということか。封筒の中を覗くと、見たことがないほどの札束だ。
「毎度、どーもー」
適当なあいさつをして店を出た。
やったぜ。これで当分の間は遊んでいける。……いや、ダメだ。まず基地を確保しないと。ずっとネットカフェで暮らすのは窮屈だ。何とかアパートでも契約して落ち着かないとなあ。
ネットカフェに入り、パソコンでアパートを検索。
インターネット環境があって寝ることができれば、それ以外はどうでもいい。俺はユニットバスが付いているワンルームアパートを見つけた。
カフェを出て不動産屋に向かう。それは小さな事務所だった。そこで印刷した物件を見せて仮契約する。身分証明書として保険証を見せると、俺の若さに驚いていた。
「いやー、苦労知らずなもので……」
そう言ってごまかす。不動産屋も商売なので、深く追求してこなかった。
本当なら、そのアパートに行って部屋を見るのだが、写真で確認したしネットで調べたから問題ないと言って断った。
外に出て、公衆電話で母親に電話した。今の時間、兄はいないはず。
「浩一、元気でやっていたかい」
心配そうな声。母親って本当にありがたいな。この世界で俺のことを心配してくれるのは母親だけだ。
「ああ、ちゃんと生きているよ」
公園でオカマを掘られそうになったことや異世界に行ったことなどは話すことはできない。
アパート契約のために、連帯保証人になってくれるように頼むと、母は二つ返事で承諾した。ほんと、俺のことを親身になって考えてくれる。
かくして、俺は活動拠点となる基地を手に入れた。