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異世界転生、おっさんニートの成功物語  作者: 佐藤コウキ
第3章、宿敵
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第38話、盗難


 釈放されてギルドの建物を出ると、トルティアと長沢が迎えに来ていた。

「サトウさん、良かったあ」

 そう言って涙ぐんでくれるトルティア。俺のことを心底心配してくれるのは、母さんとトルティアだけだよな。

「佐藤ちゃーん、会いたかったわあーん」

 ホモデブの長沢が抱きつこうとしたので、両手で体を押しのけた。お前に心配されてもうれしくないんだよ。

「それよりもサトウさん、大変なんですよ」

 両手をボリュームのある胸の前で組んでいる。悲しそうな表情の彼女。

「どうしたの?」

「サトウ商会に泥棒が入ったんですよ」

「えっ」

「トルチェが店番をしているときに、男の人が入ってきて何かを盗んでいったんです」

 シンヤードでは空き巣などの犯罪を聞いたことがない。それで防犯装置などのセキュリティは考えていなかった。

「そ、それで?」

「妹が大声を出して藤堂さん達を呼んだんですが、いきなり消えてしまったそうなんです」

「転送か……」

 山口の仕業だな。全く、俺のことを目の敵にしているからな。

 何を盗んだのか……。気になるので馬車に乗り、急いで佐藤商会に向かった。


 佐藤商会に到着して、すぐに2階の事務所に行く。

「サトウおじさん、ごめんなさい」

 うなだれているトルチェ。小柄な体が、さらに小さくなっている。

「いいんだ、君のせいじゃないよ」

 慰めると15歳の彼女は軽くうなずいた。

「犯人はこいつだよな」

 スマホの写真をトルチェに見せる。

「あ、はい。この人に間違いないです」

 やはり、そうか。

「山ちゃんが犯人な訳?」

 長沢が山口のことを山ちゃんなどと呼びやがるので少しムカついた。

「そうです。山口が泥棒だった訳ですよ」

 何が盗まれたのだろう。俺は机やキャビネットを確認した。

「あー、やられた」

 俺は天井を仰ぐ。山口の野郎、一番に高価な物を盗っていきやがった。

「何を盗まれたんですか」

 トルティアが心配そうに聞く。

「砂金を盗まれました。布袋に小分けしていた10キロほど……」

 ああ、悔しい。日本で売れば2000万円くらいにはなるのに。

「そうなんですか……」

 トルティアは気が抜けたように言う。異世界人にとってゴールドは重要ではない。ギルドでは銀本位制の貨幣制度だから、砂金などキラキラ光る飾り物程度の価値しかないのだ。今は少なくなったが、以前はいくらでも川で取ることができたのだから。

 俺は深くため息をつく。

 もう砂金を大量に採取することはできない状況。残りの在庫は60キロくらいあるので、しばらくは資金的に問題がない。だが、砂金で大もうけできなくなるので、後は日本の商品を売って小さく儲けを重ねるというビジネスになる。

「それも寂しいよなあ……」

 気が落ち込んできた。

「とにかく、ギルドに被害届を出した方が良いだろう」

 入り口に藤堂さんが立っていた。

「はあ、そうですね……」

 異世界で被害届を出して意味があるのだろうか。ギルドの捜査態勢には疑問があるし、山口を捕まえたとしても、すぐに日本に転送してしまうだろう。

 自分では何も感じなかったが、そう考えると転送能力とはやっかいな能力だったんだなあ。


  *


 ギルドに報告すると役人が来た。4人の男の中に黒ずくめの服装をした女の子が一人。建物を買ったときのカリーナも一緒だった。

「何が盗まれたのですか」

 黒いコートを着た役人が尋ねてきた。いつも思うのだが、暑くないのだろうか。

 砂金を盗られました、と告げたら、あからさまに嫌な顔をされた。異世界人にとってゴールドは砂浜の砂と同じ。そんな物で被害届を出すなよ、という態度が見え見えだ。

 それでも仕事なので、男達は面倒そうに調書を取っていく。

 カリーナは、何も言わずに壁際に立っていた。彼女に近づく。

「あの、ちょっと聞きたいんですが」

「はい? なんでしょう」

 俺の問いかけに笑顔で答える少女。16歳くらいかな。黒ベールをかぶった腰まで届く長い髪のカリーナだ。若手美人声優の誰かに似ているのだが思い出せない。今度、ネットでチェックしてみよう。

「犯人を捕まえたとして、相手は転送能力を持っていますよね。牢屋に入れたとしても逃げられたらどうするんですか」

「それは問題ありません」

 カリーナは右手を俺の前に差し出した。白く細い指。その3本の指に金属製の指輪が光っている。

「ギルドから貸し与えられている、罪の刻印の指輪を使うんですよ」

 そう言って人差し指を立てる。それには縄が巻かれたようなデザインの銀色に輝く指輪があった。

 へえー、よく分からないが、異世界には留置用の魔法グッズがあるんだなあ。

「だけど、捕まえても犯人が消えてしまったら刻印を打つことができません。一時的にでも転送できないようにしないとダメなんですよね」

 小さくて可愛い口を結ぶ。

 そうだよな、何とか転送能力を無効化しないと逮捕できないし、刻印の魔法とかを施すこともできないんだ。


  *


 役人達は適当に調査して帰って行った。

 まずはコパルに聞いてみないと。

「悪魔を呼び出します。どうして山口に転送能力を与えたのかを確認ですね」

 なんとなく理由は分かる。コパルにとって俺達は犬や猫といったペットのようなもの。面白ければ何でもいいのだろう。

「あいつを呼ぶのか……、俺は席を外すぜ」

 切なそうな顔をして藤堂さんが階段を降りていく。悪魔に女体化されたことがトラウマになっているのだろうな。無敵の藤堂隊長も女体化にはかなわないのだ。

 俺は床に正座した。トルティアやトルチェが見ているのだが、もう恥ずかしいのには慣れてきた。

「コパル様、コパル様、お出ましになって下さい」

 邪神に祈るように何度もひれ伏す。

 もう表れても良い頃だが、まったく気配がない。こんなことは初めてだ。

「先日、隊長が怒らせてしまったので、来ないようだ」

 ため息をついて立ち上がる。

 さて、これからどうしようか……。山口に刻印の魔法とかを打ち込まないといけないが、転送させないで、その場にとどまらせるには何をすれば良いのか。

「うーん」

 俺は腕組みをして考えた。


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