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異世界転生、おっさんニートの成功物語  作者: 佐藤コウキ
第3章、宿敵
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第37話、逮捕


 シンヤードにある佐藤商会の事務室。

 2階の窓からは異世界の町並みが見える。のどかな風景は何も問題がないかのようだが、地平線の向こうではモンスターと人間の戦いが繰り広げられているそうだ。


 机の上のノートパソコンには、今月の売り上げをまとめている。

 ため息をついて俺は天井を見上げた。

 今月の売り上げは約300万リラ。日本円にすれば300万円くらいになる。商品は全て100円ストアーで仕入れた物なので原価は低い。だから、利益率は非常に高いのだ。

 商売は繁盛しているのだが、問題は砂金が入ってこなくなったことだ。

 以前はキロ単位で子供達が持ってきた。しかし、今では1日に10グラム程度に落ち込んでいる。

 理由は明らかで、もう川の砂金は取り尽くしたのだ。シンヤードの町に流れる川でもヤオジの村でも砂金を取りまくったので、もう無くなってしまった。


「上流に行ってみるか」

 砂金に代わる別のビジネスを考えたが思いつかなかった。色々考えたが、砂金ほど利益率の良い方法は見つからない。

 ならば、まだ足を踏み入れていない上流に行って砂金を採取するしかないという結論に達した。

 しかし、それには大きな問題があって、その土地はリザードマンの領地なのだ。


 リザードマンとは簡単に言ってトカゲ人間だ。

 人間と同じ体長で全体がトカゲのようなウロコで覆われている。知性もあり、人間と同程度の思考ができる。馬を乗りこなし、弓矢などの武器も使いこなす。

 人間と同じくらいの知能を持っているが、建物を作って町を構築するというような文化はない。

 テントやログハウスのような簡素な住宅に住んで、狩りなどをやって生活している種族。


 人間とリザードマンは敵対しているわけではないが、友好関係にもない。テリトリーを決め、お互いに不可侵の状態で過ごしている。相手の領地に入りさえしなければ争いに及ぶことはないのだ。


 戦闘員を集めて侵略するか……。俺の仲間は戦闘オタクばかりだし。

「そんなバカなことができるか」

 俺は頭を振って、戦うという選択肢を追い払う。

 殺し合うのは最低最悪の方法であり、最終手段だ。もっと良い方法があるはず。

 俺は水平思考で、思いつく限りの方法を思索した。


「サトウさん大変です!」

 階段を駆け上ってきたトルティアが息を荒げている。

「どうしたの?」

 聞いたが、彼女は真っ青な表情で口を半開き。

 ただならぬ様子に何事かと思い、立ち上がってトルティアに近寄る。

 すると、彼女の後ろから黒いコートを着た男達がドカドカと部屋に踏み込んできた。

「あなたがサトウですね」

 そう言ったのは屈強な体をした男。目つきが鋭い。ギルドの制服を着ているが、一般的な係員とは空気が違う。

「はい、そうですけど……」

 すると、数人の男が俺を取り押さえた。

「何をするんですか!」

 状況が全く分からない。焦って振りほどこうとするが、男達の力は強く、逃げることは叶わない。

「あなたを窃盗容疑で逮捕します」

 そう言って男は文字が書かれた布を俺に突き出した。異世界の言葉なので何か書いてあるか分からないが、つまり俺が泥棒をしたので捕まえるという逮捕状か。

「なんですか、それは! 何かの間違いですよ」

「詳しいことはギルドで聞く。さっさと来い」

 両腕を押さえられ、無理矢理に連行される。

 どうしよう……そうだ、とりあえず日本に逃げることにしよう。

 俺は日本のことを思い描く。横浜の自宅に帰りたいと強く願う。その意思に呼応して、あたりが白くなり始めた。

「佐藤さん、逃げちゃダメだ!」

 ギルドの男達がビビるほどの力強い声で言ったのは藤堂さん。ドアの前で仁王立ちしていた。

「日本に転送するな。ここで逃げたら、さらに怪しまれるだけだぞ」

「で、でも……」

 こんな異世界で逮捕されるなんて。

「いいから、とにかく相手の言うとおりに行動しろ。俺達が何とかしてやるから」

 こんな時の藤堂さんは頼りになる。さすがは百戦錬磨のファイターだ。

 俺はギルドの男達に連れられて馬車に乗った。


  *


 ギルドの1階にある牢屋の中。

 壁際にベッドが置いてあり、隅の洋式トイレは個室ではなく、便器の前に低いついたてが置いてあるだけ。絵に描いたような独房だ。

 取り調べは一方的だった。もう俺が泥棒していることは確定事項のように白状を迫る。日本で逮捕されても同じようなものなのかなあ。

 容疑としては窃盗で、民家に入って物色しているところを家人に発見された。しかし、家族が取り押さえようとしたら消えてしまったというのだ。つまり、別の場所に転送したということで、それができるのは俺だけだと言う。

 この異世界では転送魔法や姿を消す魔法は存在しないというのだ。

 俺以外にも転送できるやつがいたということか……。

 とにかく、完全否定してやり過ごした。後は藤堂さんを信じて耐えるしかない。


 夜になって、硬いベッドに横たわったが眠ることができない。

 いざとなれば日本に転送すれば良いので気が楽だということはあるが、そうなると異世界での商売ができなくなってしまう。日本との通商ができなくなったら、俺の価値がなくなってしまうような気がした。


  *


 朝食の後、また取り調べだった。

 小さな部屋に小さな窓。その窓には鉄格子がはまっている。絵に描いたような取調室。

 相変わらず相手は自白を強要するような言い方だ。俺の説明が真実かどうか判別できる魔法とかないのだろうか。


 ドアがノックされ、別の係員がやってきた。

 その後ろに一般人と思われる男が続いて入ってくる。

 背広のような服を着た男で、全体的に立派な身なりをしているので、お金持ちなのかな。

「この男ですよね、このサトウが犯人でしょう」

 取り調べ官が、決めつけるように俺を指さす。

 被害者だと思われる背広の男は顔をしかめて首をかしげた。

「いやー、ちょっと違うような……」

「違うんですか? もっとよく見て下さい」

 犯人は俺だと決めつけたい取り調べ官が乱暴に俺を立たせた。

 強引に証言を誘導するつもりか。

「いやー、この人じゃないです。もっと人が良さそうな感じでしたよ」

 なんだよ、俺の人相が悪いということなの?

 ちょっと待てよ……。見た目が良さそうな感じというと……あいつか?

「おまわりさん、俺のスマホを返してもらえませんか」

 相手は、なんだ? という顔をする。そうか、おまわりさんという単語は異世界に無いのか。

「とにかく、俺の無実がはっきりしたんだから、私物を返して下さいよ」

 持っていた財布やスマートフォンは逮捕されたときに没収されている。

 取り調べ官は渋々と部屋を出ていき、しばらくすると俺の私物が入ったカゴを持ってきた。

 カゴの中のスマホを手に取って起動する。

 おれはデータフォルダを探して、目当ての写真を表示させた。

「犯人はこいつじゃないですか」

 皆にスマホの画面を見せた。

「ああ、こいつですよ。泥棒に入った男はこいつです」

 背広の男は、以前に撮影した山口の写真を指さした。

 そうか、山口だったのか。……しかし、どうして彼が転送能力を得たのだろうか。考えられることは一つしかない。

 俺の頭に、例の幼女の顔が浮かんだ。


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