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異世界転生、おっさんニートの成功物語  作者: 佐藤コウキ
第2章、商売繁盛
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第28話、駆け引き


 今日はどこに行こうか。

 女の子が喜ぶところと言ったらディズニーランドが定番だが、俺は一度も行ったことがない。どれくらい待たされて、どんな乗り物に乗って、どんなイベントに参加すれば良いのか……。よく分からないことは、やらないのが一番だ。

 かと言って秋葉原に行っても仕方がない。ゲーム売り場やメイド喫茶などはトルティアがドン引きしてしまうだろう。


「デパートに行ってトルティアちゃんの洋服を買いましょう」

 麻美さんが言った。

「もう買ってあるんじゃないですか」

 100万円も渡しているのに。まだ足りないのか。

「女の子には必要な物がたくさんあるのよ。今の服は少し余裕を持って大きめの服だから、ちゃんと採寸してピッタリのコーデをしなきゃ」

 片目をつむって笑顔の麻美さん。

 その件に関しては情報が絶対的に不足している。麻美さんの言うとおりにするしかない。


 俺の車と麻美さんの軽自動車、2台で横浜駅前の丸井に行った。

 そのデパートで靴や洋服、アクセサリーを買う。

 下着売り場では、所在なく汗をかいて待っているオジサンだ。ラノベではよくあるシチュエーションだが、実際にその状態になってしまうと恥ずかしさが半端ない。

 買い物が終わり、俺は買った物を持たされて車に戻る。


「じゃあ、私はこれで帰るわね」

 手を振って自分の車に乗り込む麻美さん。

 俺達は車で、近くにあるランドマークタワーに向かった。

 入場料を払って展望階に入る。

「うわー、すごい! あの全部が家なんですね」

 トルティアが身を乗り出す。

 69階の窓からは横浜の町が一望できた。昨夜のベイブリッジや大きな観覧車が確認できる。

「こんな立派な国なのに、どうして佐藤さんや藤堂さんは嫌っているんでしょうか」

 彼女の大きな目は不思議そうに俺を見る。

「そう言えば、どうしてだろう……」

 平和だし、物は有り余っている。お金さえあれば不自由なことはない。でも、どこか窮屈な感じがするんだよなあ。見えないロープでがんじがらめにされているような感じ。異世界のように冒険できる世界ではない。


 それからタワー内の施設を見物する。

 それはトルティアにとって全てのことが新鮮だった。一つ一つのことに目を見張って驚いていた。

 お台場に行く予定だったが、ランドマークタワーだけで時間を費やしてしまったので、後は大きな観覧車に乗って帰ってきた。


 事務所に帰ってからもトルティアは興奮冷めやらぬという雰囲気だった。

「なんかゴチャゴチャしていて、ヤオジ村のようにのんびりしていないよね」

 俺が言うと、トルティアは目を輝かせて振り向く。

「ええ、でも活発で生命力にあふれているようです。こんな世界で商売してみたい」

 そう言って俺に近づいてきた。何かをねだっているのだろうか。

「じゃあ、ここで薬を売ってみます? 俺が協力しますよ」

 お金を持っているから強気の俺。お金を持っているからこそ道が広がる。

「はい、よろしくお願いします」

 彼女は満面の笑みだった。

 商売をするということは楽しいことなのだろうか。物を売って利益を得る。その利益を使って物を仕入れて、また販売する。その繰り返しで収益を積み上げていく。それだけのことなのだが、それを喜びと感じるのが人間なのか。

 トルティアは事務所を歩き回って、ここは自分が住むところで、ここが客を待たせる場所でと、薬局のレイアウトを考えているよう。2階から4階まで同じ間取りなので、事務所でシミュレーションができる。

「とりあえず、これからもよろしくお願いします」

 そう言って俺が手を差しだす。

 彼女は俺に近寄り、両手で握ってきた。

「はい! よろしく、お願いしますね。スポンサーさん」

 笑顔のトルティア。俺が出資することは前提と考えているのか。まあ、良いけど。

 とにかく、自然な流れで女の子の手を握ったぜ、へっへっへ……。


  *


 翌日、このビルのオーナーに連絡すると、質屋のジイサンはすぐにやってきた。

 いつも異世界で手に入れた砂金を訳ありで日本円に換金してくれる老人だ。頭は白くなっているが腰はピンとして覇気がある。

 麻美さんとトルティアがあいさつする。ジイサンはトルティアを一瞥すると、すぐに商談に入った。

「このビルを買いたいんだって? 若いのに大したものだ」

 白髪頭で長身のオジイサンは、ニコニコ笑って言った。

「3階で店を開きたいと思っているので」

 俺が言うとジイサンは、ふーんと言って腕組みをした。

「まあ、サービスして1000万というところかな」

 そんなにしねえだろ! 俺がお金を持っていると思ってふっかけてきているな。

「このビルは築30年以上ですよねえ。あちらこちらにガタが来ているし配管も汚れている。それに少しリニューアルも必要だ。500万円がいいところでしょう」

 ジイサンが目をひんむいた。

「何を言ってやがる、この若造が! このビルをいくらで建てたと思ってんだ。1000万だ、1000万。びた一文も負けねえぞ」

 俺を睨みつけているが、それくらいでは動じない。コボルトに比べれば遊びみたいなもの。

「俺が買わなければ、他に買い手はいないんでしょ。藤堂さんに聞いていますよ。ずっと固定資産税を払っていくんですか。大して家賃収入もないのに……」

 前のテナントは夜逃げして、滞納した家賃を踏み倒している。ここはジイサンの足下を見て値切らなければ。

「それに、取り壊して更地にしようと思っても費用は3000万くらいはかかるでしょう」

 口を結んで黙り込むジイサン。もう一押しか。

「まあ、お金はあるし、他の物件を探そうかなあ……」

 ジイサンは顔を曇らせてうつむいた。相手が百戦錬磨のジイサンだろうが何だろうが、お金を持っている人間が強いのだ。

 日本語が分からないトルティアは険悪な空気を読んでハラハラしているよう。いつものように麻美さんは胸の下で腕を組み、ニヤついて俺達の交渉を見物している。

「500万円でいいですよね」

 ニッコリと笑いかけると、ジイサンは苦い顔でうなずいた。

「司法書士は俺の知り合いを使ってくれ」

 つぶやくように言う現オーナー。

 なんだ? ジイサンは自分の手数料を俺に任せるつもりなのかな。まあ、いいか、それくらい。

「オッケーです。よろしくお願いしますね」

 こういった駆け引きもけっこう楽しいと感じる。


 昼過ぎなのに、いつものように薄暗い探偵事務所。そこでビル購入の取引は成立したのだった。


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