第26話、初めての転送
いつものように和服のような白い服装。胸の谷間が強調されているのは本人の意思ではなく、それは民族的な衣装だから。
異世界には、これといった化粧というものが無い。ほとんどすっぴんのトルティアだった。
「では、行きましょうか」
そう言った俺の胸は高鳴っている。いよいよ彼女をオンブする時間が迫ってきているのだ。夢にまで見た、女の子を背負って日本に転送するイベント。大人の階段を上る日だ。
「いいなあ、私も行きたいなあ」
妹のトルチェが指をくわえてこちらを見ている。トルティアのようにボリュームのある少女でも良いが、トルチェのように控えめな体型をしている15歳の女の子をオンブするのも悪くないだろう。
「また今度ね」
よこしまな考えをごまかすように俺は笑って言った。
ヤオジの村にある、異世界の本拠地。レンガ作りの建物の居間に皆が集まっていた。
かねてからトルティアは日本に行きたがっていた。今回、その要望を叶えてあげようとしている。
藤堂さんとしては、日本から持ってくる資材はたくさんあるのだから、トルティアの東京見物など先の先で良いという考えだが、運ぶのは俺だから転送する物は俺が決めるのだ。
「じゃあ、いいですか?」
トルティアは少し恥ずかしそうに聞く。革製の大きなショルダーバッグを肩に掛けていた。
「ええ、どうぞ」
俺はトルティアに背を向けて少しかがんだ。さあ、いよいよだ。
じっと待っていると、俺の背中に柔らかい物が押しつけられた。あれー、女の子の胸って、こんなにホヨホヨしているんだ。
女性の体は軽くて思ったよりも華奢だった。
細い腕が俺の首の回される。彼女は少し力を入れてしがみついていた。ちょっと怖がっているのだろうか。
耳の近くでトルティアの息づかい。良い香りがする。こんなに少女と接近するの初めてのこと。
長沢がニヤついて見ていた。俺が興奮していることを悟られないように平静を装わなければ。
「じゃあ、行きますよ。目をつむってください」
俺が言うと、彼女の腕に力が入る。
さあ、日本に行こう。トルティアと一緒に東京見物だ。初めてのデートだぜ。
……これってデートかなあ。
視界の光りが収束してカメラのシャッターが切れたように黒くなった。
*
藤堂事務所に到着。曇った空から夕日が差し込んでいる。
「トルティアちゃん、いらっしゃい」
出迎えたのは、派手な服を着た麻美さんだった。花柄の服にタイトスカート。黙っていれば良い女なんだけど。
トルティアは俺から離れて、西日に照らされた薄暗い事務所を見まわしている。
「ここが日本なんですか」
「うん、まあ、そうだね」
失望していないと良いのだが。
「私は竹下麻美、22歳です。よろしくね」
そう言って笑顔を見せる守銭奴。
トルティアはきょとんとしている。そうか、日本語は分からないんだよ。
俺が通訳してあげた。
「は、はい。私はヤオジの村から来たトルティアです」
当然、それも通訳してあげなければならない。
「はい、よろしく。では着替えましょうか。その格好じゃ日本では目立ってしまうから」
俺が通訳すると、トルティアは不安げに目線を送ってきたので、俺が大丈夫だよと首を縦に振って安心させる。
「じゃ、じゃあ、よろしくお願いします」
彼女は麻美さんに連れられて更衣室に入っていった。
小一時間ほど待った。
外は暗くなっている。女の支度には時間が必要か。
「お待たせえ」
含み笑いの麻美さんが出てきた。その後ろからトルティアが続く。
俺は息を飲む。そこには今までとは違う彼女が立っていた。
白いワンピースに水色のロングスカート。化粧をした彼女は大人の女性といったような顔だった。女は化粧をすると、こんなにも変わってしまうのか。
今までは女性というよりは娘といったような感じだったが、そこにたたずむのはテレビで見たことがある、若手美人声優の誰かに似ていた。
「どうですか……」
トルティアの質問にどう答えようか。きれいだよと実直にいうか、何か気の利いた比喩を使った方が利口なのか。
「すごく、良いですよ」
あー、こんな台詞しか出てこない。実戦経験の少なさが敗因だ。
それでも彼女は照れくさそうに下を向く。
チクショウ、可愛いなあ。明日から俺は、こんな彼女を連れて町中を歩き回ることができるのだ。これで俺もリア充の仲間入り。
「で、佐藤さん。ちょっと予算オーバーしちゃってさー」
麻美さんが右手でマネーマークを示している。人差し指と親指で丸を作り、予算の追加を催促していた。
「10万円を渡しておいたはずですが」
女の子の洋服とか化粧代はそんなに経費が必要なのだろうか。
「女にはお金をかけなきゃ。こんな良い素材の女の子には特にね」
麻美さんは胸の下で腕を組んでグンと強調している。
曇った俺の顔を見てトルティアが心配しているよう。あまり不安にさせないようにしないと。
「それで、いくらですか?」
ため息とともにたずねる。
「100万円」
笑って小首をかしげる麻美さん。おいおい! ここは突っ込むべきだろう俺は。
「どうして、そんなにするんですか」
「洋服とか下着とか化粧用品とか、その他、ベッドとか、しばらく滞在するのに必要な物は全て買ったから。これからも時々、転送してくるんでしょ」
うーん、それはそうなんだけど。
「それに、私の手数料もね」
麻美さんはニコニコとした顔で何も動じていない。半分くらい搾取つもりじゃないのかなあ。
「分かりましたよ」
俺は4階の自室に行き、小さなバッグを持ってくると中の札束を一つ、麻美さんに渡した。
「毎度、どうもー」
彼女は相撲取りのように、右手でチョンチョンとやってから両手で受け取った。
新キャラのトルチェを登場させました。
テコ入れです。前の話は、少しずつ訂正していきます。




